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第48話 破城特別部隊デストロイヤーズ

「『鉄壁グルースレー』は陥落してこそ価値があるのさ。これで僕たちはフェブラウ王国とギュノン帝国の均衡状態を破ることができる……ちょっとしゃべりすぎたかな」


 にこやかに会議室の面々に告げるとエルピスと名乗った男は俺に向かって手を振りながらさらに言った。


「それではまたいつか。鎧の転移者クン?」


「お前、質問に答えろ! 『パンドラ』の目的は!? 結局お前たちは戦争を起こしたいのか!?」


 エルピスは相変わらず微笑むだけで何も答えない。


「答えろ!」


「うーん、いやかな」


 そう言い残すとサメキメラを起点としたワープホールが発生し、エルピスはキメラの死体ごと消え去った。


 同時に兵士たちが会議室になだれ込んでくる。俺とガストンが奴に近づけなかったのと関係があるのか、それまで入ろうとしても入れなかったらしい。


 エルピス……「パンドラ」のリーダーと名乗ったのが真実かはまだわからないが、Aランク冒険者を圧倒する底知れない実力と「向こうの世界」の知識を持つ男。


 俺にだってあいつが只者じゃないことはわかる。


「申し上げます! 東門が何者かの攻撃を受けています!」


 フレデリックの元に兵士の一人が駆け寄る。確かさっき読んでた観光ガイドによると東門って帝国に面した特に重要な門のはずじゃなかったか?


「帝国か? 『パンドラ』か?」


「不明ですが、敵は一人! 既に防壁を超えられています! そして奇妙な剣を所持! おそらく霊剣使いかと!」


「そうか、ご苦労だった。少し休め」


 報告を終えた兵士は床にへたり込むと、ガストンに手渡された水筒で水を飲み始めた。


 敵が一人って……よほどの精鋭が送り込まれたのか? 俺たち「健康剣豪大冒険団」の出る幕はあるのか?


 弱気になるな! 立て続けに負けたからって俺が弱くなったわけじゃないだろ!


 相手は歴戦のAランクだったんだ。俺たちはまだBランクの最下層。勝てる道理がない。実力が伴えば俺だって……!


(でもどうやって? ずっと装備に頼って戦い続けてきた俺が?)


 そんな俺の迷いをかき消すような大声が会議室全体に響き渡る。


 子猫の姿をした衛兵隊長、ポコの声だった。


「ポコちゃんが行く!」


「ダメよ~。あなたには衛兵隊長としての責務があるでしょう? あなたがいないと部下……『家来』のみんなが困ってしまうのよ?」


 ヨハンナがポコをたしなめる。


「でもでもでもでも!」


 だがポコも一歩も引かない。でも敵は一人なんだろ? 暴力が猫の形をしたみたいなこいつなら撃退できるんじゃないか?


「霊剣使いならこちらにもいるでしょ~? 聖剣EX狩刃(エクスカリバー)の所有者、ケントさんが。彼に相手をしてもらいましょう?」


 あ……え? 俺?


「敵が霊剣使いとなれば並みの武器では相手になるまい。霊剣には霊剣を。そして敵が一人なら最小限の戦力で対応したい。頼めるか、ケントくん」


 と、フレデリック。


 そういうセオリーがあるの!? 初めて聞いたんだけど。一人は怖いから仲間かガストンくらいは付けてほしいな。


「行けます」


 言ってない言ってない! 口が勝手に動いた! なんで!?


「なら今から東門に繋がるワープホールを開くわ~。がんばって頂戴ね~」


 俺の足は意思に反して眼前に出現したワープホールに向かって歩き出す。


「ちょっとケント!? 何してるんですか!? 私たちも行きますって!」


 フィーナたちが慌てて俺に付いて来ようとする。


(ケントさん、念話で失礼しますね~。突然ですけど強くなりたいですか~? それならこのまま敵の霊剣使いと戦って下さ~い)


 ヨハンナの声。耳越しではなく直接意識に語りかけられているような違和感。こいつ、なんでもありか。


 ただそれは俺の心の迷いを感じ取った上でしている提案に思えた。


(……嘘じゃないんだな?)


 それに対して俺も念じて返事をする。多分ヨハンナに聞こえているはずだ。


(こんな場面で嘘なんて~。この先のあなたの旅路は装備に頼り切ったままでは仲間の足を引っ張るだけです。彼女たちの才能は凄まじいですから~。嫌でしょう? そんなこと~)


 耳が痛い。いや、耳から聞いてるわけじゃないけど。


(じゃあどうすればいいんだ?)


(簡単なことです~。迷いを自ら断ち切って霊剣使いと戦うんです。適宜アドバイスをしますので~。それだけで強くなれますよ~)


 本当に? なんだかとんでもないスパルタをやらされる気がする。


 でも……


「……みんな、大丈夫だ。俺一人でやる。だって勇者の鎧にEX狩刃(エクスカリバー)が付いてるんだぜ。やってやるよ!」


「先ほどの鎧の軍勢も投入されるだろう。残りの『健康剣豪大冒険団』の諸君にはそれらの対処をお願いしたい」


 フレデリックからも言われ、フィーナたちは渋々と引き下がった。


「無事に帰ってきてくださいね、ケント!」


「ああ!」


 それはヨハンナ次第だけどなあ。でもやると決めたらやるしかない、俺だって一日に三度も負けて平気でいられるほど腑抜けちゃいないんだよ!




 覚悟を胸にワープホールを抜けると俺は目の前に広がる光景に驚愕する。


 血を流し倒れる兵士たち。そして兵士たちの槍に貫かれ、城壁に縫い留められるように立ち尽くす男。


 死んどるやんけ。敵が。刀持ってるし。


 こいつ報告にあった霊剣使いだよね?


「……いってえええ~! 死ぬ死ぬ死ぬ! 流石にこれは俺でも死ぬ!」


 どう見ても死んでいるはずの男が突然叫びだし俺は一歩後ずさる。


「らあっ!」


 男は手にした刀で自身を貫く無数の槍を両断し、苦しそうに身体に残った槍を引き抜く。


「お前らマジでふざけんなよ……!」


 無数の折れた槍、倒れた兵士。きっとこの攻防は一度目ではないはずだ。


「全員下がれ! 俺がやる!」


 またも口が勝手に動いた。ヨハンナの魔術だ。手合わせしたときに何かしやがったな。


「ハア……お前剣士か? まだこっちの方がいいわ。槍は長いからな。チクチクいってえし」


 さっきまで槍に貫かれていた傷はすっかりと癒えたようで、傷跡一つ残らない腹部をパンと手で打つと日本刀のような形状の霊剣を突き出す。


 剣を突き出すのは確か決闘の合図だったはずだ。「無羅魔佐」と「刃命」の刻まれた霊剣。


 ムラマサ? 村正ならそのままでよくない?


「誓え! 一対一で俺と戦え! 雑兵は近づかせんなよ!」


 再生能力のスキルかわからないが、総攻撃をかけて再起不能にした方がよくないか?


(ダメです。あなたを鍛えるために前線に送り出したことをお忘れなく~)


 ヨハンナに操られた俺の腕がEX狩刃(エクスカリバー)を突き出し、決闘の了承を意思表示する。


「破城特別部隊デストロイヤーズ! 先鋒『不死身のアラン』! 推して参る!」


 なんだそりゃ。デストロイヤーズって。それに自分で不死身って明かしてるよ。


 バカじゃん。こいつ。不死身なら精々毒で痛めつけてやるか。


 だが、振り下ろされた剣を弾こうとして俺は初めて気付いた。EX狩刃(エクスカリバー)の気配がない。当然自動迎撃も行われない。


 嘘だろ。自分の力で剣を振るうなんて初めてだ。


(不死身対素人の戦いかよ……! 俺の方が圧倒的に不利じゃねーか!)


 この地獄のような一日はまだ終わりそうになかった。

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