第30話 敵拠点突入!
普段「ヘレシー」や「パンドラ」のメンバーはワープホールを利用して出入りしているらしく、洞窟内部は非常に狭かった。
幅が狭い場所になると鎧を着込んだ俺とクレイグは壁を削りながら進むことになる始末。
「あー今誰か私のお尻触りましたー! 誰ですかー!?」
「わたしよ。さっさと進んでちょうだいって意味で押したの」
「あー生意気なチビっ子!」
緊張感がない。大体「白騎士冒険団」のせいだ。というか最近「健康剣豪」と呼ばれることが増えたけどその辺はどうなるんだ。
あー、後先考えずに名前を考えたフィーナが悪い。それを適当に承認した俺も悪い。
元々は「昏き紫水の探索者」とか考えてたのになあ……カッコよくない?
「ひいっ! 今水が垂れて来ました! 毒かもしれません!」
後方からモニカの小さい悲鳴が聞こえる。
「あーはいはい。手でも繋ぐ? 毒なら無効化できるけど」
「婚前の男女が手を繋ぐのは、その......結構ですー!」
なんか最近モニカに避けられてる気がするなあ。何で? 依頼受注のときにお手々繋いで以来なんだけど。
対照的に「リスクジャンキー」の面々は落ち着いているので少し恥ずかしい。最短でBランクまですっ飛ばした俺たちとは違って歴戦の戦士といった風格を感じる。
「ったく狭いなあ。あいつらこんなとこ通って出入りすんの? 俺は嫌だね」
「バカね。ヴァンは「パンドラ』がワープホールで転移していたのを見ていなかったの? それに簡単には脱出できない構造にしているんじゃないかしら?」
向こうにもおバカ枠はいるらしくて少し安心。いや、こっちは全員が訳ありみたいなもんだからトータルでは負けてるんだけどさ。
「じゃあさあ『ヘレシー』の連中は閉じ込められてるわけ? 好きで異端なんかに入ったのに」
「『パンドラ』か『ヘレシー』かは知らないけど、ここは新兵やその候補を閉じ込めておく拠点なんじゃないかしら。元から『ヘレシー』思想の人間もいるかもしれないけどね。第一陣の病人みたいにスキルで釣った人間がほとんどなんじゃない?」
メリッサの冷静な解説に俺は思わず納得してしまう。でも一応リーダーとしての威厳もあるし、エリーゼ王女とかアリウスと話す時は知ったかぶろっと。
「おいおいおい。旅行気分はやめてくれよ? 今から敵地のど真ん中に乗り込むんだからなあ。それに外じゃヤバそうな『霊剣』持ちが暴れてるんだ。頼むぜ」
最後尾のルーカスが苦言を呈す。両チームのリーダーのどちらが殿になるか協議したが、鎧の関係で自由に動けない可能性のある俺は最悪壁として前方に。ルーカスが後方となった。
彼も大剣という武器を扱う以上、閉所は問題ではないか尋ねてみたが「大丈夫」らしい。
しばらく進むと段々通路が広がり、前方に明かりが見えてくる。
通路を抜けると天然のものとは思えない大きな空間が広がっている。その空間を見て俺は絶句した。
開けた空間にではない。地べたに敷かれたボロ布に寝転がる病人たちとそれを看病する者たち。
おそらく今横になっている病人たちはここに来た時点であれほどまでの病状ではなかったはずだ。ここに連れて来られ病状を改善するスキルを待つ間、劣悪な環境の中で徐々に弱っていったのだろう。
怒りのあまり拳を洞窟の壁に叩きつけてしまう俺。そして壁にめり込んだ拳を力任せに引き抜く。
俺は悟った。どうせ「パンドラ」には末端に病気を治すスキルを与えるつもりなどないのだ。
スキルを餌に任務を与え、きっと使い物にならなくなるまでそれを続けさせる。
順番待ちの病人たちはただの「弾」に過ぎない。
動けなくなった者は動ける者が看病をする。
そして動ける者は自分が倒れる前にスキルをもらえるよう一生懸命与えられた仕事をするのだ。
現実世界の詐欺だってここまで酷いものではないはずだ。
ふざけやがって。
俺は「パンドラ」という組織の底知れぬ悪意を感じた。
「見られちゃったあ」
「見られてしまいましたねえ」
気が付くと二人の「パンドラ」が目の前に転移してきていた。
クスクスと男女の笑い声が響く。何笑ってんだよ。こんな状況で。
一人は以前見た「覇者の鎧」に身を包んでおり、もう一人はあろうことかセーラー服を身に着けている。
「......ふざけやがって」
思わず心のうちが漏れる。何がセーラー服だ。転移者だかコスプレだか知らないが毒で溶かして剥いてやるよ。タコ助。
「ええ? ふざけてなんかないよ。この役立たずのみんなは外の世界じゃ生きていけないんだから」
「フフ。『健康剣豪』を銘打っているだけあって病人の扱いに厳しいように見える。初めまして『健康剣豪』さん」
鎧の方は声からして中身は男。丁寧なようで俺たちを格下に見ていることが声の調子だけで感じ取れる。
男の方はそうだな。タマを腐らせてやる。
「ケントがキレてます! ブチギレです! 私が家を勝手に買ったときより……」
「バカフィーナは茶化さないで!」
フィーナはバカかもしれないが、この二人は人の道を外れたクズだ。
「家ってあのガレセアに? こいつら田舎者だね!」
「ヘレナさん。先に本題に入らなければ」
鎧の男がセーラー服を促す。これから裸に剥かれるバカ女の方はヘレナという名らしい。
「ああ。ありがとう、リュカ。そうそう提案があるの。場所を変えない? このままここで戦うとあの役立たずたちを巻き込んじゃうでしょう? 役立たずだけど一応あたしたちの資産だから、丁重に扱ってあげないとね」
「……丁重だと? あれが? 舐めてるのか?」
「ここ、地脈が豊富だからその魔力でそう簡単には死なないようにはされてるけど? それじゃご不満?」
役立たず呼ばわり。生かさず殺さずいざというときに駒にしようという精神。
ムカついた。
こいつらの誘いに乗る理由はそれだけで十分だった。
「今すぐ転送しろ!」
未だかつてなく腹が立った。俺と似た境遇の存在、そして俺そのものを否定されているような気がしたからだ。
劣ってるのは人の心を持たないお前らだ。人間じゃないなら服なんか、タマなんかいらねえよなあ!
「ちょっとケント!?」
「はい了承を得ました。転移しますよ。僕らで相手ができる人数だけ、ね」
先頭に立っていた俺とクレイグが「パンドラ」のヘレナとリュカによって転移させられる。
転移したのは洞窟の奥地。フィーナたちがこちらに向けて叫んでいるのが遠くに見える。
(大丈夫ですか? 大体の座標を把握次第そちらに向かいますが)
クロエの声が頭に響くが、今はそれどころではない。
剥くか、剥けないか。あのド腐れ異世界コスプレイヤーに一生もののトラウマを刻めるかどうかの瀬戸際なんだ。
「やってやるぜえええええ!!」
(大丈夫じゃなさそうですね)
クレイグが俺に並ぶ。前衛としての役目で付いてきたのだろうが、関係ない。
あの連中を泣かせるのが最優先だ。
「ヘレナさん。どっちがどっちをやります?」
「あたしが『健康剣豪』やりたーい!」
「じゃあ、それで」
俺とヘレナが、クレイグとリュカが向かい合う。
「悪いけど、楽には死ねないかも」
「俺だって別に殺すつもりはない……全軍の晒し者にするまではなあ! コスプレゲロ女!」




