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第44話 あらあら系女傑

「執政官テオドール! 貴様を敵対勢力と内通した罪で逮捕する!」


 衛兵たちに続き、俺はヨハンナと共にテオドールとやらの私室に乗り込む。


 それなりに腕に自信はあるのか、テオドールは衛兵相手に剣を抜いていたがAランク冒険者のヨハンナを目にするとへたり込んでしまう。そりゃそうだ。勇者の鎧装備の俺でもAランク相手に一日に二度もボコされてるんだから。


 みんなに助けてもらったけど一生許さんからなあの猫……!


「リュカのやつ、何故こんなタイミングで行動を起こした……!? クソ……!」


 ジュリアン王子の言っていたグルースレーの「パンドラ」内通者ってこいつのことだったのか。これで問題解決、褒賞千二百万ゼドル……とはいかないらしい。


 グルースレーには十人の執政官がいて、今しょっぴかれているテオドールさんはその内の一人。


 その十人の執政官は対帝国策を巡って二つの派閥に分かれているとか。


 で、反領主側勢力のこいつにはまだ「パンドラ」の仲間がいるんじゃないかと。


 さらに、執政官同士の対立だけでも実は穏やかでない領域に到達してるらしい。ユーステスが帰郷したのはそれを諫めるつもりなんだって。


 さっきから伝聞ばっかりじゃねえか。


 そもそも何で俺がその確保の現場にいるのかってとこからだよ。ヨハンナ曰く「見栄え」らしい。何じゃそりゃ。


 無事テオドールを衛兵たちが邸宅から運び出すと、ヨハンナは俺を呼び止めた。


「私のフルンティングを折ったこと、まだ許していませんから~。グルースレーの動乱を解決するまで当分ここから逃がすつもりはありませんよ~」


「何で? フルンティングってあいつの剣だったじゃんか。ユーステスの。その割には守護精霊は薄かったけど……あ」


 もしかしてだけど、元々あのゴリマッチョを侍らせてたのってヨハンナ!?


 ゴリマッチョの守護精霊だったよねえ。確か!?


 え? でも霊剣って「剣豪」スキルの保持者かそのレベルの使い手じゃないと扱えないんじゃないの?


「道理であの程度の毒なんかで折れちまうわけだ。まあ元々? 見た目に似合わない器用貧乏な霊剣だったしなあ」


 EX狩刃(エクスカリバー)が突如として褐色の肌を露わにしたビキニアーマー姿で現れる。その人、底が知れないところがあるんであんまり煽らないでくださ……


「いイ!?」


 俺の喉元に剣先が突き付けられていた。どこから剣が出てきたんだよ!


「万能な霊剣だと言いなさい、毒剣の守護精霊。フルンティングのことを侮辱されては剣士としての矜持に傷がつきます。主の命が惜しければ引っ込んでいるのが得策ですよ」


 目を見開き普段の口調はどこへやら。なんかキレちゃったヨハンナに不服そうな顔をしてEX狩刃(エクスカリバー)が消える。状況を悪くするだけして消えるのやめてください。俺も消えたい。


 ヨハンナの剣をよく見ると柄がさっきまで持っていた杖のやつだ。仕込み杖ってやつ? それをEX狩刃(エクスカリバー)の自動迎撃をかいくぐって抜いたの? マジ!?


「うちのEX狩刃(エクスカリバー)が失礼致しましたあ!!」


 頭を下げようにも喉元に切先があるので下手に動けない。何故なら兜の隙間を的確に狙っているからだ。


「な〜んて、なれないことをしたものだわ〜。昔剣士志望だったこともあったのよ~」


 剣を収めるヨハンナ。


 嘘言うな。Aランクの魔術士、Bランクの治療士(ヒーラー)、そして推定「剣豪」の剣士。


 一体何者だよ。名前すら、見た目すら偽ってるんじゃないだろうな。


「フルンティングは元々私の剣でした。ですが坊ちゃんがようやく霊剣を扱える実力を身につけたので祝いにプレゼントしたのです。坊ちゃんが幼い時期から冒険の合間を縫って剣術を仕込んだのは私ですから~」


「え? だってユーステスって俺とタメくらいだろ? じゃあヨハンナがユーステスのちょい上くらいに見えるのっておかしくな……イい!?」


 今後は俺の首筋に仕込み杖が当てがわれる。ヨハンナの気分次第では俺の兜ごと斬り飛ばせるということか。いくらなんでもそんなことはないだろ? ないよね?


「あらあら~いいのかしら~。でも私としたことが口を滑らせてしまったわ〜。刃を滑らせてしまわないためにもこの件はシーッできるかしら~?」


「シーッできまーす!」


 再び剣を収めるヨハンナ。マジで怖いよ。フィーナみたいに場を乱す存在が欲しい。城に置いてこなければよかった。


「まあいいわ〜。フルンティングはドワーフの文字でこう書くの〜。本来の実力を坊ちゃんが引き出せていればあそこまで一方的な戦いになっていなかったはずよ~」


 仕込み杖で壁にカリカリと「布留帝具」と刻むヨハンナ。


 確かユーステスが見せつけてきた時は「Hrunting」表記だったはずだ。使い込みで文字が変わるのか?


 で? それで? グルースレーの危機とやらの最中に何でこんなことを?


「そうそう。話が逸れたわ〜。これから始まる戦いに備えてあなたの腕前を確かめておこうと思って〜。ねえ、『健康剣豪』さん?」


「へ、へえ。Aランク冒険者が直々に俺の腕試しをしてくれるわけだ。そりゃあ光栄に思うべきなのかな?」


 ヨハンナは後ろに下がり、腕を垂らし自然体で立っている。


「いつでもどうぞ~」


「しゃあっ!」


 ヨハンナの実力はその身で実感した。そしてAランク冒険者は本気でかからないといけない相手だとあの猫にボコされてよく理解した。


 目指すは先手必勝。だがあの神速の抜刀術。打ち合いに持ち込まれるのは必然だろう。


 だが仕込み杖は強度が弱いとか昔ネットに書いてあった。全身装備頼りの俺が言うのもどうかと思うが、装備も実力のうちだ!


 振り上げられたEX狩刃(エクスカリバー)に対してヨハンナは何もしなかった。


 反応できてないわけではない。あえて何もしていないように。


「違う!」


 俺は反射的にそう叫ぶと咄嗟に足元にこぼした毒液で床を濡らし、百八十度回転する。


 ヨハンナの本業を忘れていた。あれは幻影か何かだ。


「まあ及第点といったところでしょうか~?」


 目の前に迫る仕込み杖を叩き落とす。


「これも違う!」


 そう。眼前の仕込み杖は投げ付けられたもので、気付くとヨハンナの姿はどこにも無い。


 すると背後から抱きしめられるように鎧に触れられる。その力は強くない。何のつもりだ!?


【妨害】(インターセプト)


(機能維持へ……の、介入を検知……機能を……停止……しま……す……)


 勇者の鎧の人工精霊の声が聞こえなくなり、全身が重く動けなくなる。


 やられた! 妨害魔法で機能停止したこいつは鉄くず同然。逆に俺の動きを邪魔する枷にしかならない。俺は必死に身体を動かして背後のヨハンナを圧し潰そうとする。


「遅い」


 倒れたのは俺だけだった。そして俺がいつの間にか俺が取り落としていたEX狩刃(エクスカリバー)を「剣豪」レベルの実力で屈服させ、鎧の心臓部に突き付ける。


「ワリい。文句はこいつに言えよな」


 EX狩刃(エクスカリバー)の声。時間にして妨害魔法の効果は五秒ほど。だがその五秒が決定打になった。


 俺はその日、三度負けた。

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