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第28話 聖騎士と健康剣豪

 今回前線に送られてきたスキルに釣られた病人たちにアリウスは尋問を続ける。


(あいつらはスキルで悪事を働きたかったわけじゃない、俺の『健康体』みたいなスキルをもらって病気を治したかっただけなんだろう!?)


 俺は拳を固く握り締め、前に出る。


「もういいだろ。みんなの腕も戻してやれ」


「君に指図されなくても情報の確認が取れたらするさ。既に治療士(ヒーラー)を呼びつけた。本当に病人かどうか確認する」


「もういいだろって言ったのが聞こえなかったのか」


 自分でも驚くほどアリウスに強気に出る俺、だが相手が実力行使に出た場合勝てる自信はない。


「君は『パンドラ』の肩を持つと。そういうわけだね『健康剣豪』くん」


 するとアリウスと俺を隔てるようにエリーゼの直属が展開する。呆れた顔のエリーゼ。


「冒険者同士で仲間割れとは。双方共に頭を冷やしなさい。アリウスももういいでしょう。それ以上に過激な拷問は王族として看過できるものではありません」


「素直に返答すれば元に戻すと言っているけど。でもこうやって今、尋問を邪魔されている」


 アリウスのやり方と言い分には明らかな敵意がある。何が彼を駆り立てるのか、必要以上に捕虜を虐待しているようにしか思えない。


「じゃあ俺が尋問を一気に進めてやる。そこの君、いいね?」


 アクセルのことを白状した一人を起き上がらせて問いかける。相手は怯えたように頷く。


「俺がまとめる。第一陣を率いていたアクセルはバカ。能力はおそらく金属操作かその類。そして君たち『パンドラ』第一陣はろくな指示も受けずに口封じも兼ねて前線に投入された。あのバカに部隊の指揮なんかできないからな。推測だけど戦果を上げれば体質を改善するスキルが与えられると吹き込まれた。そうだな?」


 俺のマシンガン推理に捕虜の「パンドラ」構成員はこくこくと頷く。あの吸着反発バカに軍を率いることができるわけがない。何せ指揮官なのに俺を追い回して一対一に持ち込むくらいだから。


「俺に触られていてどうだ? 痛みや病気が和らぐ感覚がないか?」


 再び構成員が頷く。俺の「健康体」スキルが効いている証拠だ。


「俺のスキルで結論は出た。俺に触られている間だけ人は毒や病を克服して『健康体』になる。こいつらはスキルを餌に集められた本当に病人の捨て駒だ。俺としては本隊を叩くことを進言するが、捕虜をいたぶる趣味があるならご自由に」


「どうしたんですか、ケント……?」


 俺の剣幕にフィーナも困惑している。エリーゼも俺の意見に同調したのか鋭く指示を飛ばした。


「アリウス。捕虜を治療なさい!」


 黙ってアリウスが捕虜の腕を接合していく。あまり感情を顔に出さない彼の顔には不満げな表情。尋問が俺に中断されたということよりも、彼ら「パンドラ」を心の底から憎んでいるかのような目。


 そこで俺はなんだか空しい気持ちになった。病気の克服という目的のために「パンドラ」にいいように扱われ、その末にアリウスの拷問を受けていた彼らとかつての自分を重ねて。それを見ても本当の意味で助けることができない。自身だけ「健康体」スキルを持ちながら。


 そして彼らを蹂躙したアリウスを止められなかったことも。


「あんた、今の状況に責任なんか感じちゃいないだろうな?」


 経緯を見ていたルーカスに図星を突かれる。咄嗟に何か言い返すことができない。


「やっぱりなあ。こうなったのはあんたが前線を離れたからじゃない。むしろ敵の指揮官を撃退するなんてベストを尽くしたと思うぜ? 自分のしたことには責任を取れ。責任を一緒に被ってやるのは仲間が大負けしたときだ。気楽にいけよ」


「……それは生き様の話ですか」


「そんな大したものじゃねえよ。ギャンブラーの心得だ」




「王子ジュリアンが『ヘレシー』拠点にいた証拠を一刻も早く掴まなければなりません! 進軍を開始します!」


 最早輸送部隊を装う必要はない。エリーゼの指示の下で全力で行軍を開始する俺たち。


 しかし俺は気分が晴れない。全身を鎧に身を包んだ俺ではあるが、その様子はパーティメンバーには伝わっていたようだ。


「あんた、いいわけ? フィーナのおバカがまた変なことしてるわよ」


 モニカに抱きついて馬に二人乗りしているエミリーが顎で前方を指す。

 

 見ると少し前方で「リスクジャンキー」の面々とフィーナがひし形の配置になりながら馬を走らせ中央に何か投げ合っている。勇者の鎧アイで拡大してよく見るとサイコロのようだ。


 相手はルーカス。モニカと同年代か少し年上の魔術士風の女性。そして双剣を背にした若い剣士。サイコロは馬に並走するように移動し、出目は大きく空中に表示されるようになっている。なんという魔術の無駄遣いだ。


 見ている限りフィーナは大負けしているようで、事あるごとに頭を抱えたり身体をくねらせたりしている。フィーナ個人の金で賭けてるならともかく、パーティの金を賭けてないよな? ザオバの街でも負けてなかったか、あのエルフ。


「ぐえええええ!」


 フィーナがサイコロを投げると遠距離ながら叫び声が聞こえてきた。負けたのだろうか。あっ次のターンでサイコロをあらぬ方向にぶん投げた。何でもありか。


 ただ純粋に今を楽しむその姿を見ていると、過ぎたことで悩んでいた自分がバカらしく思えてくる。フィーナは今しか見てないように思えるけど。


 俺にはアリウスを止めようがなかったし、敵である「パンドラ」は人の弱みに付け込むろくでもない連中だ。だったらこれからの奴らを俺が止めればいい。

 

 あとフィーナには金を返してもらうからな。これは過ぎたことにはならん。


「本隊に敵襲!」


 伝令の魔術で拡大された声が前衛の俺たちに響く。確か転移魔法は予め設定した箇所か縁の深い場所にしか発動できないはず。


「そうか! 王族同士なら!」


 同じ王族であるエリーゼとジュリアンの縁を利用して直接エリーゼのいる本隊に「パンドラ」が直接転移してきたのだ。


 急ぎ引き返して本隊を襲撃しようとしている敵に対応しようとすると、元の進行方向にもワープホールが複数出現する。


「おいでなすった! 『健康剣豪』さんよ! 調子は戻ったかい?」


 すっかり「健康剣豪」が定着してしまった「白騎士」の方がカッコいいのに。


「ああ! 任しとけ!」


 前方にはうじゃうじゃと『パンドラ』の兵が配置されている。フィーナとエミリーの派手な魔法の出番だ。


「『白騎士冒険団』のやり方は派手だぞ! 巻き込まれるなよ!」


「うちだってそんなとこだな! 出目次第だが!」




「あんだあ!? いねえじゃねえか! 本隊じゃねえのかよ『健康剣豪』ォ!」


「彼なら最前線です。どうです? 王族の戦い方をご覧になりますか?」


 拡大音声の魔法が発動されたまま、アクセルとエリーゼの会話が戦場中に響く。直属の兵は倒れたのだろうか。


「王族の死に方なら見せてもらいたいもんだが、ああ!?」


「私による数十年の統治の末になら見られるかもしれませんよ」


「ほざけええ!」


 剣戟の音が聞こえ始める。俺たちの方も接敵直前。第一陣の捨て駒ではなく武装をした戦士階級の部隊であることがわかる。


「また隠れてると今度は手柄取っちまうぞ! アリウス!」

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