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第22話 シスターと魔女っ子

「うーん。違うわ」


「で、ではこちらは……」


「ダメね」


 自身の倍ほどの年齢のシスター・モニカを顎で使うのは我らが「暴」の化身エミリー。ちなみにフィーナは「欲」の化身。


 何故モニカがこき使われているのか? それは「火吹き蜘蛛」の素材がとある依頼人に必要とかいう小遣い稼ぎの依頼で問題が起きたからだ。


 何故新天地行き直前に小遣い稼ぎが必要なのか? それはパーティメンバーに無断で家を買ったやりたい放題エルフの作った借金の足しにする必要があるからだ。


 いつも通りエミリーの魔法は相変わらず呪文ではなく直感的な命令形だった。逆に普通の魔法は使えないとか。やれ「切り裂け!」「砕けろ!」「飛び散れ!」……素材採集の依頼だってわかってたのかな?


 だが最後の「飛び散れ!」が問題だったらしい。発火する直前の火吹き蜘蛛が飛び散り、そこら中に火の粉も飛び散ったのだ。


 それ自体は大した問題ではなかった。が、エミリー自慢の黒い尖り帽子に穴が開いてしまった。そしてエミリーは一通り大騒ぎした後に帽子を新調すると宣言。一人で買い物に出かけてしまったのだ。エミリーも見た感じ十二歳くらいだろう。はじめてのおつかい状態にはならないはず。


 そもそもあの年齢でBランク冒険者って何? あのインチキ魔法のせい?


 だがすかさずモニカが後を追いかけて行ってしまった。普段教会で子どもたちと接しているからだろうか。逆にこういう方が危ないんだよなあ。俺も席を立つ。


「大変ですねえ」


 フィーナが酒を飲みながら言った。気楽なもんだな。大変なのは故郷に帰れないお前じゃい。


 エミリーとモニカが店探しをしている現場に追いついた俺。だがその時俺は思った。モニカは極度の人見知りだ。エミリーのような子ども相手にも目を合わせずに話していることがある。まあそういう場合大抵エミリーがめちゃくちゃなことを言ってるんだけど。


 このまま俺が介入してはモニカの成長が妨げられてしまうのでは? 


 ほったらかした方が見ていて面白いのでは? 


 そう思い、俺は遠くから二人を見守る「見守り職人」になった。




 そういった事情でエミリーとモニカは魔道具店でああでもないこうでもないと帽子をとっかえひっかえしているのだ。


 つまんね~。


 フィクションでお嬢様と執事が買い物してるのをダメにした版を見てるみたい。


「エミリーさん! 杖なんかどうでしょうか? 魔法の威力が増すかもしれません!」


「いらない! そんなのとっくに試したわよ!」


「あう……」


 あ、モニカが杖を棚に戻す途中で転んで杖を折った。弁償させられとる。


 ダメだ。俺は「見守り職人」だ。手を出してはいかん。


 本当ならこんなことよりもザオバに遠征するための必要物資を揃えなきゃいかんのだが。


「ろくな物がないわ。わたしだってお母さんの形見を手放したくなんかないわよ……」


 あのチビ助、お母さんを亡くしてたのか……!


「エミリーさん! 私に考えがあり、あります!」


「何よ、急に……」


 突然のモニカの大きな声に驚くエミリー。


 先ほどまでとは打って変わったようにエミリーを引っ張り回すモニカ。その行き先は教会だった。


「お裁縫です! ここに私のお裁縫セットがあります! 針仕事だけなら私、誰にも負けませんから!」


 そう? 他にも負けないもの、あると思うけど。エミリーに向けて小さくガッツポーズする際に揺れる肉まんとかね。


 エミリーから受け渡された帽子を手にし、教会に入っていく。それを見届けたエミリーはこちらを指差して叫ぶ


「吹っ飛べ!」


「あふうん!」


 不意打ちには耐えられず隠れていた柱から吹き飛ばされる俺。バレてたんだ。


「そんな鎧がちゃがちゃさせて付きまとって! 気付かないのなんかモニカだけよ!」


 そうなの? 逆にモニカ相手なら気付かれ……なんでもない。


「あーあ。あんたにお母さんの話なんか聞かれたくなかったのに」


「悪い。モニカが心配でさ。フィーナは大丈夫。酔いつぶれてるから」


「あんたも大変ね……」


 俺が一応パーティのリーダーとして認めてもらえたのか、エミリーはモニカが作業している合間に、教会前の階段に座ってぽつぽつと身の上話をしてくれた。


 両親共々AAランクには上がれなかったAランクと特Aランク冒険者だったこと。


 特Aランク冒険者の父親は実力からしては低難易度の依頼で謎の失踪を遂げたこと。


 母親は冒険者を辞めエミリーを育てたが、流行り病で亡くなったこと。


 聞くところによるとこの世界でも流行り病は定期的に発生するらしい。治癒のための魔術もそれに合わせて改良する必要があるとか。元の世界のワクチンみたいな話だ。


 そして母の伝手で魔法学校に入学するも既存の魔法が使えず、我流の魔法に目覚めたこと。


 十歳の頃には裏ルートから冒険者ギルドに入り、実力に物を言わせてBランクまで上り詰めたとか。俺の十歳の頃の記憶聞きたい? 机の上で消しゴムぶつけあってたよ。


「何しみったれた空気になってんのよ! あんただって鎧は外れないし、鎧のカギはあのフィーナだし、元の世界に帰ったら死ぬんでしょ! みんな何かしら背負ってるのよ!」


 一応成人なのに小六相当の女の子に説教されてしまった。だってさあ……あと「暴」の化身とか思っててごめん。


 でもエミリーがAAランクを目指す理由はわかった。両親の目標だったからだ。


 すると教会のドアが開け放たれ、エミリーの帽子を振り回したモニカが現れた。


「でっきましたー! あれ? ケントさん?」


「振り回さないで! お願いだから!」




 帰り道。モニカが修繕した黒い尖り帽子にエミリーはご満悦の様子。


 俺も見せてもらったがどこに穴があったのかわからないほどに丁寧に直されていた。


「新品同然……じゃないけど今朝同然ね! 見直したわモニカ!」


「いいえ! 腹の穴から服の穴まで塞ぐのがシスターの仕事です! どこかに穴が開いたらいつでもおっしゃってください!」


 腹の穴って。そんなに過酷なのか、聖職者って。考えたくねー。


 例のエルフが勝手に購入したパーティハウスに戻るとフィーナがぐでんぐでんに酔っぱらっていた。


「なぁ~に絆が深まったみたいなツラしてんですかぁ~。わらひ以外で~!」


 フィーナ以外の結束が強まった。そんな一日だった。

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