第35話 フィーナとクロエ、二人のエルフ
「結局そのおふざけエルフと王族にもコネクションもある私、どちらを取るんですか?」
「あー! 今悪口言いましたー! いけないんだー! こんな性悪エルフと組むなんてダメですよー!」
性悪ってなあ。どの口が言うんだ。
宿屋の食堂で朝食を食べているとどこから入って来たのか、エリーゼ軍の参謀を務めていた薄い緑髪のエルフ、クロエが突然現れた。
開口一番自分かフィーナのどちらに付いてくるか選べと言う。
エルフというものは基本的に任務以外で里から出ることのない閉じた種族であると聞く。なので世にも珍しい「両手に花」ならぬ「両手にエルフ」を現在進行形でかましてしまっている俺。
いや、見た目だけなら本当に花なんだけど。性格がちょっとねえ。ちょっとか?
あとハゲは飯食ってるふりしてチラチラこっち見んな。バレてんぞ。
「事実を言って何が悪いんですか。私は外界で指名手配されて里を追放されるエルフなんてエルフと認めません。恥です」
おっしゃる通り。
「クロエなんか戦いが始まるとすぐ隠れるんですからー! ダメですよケント! こんなのと組んだら戦闘は全部押し付けられますからね!」
これも言い分として正しい。どうしたもんか。
「純粋な疑問なんだけど、クロエがフィーナに代わって『勇者の鎧』から俺を解放してくれる理由ってなんなの?」
「そ、それは……フィーナのような信用できない者に『勇者の鎧』を預けてなどおけないからです! そうですよ!」
クロエからは歯切れの悪い返答。そしてフィーナが追い打ちをかける。
「うーそーでーすー! クロエは手柄が欲しいんですよ! 『聖遺物』回収の手柄をー! 王族と組むくらいですし元々出世欲が強いんですよ、クロエは」
何それ。あとお前が言うな。と返そうとすると詳細をフィーナがまくし立てる。
「魔王討伐のために元祖勇者が率いた伝説のパーティ! 各々が単独で国家の武力に匹敵すると言われたその力を成立させたこれまた伝説の武具! それが『聖遺物』です!」
負けじとクロエも補足を始める。
「まあ魔王が対決の直前に転移してしまったので、真価を発揮することがないものもあったのですが。ただその魔王が転移する際の時空の歪みに飲まれ、散逸した究極の武具。それをエルフが回収しようと言うわけです。目的は言わずともわかるでしょう?」
「世界征服?」
悪いが普段のフィーナを見てるとそういう発想にしか至らん。仮にフィーナの感性がエルフの一般的感覚だとして、そんな伝説の武具を集めてすることなんて戦争しか思い浮かばない。
「そんなわけないでしょう! 人間がその強大な武具を戦争に用いることのないようにエルフがそれを管理しようというのです! あなたはエルフを何だと思っているのですか!」
「こういうの」
フィーナはわざとらしく口元に人差し指を当てて小首を傾げる。いいから一々そういうの挟まんでも。
「わかりました。私はそう言われてまで助力を乞うほど落ちぶれていません! 『勇者の鎧』は『霊槌』を回収してからでも十分です。どうせあなた方の悪名は勝手に耳に入ってくるでしょうから! 失礼します!」
めちゃくちゃ怒らせてしまった。多分フィーナって追放以前にも里で相当やらかしてるだろ。じゃなきゃフィーナ扱いが侮辱同然の意味にならないって。本人はドヤ顔してるけど。
あ、ハゲがクロエを追いかけていった。ああいうキツめなのがいいのか?
でも俺は二人に手を伸ばされた時に決めたんだ。フィーナと共に歩むと。
フィーナにちゃんと借金を返させると。
そう心に誓っていると宿屋のドアが開く。ハゲだろうか。
「おはよう。僕と違って大手柄だね『健康剣豪』」
嫌味と共に現れたのはアリウスだった。アリウスの宿敵っぽいジークに堕印奴隷という最大の武器を与えてしまった以上こちらも強気に出にくい。気まずい。
「勘違いしないでくれ。僕は堕印奴隷のことで君たちを咎めに来たんじゃない」
「……じゃあ何の用だ? 俺たちに別れの挨拶を言いに来たわけじゃなさそうだけど」
するとアリウスは苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「ジークは僕が殺す。だがその上であの面倒な鎧の群れのことを知りたい。今後の障害となるなら少しでも情報を仕入れておきたいからね」
「じゃあ情報提供料を……」
いつものように食いつくフィーナを片手で制する。そもそもジークが強くなったのは俺たちに責任がある。それさえなければアリウスはあの危険人物を排除していたかもしれない。
「『パンドラ』のリュカってメンバーだ。スキルで何体か同時に操れるみたいらしいが上限はわからない。一体は俺が溶かして倒したけど中身がないから鎧ごと破壊するしか対抗策は思いつかない」
「溶かす? まあいい。だが奴は想定外の事実に対応し切れていなかった。予想していない事態に弱いのかもしれないな……次は負けない」
それだけ言うとアリウスはフィーナに金貨一枚を放ると食堂を後にした。アリウスはエリーゼの提案に乗ったのだろうか。
「あの人、いい人ですよね!」
「ええ……? 怖くない?」
「全然!」
そうなんだ。あいつがたまに発する殺気で俺はチビりそうになるんだけど。
エリーゼの用意した馬車に繋がれた馬は特別な調教がされた馬で「転生者基本ギフト」の「乗馬」程度でもどうにかなるらしい。
なので俺、フィーナ、モニカと交代で御者役をやることにした。俺とモニカが知らない人がいると無言になるタイプなのと、やはり御者に高額の報酬を支払わなければならないからだ。
「少しでも節約して借金返済ですね! 私のウルテク運転術を体感してください!」
お前が言うな。あとやめろ。
「じゃあ行くか、グルースレーに」
「ああ、すみません。待ってください!」
俺たちを呼び止めるのは青髪の王子ジュリアン。
「馬上から失礼します。どういった御用です?」
「大したことではありません。ただ『先輩』に挨拶をしておきたくて」
先輩? 王族の先輩になるようなことなんかしてないぞ。何かの間違いじゃないのか?
「ケントさんは元々病弱だったとそちらのフィーナさんにお聞きしました。しかし後天的に目覚めたスキルで今回の作戦の功労者になるほどの冒険者になれたとか! 僕も見習いたいですよ!」
後天的にスキルに目覚めるって普通にあるの? 俺も「パンドラ」だと思われないよな? まあ言い方的にあるんだろうね。
「そ、そうですか? まあ王子も今回の一件で体質を克服されたと聞きます。ただ、そういう意味では一つだけ忠告があります」
俺が「健康体」スキルを得て思ったこと。それは……。
「本来の自分の力を過信し過ぎないことです。体質が改善して以前以上の力が発揮できるようになってもそれだけでは対応し切れないこともあるでしょうから」
「なるほど……冒険者の方ならではの知見というわけですね! ご忠告痛み入ります」
いいや、フィーナやモニカ、エミリーと接しての経験談だ。武力だけじゃどうにもならん人たちっているからねえ。
そうしてジュリアンに見送られると俺たち「健康剣豪大冒険団」はザオバを後にした。




