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第25話 「クロイツの教え」

 アリウスと俺たちと「リスクジャンキー」の面々がテントから退室させられ、十位までのグループがテントで説明を受けている。あのハゲと組むことになったら気まずいなあ。


「君たちは『パンドラ』のことをどこまで知っている? 何か知っている素振りだったが」


 突然アリウスが話しかけてくる。めっちゃ強そうだしここは素直に答えて好感度でも上げるか。


「情報提供料をいただきたいのですが!」


 フィーナの動きの方が早かった。強欲エルフを押しのけて俺が説明を始めようとするが、どこから取り出したのか金貨を一枚親指で弾き飛ばすアリウス。さっきから機先を制されてばかりだな。


 転がる金貨を追いかけるフィーナを尻目に俺はアリウスに話し始める。


「何って言われてもガレセアって田舎の領主が『パンドラ』構成員だったからぶちのめしただけだ。それまで『パンドラ』とか知らなかったけどまあ、成り行きで」


「ガレセアのような街にまで『パンドラ』の手が及んでいたのか……領主の所持スキルは?」


「ええ? 『剣豪』と『状態異常耐性』と……『鉄拳』だっけかなあ?」


 それを聞いたアリウスは少し安堵したような表情になる。ええ? あいつは四天王の中で最弱系の話? めちゃくちゃ体張って倒したんですけど。


「レアスキルを貸与されるような存在ではなかったということか。情報提供ありがとう」


「でもでも『魔剣』と『覇者の鎧』とかいうのも持ってた! 堕印奴隷(ダインスレイヴ)とかいう呪いの剣ね!」


「ふむ。つまりレアスキルの代替品として与えられたと考えるべきか。なら『パンドラ』内部でレアスキルが枯渇していると? 僕の狩りの成果が出ているのか、それほど『パンドラ』が拡大しているのか……」


 何の話だ。俺の理解できる範囲でこいつの言ってることを噛み砕くと、偉い奴には強いスキルが与えられて、強いスキルのなかったルドルフは半端者かと思いきや色んな装備が貸し出されてたからそうでもないってことだよね? それ以上は知らん。独り言が長い!


「今度こそありがとう。参考になったよ」


「君の方は? どうして『パンドラ』の情報収集を?」


 アリウスは少し悩むような素振りをする。俺たちが偽の情報を流している「パンドラ」かもしれないし。が、服を汚しながら草むらの中に落ちた金貨を探すフィーナを見て、その可能性を捨てたようで話し始めた。悪の組織の一員が金貨一枚であんなに必死にならないだろうし。


「『パンドラ』はスキルの移し替えができる。それは理解しているだろう?」


 そういえばジークがルドルフに「スキルの回収」とか言っていた。結局しなかったけど。頷く俺。


「転移者が狙われる理由はそこにある。彼らは特異なスキルを所持していることが多いからね。そして『パンドラ』の支持母体はクロイツの『ヘレシー』にある」


 急に転移者の話になって驚くが俺が転移してきたことに気付いたわけではなさそうだ。でも「『パンドラ』の支持母体はクロイツの『ヘレシー』」って何だよ。異世界語なのはわかる。いや人名? 説明する気ある?


「やれやれ。君、転移者だね」


 ぎっくぅ! なんでバレたんだろう!? 「ええ!? あの『ヘレシー』があ!?」とか言わなかったから? 助けて常識人枠のモニカ! ああ! 向こうでエミリーが昆虫を手にしてモニカを追い回している! くっそおお!


「黙っておいてあげるよ。僕に『ヘレシー』のような思想はない。最も君は『ヘレシー』のことを知らないみたいだけどね。忠告だが、今後はその単語を聞いたら嫌そうな顔の一つでもした方がいい」


 当たってた。「ヘレシー」の名前を聞いた時点で何らかの反応をしなければいけなかったらしい。知るか。そんな初見殺し。


「話を続けようか。僕も君のパーティのシスターも『クロイツの教え』を信奉している聖職者だ。簡潔に言うと『この世界の様々な資源や人命を最大限守ろう』という教えだ。だからそれに根本から反する魔物は退治……殺してもいい。資源でもあるからね。ここまでは理解できるかな?」


「まあ、元の世界にも宗教はあったし……種類も宗派もいっぱいあったけど」


「それは興味深い話ではあるね。その宗派というのに『ヘレシー』も該当するのかもしれない。とても過激で容認できるものではないからね。彼らは『クロイツの教え』には転移者は該当しないと主張している。『この世界の資源、人命』じゃない『不要物』だからね。主張するだけならまだしも対転移者の暗殺部隊なども保有している……まあ実際悪事を働く転移者もいるにはいるんだけど。そういうわけで転移者の話題も半分タブーになりつつある。」


 あー。これがみんなの言う「転移者であることを公にするな」ってことの本来の理由なのか。それにパーティ以外で転移者の話題を聞かないわけだ。


「で、それと『パンドラ』が何の関係が?」


「わからないかい? 転移者殺しの集団を上手く利用できれば転移者の特殊なスキル……レアスキルが簡単に手に入る。彼らは協力関係にあるんだよ」


 こいつ、孤高の騎士っぽい雰囲気をかもし出しながらめちゃくちゃ話すの好きだな。だがなるほど。レアスキルが足りてないかもっていう独り言はそれだけ「パンドラ」が拡大してそこら中にばらまかれていると。出ました! 百点満点の答え!


「じゃあジークとかいう傷のオッサンが持ってた『刀剣蒐集者』(ソードコレクター)とかいうスキルもレアルキルってことか?」


「あの傷は僕がやった。だがその時に奴の『霊剣』は破壊したから……」


「『霊剣』盗られちゃった……」


 一瞬だけアリウスの表情が豹変する。俺たちマジでやらかしたかもしれない。でもあの時はあれが精一杯で、絶体絶命で、しょうがなかったんだって!


「さっき話した堕印奴隷(ダインスレイヴ)……盗られちゃった」


 アリウスの表情は戻ったが怒りのオーラが俺を直撃する。好感度上げるどころかめちゃくちゃ下がってるじゃん。フラグ折った?


「おい、小僧と鎧野郎! 俺たちも依頼を受注することにした! あんま調子こいてっと俺らが……」


 アリウスの殺気。出てきた途端にへたり込むハゲ。タイミング悪いなーこいつ。


「君たち『白騎士冒険団』には失望したよ。この依頼、僕は単独行動をさせてもらう」


 俺が返事をひねり出す暇もなくアリウスが続ける。


「僕は『パンドラ』を狩る者。異端処刑人のアリウスだ」

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