第37話 あらあら系治療士再び
「あたしを! 戦い以外で使うな!」
俺は森を行く馬車の屋上にしがみ付いた姿勢で迫りくる木の枝をEX狩刃の自動迎撃で切り落としていく。そしてEX狩刃がチャンネー形態で馬車の屋上に立ち、俺を怒鳴りつける。
「お前みたいに木の方がすり抜けていくわけじゃないんだよ! 許せ!」
「話してないでちゃんとやってくださいよおお! 今頭をかすめましたよおお!」
俺とフィーナ。馬車に乗り切らなかった二人。俺は鎧が邪魔だから。フィーナは投票で決まった。フィーナに関しては日頃の行いってやつだね。あと生存能力が高そう。
これから向かう都市グルースレー。それは「城塞都市」とも呼ばれ、隣接するギュノン帝国に対する防衛拠点と聞いた。
俺たちの馬車が吹き飛ばされる前にモニカから聞いた話だと、フェブラウ王国の要衝は今まで訪れてきたような田舎とは違い、名家により代々受け継がれて統治され日々発展を遂げているとか。
かつてのベルゼスンのパスカルやガレセアのルドルフのような小領主も由緒ある家柄だそうだが、どの程度の領地を持っているかはほぼほぼかつての魔王戦における先祖の働きによるのがこの国のやり方だそうだ。なんか江戸時代みたい。
王都の近くにあるという二つの街が小規模な田舎街だったのはそういう理由があるらしい。パスカルとルドルフの先祖は戦後評価されなかったのだろうか。
そうするとルドルフが「パンドラ」と手を組んでいたのは成り上がり思考からなのか?
フィーナ、ルドルフ、エミリー。成り上がり志望ばっかりかこの国は。
フィーナの悲鳴を無視し、勝手に動く右腕に全てを任せフェブラウのあり方を反芻する。知識として定着させないといつ転移者バレするかわからないからね。
馬車がスピードを緩める。休憩の時間だろうか。
「次はモニカが上に乗るように言ってくださいよ! めちゃくちゃ怖いんですから!」
「フィーナはほら、モニカより薄いから」
無言で兜を殴られる。フィーナの方が痛いはずなのに。
「おい。前方に死体だ。どけるぞ」
馬車から降りてきたユーステスが屋根上の俺に声をかける。フィーナは膝を抱えて屋根の上から動こうとしないので俺だけ降りた。
「よくあることなのか?」
「そんなわけあるか。ただの行き倒れじゃなけりゃあ身元を確かめないといけない。うちの領民かもしれないしな」
え……うちの領民? 異世界お江戸理論に基づくとグルースレーの領主関係? お前相当偉いじゃん。
「ユーステス。お前ってもしかして……お偉いさんとこのボンボン?」
「あらあら~今まで知らなかったのかしら~」
出たよ。あらあら口調の元「緋色の夜明け団」の治療士。
暴走したフィーナとモニカを鎮圧するのにも協力してもらった。
なんでこいつだけユーステスに同伴しているんだろう。男女の……そういう関係?
「今までのこと謝っといた方がいいかなあ?」
「そうすることをおすすめするわ~」
俺たちを無視してユーステスがうつ伏せの死体をひっくり返し身元を確認する。
「グルースレー管轄の冒険者だな。B6ランク、弱くはないし戦闘の痕跡もない。おかしいと思わないか?」
「他のパーティメンバーは何をしていたかってことか?」
「裏切り、かしら〜。それもスキル絡みの」
ヨハンナと名乗った治療士は心臓を抉られた死体に物怖じすることなく冷静に分析する。
何の話だか全然わっかんない。
「ルドルフと戦ってから色々調べた。奴ら『パンドラ』はスキルを奪う際に心臓を抜き取って殺すそうだ」
「彼ら専用の魔術によって具現化したスキルは水晶のような形を成すそうよ~」
二人の台詞にいい加減うんざりしてきた。また「パンドラ」か。
どうなってんだこの国。
「じゃあこの辺にまだ『パンドラ』がいるかもしれないってことか?」
「そういうことだ。こいつには悪いが身分証だけ回収してすぐに発つぞ」
その前に聞きたいことが一つだけあった。戦士と魔術士がいなくて治療士だけがこの場にいる理由。
「お二人はどういったご関係で?」
「上司と部下だ」
「お坊ちゃんとお目付け役で~す」
お目付け役って。
一緒に犯罪組織に所属してたじゃねーか。
「あらあら〜疑ってますねえ。誰のヒントでそこかしこで『パンドラ』『パンドラ』連呼する作戦ができたと思ってます~?」
なんかもう昔のことみたいに感じるけどそんなんだった。ガレセアの銀行や領主の前で「パンドラ」の名前を連呼して相手に先手を打たせる強引な手を使ったんだった。懐かしいねえ。
で、誰のヒントだったっけ?
「ピンと来ていませんね~。じゃああの時と一語一句同じで言いますよ~『でも一度だけ、組織の名前を聞いたことがあるのよ~パンドラって言ったかしら~』」
ああ〜そういえば。あの忌々しい「パンドラ」の名前の初出ってそこだったか……ん?
「じゃあ何で一人だけ『パンドラ』のことを知ってたの?」
「あらあら〜? わかりませんか~? 坊ちゃんとの関係も嘘。経歴も嘘。身分も嘘で塗り固めてフェブラウの『パンドラ』の動きを探っていたんです。特にガレセアの周囲は怪しい動きが多かったので~」
え。モブっぽいからあんまり気に留めてなかったから顔も薄っすらとしか覚えてなかったけど、スパイだったの? ヨハンナはニコニコと糸目をさらに細めながら続ける。
「こう見えてもグルースレー領主お抱えのAランク魔術士なんですよ〜。戦闘力はほとんどないのと魔術士ちゃんを守るために教会に残りましたけど~」
え。じゃああの時の決闘は? 粋がって一人で戦ったけど本当なら負けてた?
「もちろんあの決闘もあなた一人に負けるということはありませんでしたから〜。あのエルフの方も参戦するとなれば話は別ですけど~」
え。確か前はBランク治療士だったはずだよな? Aランク魔術士とBランク治療士の両刀なの? 天才かな?
「もういいだろ。俺は『霊剣』同士の戦いでこいつに負けたんだ。それでだけだ」
ユーステス。潔いいいい!
俺。恥ずかしいいい!
たまにあの時の決闘のこと思い出して気持ちよくなってたからね。寝る前とかあ!
しかも土下座してたけど普通に俺を倒せたんかい!
俺の負けじゃん! 土下座しながら実は俺のことを笑ってたんだろおおおお!?
「坊ちゃんがそうおっしゃるなら~この程度で~」
その笑顔。その台詞。ちょっと勝ち誇ってるだろ。負けたの根に持ってたろ。おい。
再び馬車の屋根で輸送される俺だったが、とっくに「パンドラ」のことなど忘れて「緋色の夜明け団」戦の真実を噛みしめる。
屋根の上の隣でフィーナは寝ている。そんなことが消し飛ぶほどの衝撃だった。




