第32話 第四王位継承者ジュリアン
「ケント、まだ怒ってますか……?」
「もう怒り疲れた。心配かけて悪かった」
「あいつらに怒るのは仕方ないとして、怖かったです。普通に。今まで詐欺った……怒られた人にもあんなに怒った人はいませんでしたから」
フィーナはまだ話していて少し気まずそう。でも今詐欺って言わなかった?
だが今まで割りとなんでも流されがちだった俺があそこまで怒ったこと自体初めてだった。だから衝動のままに動いたのは本当に申し訳ないと思う。見ている方も驚いただろう。
「これを機にフィーナも言動を改めなさいよ。脱がされるわよ」
エミリーが半笑いでフィーナに言う。この娘、どこか達観したところがある。子どもの身でBランクまでのし上がる過程で色々あったのだろうか。
というか何故俺がヘレナを脱がそうとしていたことを知っているのか。
もしかしてクロエの魔術で俺たちの状況は筒抜けだったのか。
恥ずかしい。
モニカなんか岩陰に隠れている。脱がさないから。大丈夫だから。
「『緋色の夜明け団』の一件といい、ケントさんは他人の服を溶かす趣味があるのですか? それなら私もクレイグさんみたいに耐毒の鎧を買おうと思います……」
「大丈夫です! ケントが脱がすのは悪人だけのはずです!」
それも違うから。いや、深層意識にそういう自分がいるのか? なんか自分が怖くなってきたぞ。急募。スキル「カウンセリング」をお持ちの方。
「お取込み中のところ悪いがね。こっちの状況を把握しといてくれ。正直なところこの依頼、想像以上に厄介だ」
大剣を担いだルーカスが催促する。彼の背後には「覇者の鎧」に似た鎧がいくつも転がっている。ルドルフやリュカの鎧のような装飾はなく、デザインが簡略化された量産品といった印象。
「全員斬った。病人でもなさそうだったしな」
血だまりの中に倒れる鎧を着込んだ人物たち。
「病人に紛れてたと思ったらいきなり全身を鎧が覆ってた。『霊剣』が解放されるみたいにな。『闘士の鎧』だとか言ってたぜ。こりゃあ厄介だよなあ」
「待ってくれよ。斬ったって、どこを?」
ルーカスは斬ったと言うが、出血量の割りには鎧たちは五体無事で気絶しているようにも見える。何だかいきなり起き上がってくるんじゃないかと不安になる。逆に手足が散らばってても引くけど。
「いい加減、お前さん方にも俺のスキルについても話しておくか。お前さんは鎧だからちょうどいいな。手、出してみろ」
手品の披露みたいな感覚でスキルを開示するんだなあ。この人は。
言われた通りに手を出すとルーカスの指が鎧を通り抜け、俺の手に直接触れた。
「うわっ」
「ははは、これ『透過』って言うんだぜ。俺の大剣は『霊剣』には程遠いポンコツだが、『透過』で鎧に滑り込んで中身だけ斬りゃあいい……いてえ!」
すると大剣を担いだルーカスの手が操られたように動き、頭をはたくように殴った。
「この悪ガキが! いっちょ前に『霊剣』ぶるならさっさと目覚めろ!」
守護精霊こそいないものの、ルーカスの大剣は意思を持っているようだ。EX狩刃にもこういう時期があったんだろうか。
それに聖剣時代のお堅かったというEX狩刃というのも見てみたい。大学デビューする学生みたいに毒剣デビュー前は地味子だったら面白いと思う。
「お戯れはその程度に。外に配置しておいた精霊からの情報です。アリウスが敗北しました」
クロエの一言に戦慄が走る。エリーゼ軍で最も有能な冒険者枠だったアリウスが負けた? まさかジークに?
「すぐさま精霊の座標に皆さんを転移させます。アリウスを失うわけにはいきません。心のご準備を」
有無を言わさずクロエが俺たちを転移させた。距離が短いせいか浮遊感も短い。
視界に入ったのは「覇者の鎧」たちに囲まれたアリウス。アリウスは立ち上がろうともがいているが鎧たちが強引に押さえつける。それ以外にも複数の構成員に囲まれている。
「話が違うぜ。『霊剣』使いとは自由に戦らせる。それが俺が『パンドラ』で働く俺の対価だ。知らないとは言わせん」
ジークに対して三人の「覇者の鎧」がそれぞれ答える。
「そうおっしゃられてもねえ。あなたはこの男に時間をかけすぎました」
「この『キャンプ』がエリーゼに見つかること自体は些事に過ぎません」
「僕はただレアスキル保持者の脱落防止に勤しむことが責務ですからね」
全員が同じ声。あのタマなし野郎リュカの声だ。
四つ子の鎧でもなければ何らかのスキルによって操られているのだろう。四つ子鎧だったらどうしよう。
そしてリュカたちは声を揃えて宣言する。
「作戦を第二段階へ移行します!」
ちょうど敵軍を一掃したエリーゼ軍の本隊が洞窟付近に到着したタイミングだ。
「百年に一度とも言われる魔術の素養を持ちつつ、その病弱な身からその才能を埋もれさせていた第四王位継承者ジュリアン。開花した彼が自らの姉を討ち、いずれ王位を簒奪する物語をご覧ください」
護衛の『パンドラ』構成員と共に、ワープホールから青を基調とした鎧に身を包んだ少年が現れる。病弱と言われるだけあって顔は青白い。その顔色を際立たせるように髪の色は青だ。
確かに凄まじい魔力を感じる。俺じゃなくて鎧のそういう機能がね。
「『パンドラ』に与えられたスキルのおかげで随分と良くなったよ。姉さん」
「ジュリアン……あなたは……」
なるほど、あのジュリアンが「パンドラ」に肩入れしている王族で敵なんだな。
「成し遂げたのですね」
んん? エリーゼの表情は明るい。なんで?
「潜入は簡単だったよ。おかげで『パンドラ』に通じてる領主たちを一掃できる」
まさか……まさか……全部茶番!?
そのジュリアンくんってスパイだったの!?
「そんな」
「まさか」
「なんで」
リュカたちは意思の制御ができなくなったようでバラバラにしゃべり始める。
「そういうことかよ。俺たちみたいな悪趣味集団なら姉弟で殺し合わせるとバレバレだったわけだ。そしてそれをジュリアンの身柄を回収するチャンスだと踏んだ上での拠点……『キャンプ』への強行軍だったと。残念だが俺たちの負けだな」
ジークだけが状況を全て理解できているようで、混乱するリュカの一人に言い聞かせている。
感動の再会みたいになってるけど俺その人のこと一ミリも知らんからね! 共感できんからね!
なぜかフィーナは涙ぐんでいる。どういう感情?
何にでも過剰に反応するモニカですらどこか遠くを見ている。
作戦の「第二段階」とやらの失敗を悟った『パンドラ』構成員が離脱していく。ジークもだ。あいつからは堕印奴隷を取り返したかったのに。
はあ。あのーすみません。報奨金をもらって帰ってもいいでしょうか。




