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第29話 「治癒して……」

 最前線で迫りくる『パンドラ』の雑兵を蹴散らした俺たち「白騎士冒険団」の面々。


「なーにやってんですかー! 味方を巻き込んで大魔術を行使するなんて私たちとやり合う気ですか!? おーん!?」


「悪いとは思ってるって。まさかあんなに前で多人数相手に渡り合ってるとは思わなくってさあ」


「我らがエース『健康剣豪』! 斬って下さいよこんなやつら!」


 フィーナと「リスクジャンキー」が揉めている。俺はそれに混ざる元気すらない。何故なら戦闘中に「リスクジャンキー」が「白騎士冒険団」を巻き込む大魔術をブッパなしたからだ。


 フィーナの【防壁】(シールド)で三人は無事だった。でもとっさの【防壁】(シールド)に入りきれなかった俺の身体はボロボロ。厳密に言うと怪我まではしてないけど、内臓まで揺さぶられた嫌な感覚が抜けない気がする。


「いい出目だったのよ。それでヴァンが喜んじゃって」


「そうそう最高の出目だった! だから最高威力の大爆発! これでうじゃうじゃいた『パンドラ』も一気に吹き飛んだろ!」


 確か……魔術士の女性はメリッサ。上機嫌の若い剣士はヴァンといったか。それにしても出目ってさあ……「リスクジャンキー」ってそういうことかよ。戦闘にまでギャンブルを持ち込むとはなあ。


 だがその大爆発に巻き込まれた俺は今にもぶっ倒れそう。いくら「健康体」スキルといえどもそれは「回復」スキルではないんだよ。


「治癒して……」


「チュー!?」


「治・癒……!」




 鎧越しの治癒を受けている間も意識が途切れることはない。この「健康体」スキルは気絶することも許してくれないのか。だが次第に苦痛が和らいでいく感覚はなんだか心地いい。


 治療の間「リスクジャンキー」の面々は俺たちのことを護衛していてくれている。フィーナたちを吹き飛ばしかけた負い目と、本隊との合流を待とうという意思もあるようだ。


「にしてもなあ。あいつら基本『状態異常耐性』と『魔法耐性』を持ってただろ? どうやって『健康剣豪』以外の魔術士があんな最前線で戦えてたんだ? 興味本位に教えてくれりゃしないかい?」


「そうね。魔術士の身からすればとてもやりにくい相手だったもの。味方の強化に徹するので精一杯だったわ」


 警戒を怠ることなくルーカスが雑談を振ってくる。足元に大きくスリットの入ったタイトな黒いワンピースを着たメリッサがそれに乗る。それ、冒険者の格好か?


 俺は治療で横になっていることと、兜で隠れた視線をいいことにその美脚をガン見している。


「『状態異常耐性』と言っても個人差が大きかったですからねえ。麻痺が効かなければ、気絶、出血、催眠、混乱とか思いつく限り片っ端からかけていけばどれか引っかかりますから」


 とフィーナ。


「『魔法耐性』があるならただ出力を上げて吹っ飛ばすだけよ。魔力を上げて魔法で殴るの」


 とエミリー。


 二人の台詞に「リスクジャンキー」メンバーは単純明快なゴリ押し宣言に笑いを堪えきれない様子。


 ちなみに「リスクジャンキー」最後の一人のクレイグというゴツい漆黒の鎧を着込んだ防御役は洞窟の入り口付近の少し離れたところにいる。こちらの会話が気になるのかチラチラと視線を送ってくるのがかわいそう。


 話を戻す。


 まずフィーナ。なんでそんなに絡め手ばっかり習得してるの? あと出血ってどのくらいのものなのかわからないけどよっぽどの時じゃない限り使わないでね。


 そしてエミリー。これから洞窟で戦闘が始まるんだけど同じように戦えると思わないでね。崩れるから。いくら俺は「健康体」スキルで窒息しなかったとしても出られないから。より悲惨だから。


「かなりよくなってきた。あとは大丈夫。ありがとうモニカ」


「でもまだ完全には……」


「いいえ。時間がありません。あなた方にはこのまま洞窟に突入していただきます」


 突然のエリーゼ軍参謀のエルフ、クロエの声にモニカは口をパクパクさせている。俺も驚く。


「あー! クロエー! 今までどこにいたんですかー? もしや隠れてたんじゃないですか!?」


「違います。気配を遮断して戦場の様子を把握し、的確に指示を送っていたまでです」


 それ隠れてたって言うんじゃないの?


「本隊は立て続けに現れるスキル保持者と思われる人物に襲撃を受け損耗が激しい状況です。大抵は殿下とサイラス副官が返り討ちにしていますが、敵は周囲を巻き込むような戦い方をする者が多いです。それ故の逐次投入なのでしょうが、結果としては効果が出てしまっています」


 なるほどね。範囲型のスキル持ちがエリーゼと同時に部隊を削る。洞窟までを数で押しとどめるのがさっきまで戦っていた連中の役割ってことか。


「それなら俺らは本隊に戻らなきゃいかんのじゃないかい?」


「いいえ。殿下の実力は本物です」


 ルーカスの問いを否定するとクロエは空中に手を突っ込み、薄汚れた鎧兜を引っ張り出す。俺と戦った「究極騎士」アクセルとかいうバカだ。真っ先にエリーゼを狙いに動いたが死んだのか。でも首を四◯元ポケットにしまっておくのはどうなんだ。気味悪いんだけど。


「ですから殿下とサイラス殿が敵を引き受けている間に我々は洞窟に突入します。よろしいですね?」


「それはいいけど、アリウスは? あいつがどっちにいるかどうかでかなり話が変わってくると思うんだけど」


 率直に思ったことをぶつけてみる。そうするとクロエは首を横に振って彼の所在が不明だということを示す。


 俺は身体の動きを確かめると「白騎士冒険団」メンバーに向けて頷く。そして俺たちは簡単な突入準備を始める。


 アリウスの合流が当てにならないので、ルーカスはクレイグに手で信号を送る。それを見たクレイグはゆっくりと前進を始める。もう少し進んで様子を見ろという合図なのだろうか。


 だが次の瞬間、洞窟内から飛び出し赤黒い剣をクレイグの身の丈ほどある大盾に叩きつけている人物がいた。


 堕印奴隷(ダインスレイヴ)を手にしたジークだ。


 なんとかクレイグはジークの一撃を受け止めているが、盾に注ぎ込まれる呪いで大盾を真っ二つにされてしまう。すると意外にもクレイグは重装備にも関わらず、俊敏な動きでジークから距離を取る。


 急いで俺たち「白騎士冒険団」と「リスクジャンキー」がクレイグに合流をする。


 ジークの背後には黒髪で目元を隠した守護精霊の少女が立っている。スキル「刀剣蒐集者」(ソードコレクター)によって完全に性能を引き出された魔剣。


 かつてその性能を引き出すことのできなかったルドルフ相手でもあれだけ苦労したのに、戦闘に秀でたジークの操る完全体の堕印奴隷(ダインスレイヴ)に勝てるのか。


 全身から嫌な汗が噴き出す。


「ジーク!」


 洞窟入口の上空からアリウスが落下しながら春炳(ハルペー)を展開し、ジークに斬りかかる。それを受け止めるジーク。


「お前さんか。高みの見物のつもりだったのか? いい加減そのツラ見ると顔の傷がジクジクと痛みだすんだよ。もう終いにするか? この関係も」


「望むところだ……外道!」


 普段表情を崩すことも少ないアリウスは今、感情をむき出しにしている。


「アリウスがあの狂犬を引き受けてくれている間に進みましょう。大丈夫です。彼は呪いへの耐性を持っていますから」


 クロエの進言で俺たちは過激派組織「ヘレシー」の拠点に突入することになった。

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