第49話 似た者同士
「ヨハンナ! EX狩刃に何した!」
(少し眠ってもらっているだけですけど~。それは今のあなたには過ぎた代物なので~)
「こんなの! どうやって! 勝つってんだ!」
繰り出される連撃を勇者の鎧によって強化された視覚でどうにか弾き返しながらヨハンナに向けて怒鳴る。
(できますできます~。お相手の方、おバカそうなので~)
バカなのはわかる。だってデストロイヤーズだもんな。
「いくら俺に『不死身』スキルがあるからってよってたかって来やがって。バカが一人で乗り込んできてくれて助かったぜ」
バカはお前だろ。しかも一人で乗り込んできたのもお前が先だろ。さらに言えばスキルも早々に明かしてるし。
(でもどうする? 確かにこいつはバカっぽいが、本当に不死身ならいくら戦っても勝てないはずだ! EX狩刃が万全だとしても!)
紙一重のところで迫る刃を受け流しながら俺は思案する。
あれ? こいつ弱くない?
だってEX狩刃の自動迎撃や彼女の指示に任せて今まで戦ってきた俺でも対処できてる……よな?
しかも考え事をしながら。
勇者の鎧の五感強化があってのものだけど、現時点での俺とこの不死身男の実力って拮抗してるんじゃないのか?
俺の様子からアランも何か感じ取ったようで俺から距離を取る。
そして俺とアランは同時に同じ台詞を口走った。
「お前、弱いだろ!」
このアランという男、太刀筋からしてもとても霊剣を扱えるレベルの「剣豪」とは思えない。奴自身もそのことはよく知っているはずだ。
そして俺と同じくして自分と同レベルの霊剣使いの存在に違和感を覚えたんだろう。
「まさかさあ。霊剣に憑りつかれたへなちょこ剣士が俺以外にいるとは思わなかったぜなあ。おい、無羅魔佐! いつもの戦法はダメみたいだ。お前も食ってばかりじゃなくて働けよな!」
いや、俺は憑りつかれてないけど。毒剣を振るえる人間が限られてるから力を貸してもらってるというか。
しかしさっきまでの滅多打ちはお決まりの戦法だったらしい。どういうことだ?
アランの横に全身黒いローブを着込んだ痩身の男が出現する。これが敵の霊剣、無羅魔佐とやらの守護精霊?
「……十人分の命は用意できたか?」
「値切っていい?」
「ダメだ」
何かを守護精霊に断られたアランは倒れている兵士たちの姿を指で数えた。七人。
(頭を動かせ、俺! 相手が同格だとするなら勇者の鎧を装備した俺の方が有利なはずだろ!? 多少リスクを取っても攻めるべきだ!)
毒のコントロールができず、垂れる毒液で石畳を溶かしながら勢いよく俺は距離を詰める。
「……侵入時と雑兵たちとの戦闘で二回死亡。あと一人分だ」
「最悪だ……いいじゃねえか一人分くらい。人数に合わせた力を貸してくれっていつもいってるだろ?」
「ダメだ」
何やらアランと霊剣は意見が合致していない様子。敵は俺の勇者の鎧の真価を知らない。途中から急加速をかけてがら空きの胴体に毒剣をぶち込む。
いくら不死身だからって言って戦闘不能に追い込むくらいはできるだろ! そしたら兵士たちに捕縛させて一件落着!
「どうしてお前はいつもいつも融通が効かないんだよ。お前を扱える剣士なんて俺くらいしかいないんだぞ?」
「……お前の腕前に不満があるからだ。おい、敵が来るぞ」
「え……ゴバァ!」
石畳を削る踏み込みで急接近し、俺はアランの胸をEX狩刃で深々と突き刺した。人間の肉を割く俺にとって初めての感触。
毒で汚染された黒い血を吐くアラン。その身体は力を失ったように俺にもたれかかる。
「なん……だその剣……ゴボッ! 死……ぬ……」
「決闘は俺の勝ちだ! 生き返る前にこいつを取り押さえろ!」
俺は兵士たちに告げるとアランからEX狩刃を引き抜く。力無く倒れるアラン。
(わざわざこんなことをさせてヨハンナは何を……?)
「……十人目」
無羅魔佐の守護精霊は無表情のままそう告げた。
「ヨハンナ! 霊剣使いを倒したぞ! みんなと合流させてくれ!」
(甘いですね)
念話によるヨハンナの返事。どういうことだ……?
「らあっ!」
突然アランが跳ね起きると、取り囲んでいた兵士たちが一太刀で斬り伏せられた。
(復活が早い! だとしても今のは!? さっきまでのあいつにそんな力量はなかったはずだろ!?)
「ひっでえ殺し方しやがって……まあいいや、俺の無羅魔佐はスロースターターなんだぜ。吸った命の数だけ強くなる。起動に足りない分は俺の命で補われるって話。最悪だよマジで」
「じゃあさっきのでたらめな打ち込みはわざと殺されて数を稼ぐためだったってことかよ……?」
マズイ。さっきの一撃で敵の霊剣を目覚めさせてしまった。俺のせいで。どうするどうするどうする!?
「俺は別に死にたくないけどな! そうするしかねえし、ロクでもない霊剣だろ?」
俺はアランが無羅魔佐から放つ飛ぶ斬撃をEX狩刃で受け止める。
(こいつ、霊剣と『不死身』が噛み合ってる! スキル頼りだけどシンプルにそれが強い!)
次々と魔力による斬撃を飛ばしながらアランは上機嫌に言葉を紡ぐ。
「俺は頭は悪いし剣術もからっきしだからこれしかやり方がなくってさ。いつもマジで気が乗らないんだわ。だけどここまで持ってこれたら後は暴れるだけだ! やーっとだぜ!」
何となく理解できた。こいつと俺は似てるんだ。
与えられたスキルと相性のいい武器に頼って戦うだけの素人。
「黙ってないで何とか言えって……アヅッ!」
俺は次々と繰り出される斬撃の隙を突いてEX狩刃を振り抜いた。飛び散った毒液がかかり苦悶の声を上げるアラン。
「この戦い、俺はEX狩刃と向き合うための戦いだと理解した。お前には悪いけど死ぬほど死んでもらうぞ」
それまでただ毒液を垂れ流すだけだったEX狩刃の刀身が、俺の意思により毒を纏う。
俺はこいつのことを知っているようで何も知らない。
EX狩刃も俺の大切な仲間だ。だけどただその力に頼っているだけじゃダメなんだ。きっと俺自身がその力を引き出せるようにならないといけないんだ。
「何言ってんだこいつ。人がいい気になってたら急に悟りやがって! 意味わかんねー!」
アランが先ほど斬り伏せた兵士たちの命を吸収した。無羅魔佐の出力が急上昇していくのを感じる。
(どうせ相手は不死身なんだ。死ぬまで殺す。死んでも殺す。好きなだけ俺の練習相手になってもらうぞ!)




