第20話 元世界への戻り方
我らが誇るアホアホエルフの無断パーティハウス購入騒動によって忘れていたことが一つあった。よって俺は冒険者ギルドの出張所に向かうことにする。フィーナはモニカの発案によって造花を作る内職のバイトをしていた。この世界に需要あるのかそんなの。
心底嫌そうな顔で手際はとてもいいフィーナと、ゆっくりと丁寧に歪んだ形の造花を作り上げるモニカに見送られ、家を出た俺はすぐ出張所にたどり着く。立地だけはいいんだよなあ……ホント。
受付嬢に石版状の情報端末を借り受けなるべく建物の隅の方にいく。今から閲覧する情報は転移について。「異世界転移に関する話はあまり大っぴらにするな」と出会ったばかりの頃フィーナに言われていたからだ。
魔術以外ちゃらんぽらんなフィーナではあったが、俺が下手に異世界転移の話を口に出そうとするとあの手この手でそれを阻止しようとする。モニカも俺が転移者だと知った時も「いけません! いけません!」と俺の口を塞ぎにかかった。鎧越しにも感じたあのデッカ肉圧。すごいよね。
二人曰く「この世界には転移者を世界の不要物と考え排除しようとする危険人物たち」がいるらしい。この世界で信奉される宗教の教義の曲解をした集団だとか。詳しくは知らん。ただその一方で転移者であることを公表しつつも「転移ボーナス」のスキルの力で国の中枢にも食い込んだ転移者もいるという。
俺はあんまりそういうのには興味ないというか、元の世界に帰れたらそれでいい。いや、里を滅ぼすとか言ってるフィーナを説得して里でこの鎧を外してもらうという必須項目もあるけど。
端末の使い方は単純。手にして念じるだけで石版に文字が刻まれていく。
さてさてと「元の世界への帰り方」……っと。
(Aランク以上の魔術士四名による転移魔術を重ね合わせ、次元転移に昇華させます。その際に元の世界に関わる物を手にしているとより効果的です)
それっぽいのが出てきた。Aランク以上の魔術士四人ってハードル高くない? Aランクまで上り詰めると国や有力者に召し抱えられることが多いって聞いたし。
転移者が元の世界に帰る話をフィーナが知らないわけだ。
(元の世界に戻った際は、この世界で得た『転移ボーナス』によるスキルを失います。転移者は記憶を失い元の生活に戻ります)
元の生活? じゃあ俺って入院生活に戻るの? 謎の奇病の闘病生活。あっ……そういえば。
『じゃあお前、もうすぐ死ぬけど。それでいいなら』
『お前このままだとマジで死ぬけど』
『じゃあ転移します』
転移直前のフリン……だっけ? との会話を思い出す。そういえば俺って死ぬ瀬戸際だったんだった。でも「健康体」スキルがあれば奇病だろうがなんだろうが……と思っていたけど戻ったら死ぬの? 俺? 死に戻りならぬ「死にに戻り」しに帰んの? バカがよ。
「帰れねーじゃねーか!」
ギルドの出張所で叫ぶ俺を数多の視線が射貫く。その中には見知った顔、ユーステスのものもあった。
「よう。何見てんだ。もう外に出ていいのか?」
「一応な。お前には助けられた。だが、今さらの話だけどな……真っ裸にする必要はあったのか?」
こいつ。根に持っているな。まあ俺も自慢のフルンティングをへし折られた上に、フルンティング状態で観衆に晒されたら生きていけないけど。
あ、そういえば。
「俺たちBランクの依頼が四人以上じゃないと受注できないって知らなくてさ。お前が仲間に入ってくれよ。別にお前じゃなくてもいいや、あのパーティの誰かなら」
「お前なあ。言い方ってものを知らないのか? それに今の俺たちは今社会奉仕活動の一環として依頼をこなしてるんだ。冒険者扱いされてるわけじゃないんだよ。悪いが他を当たってくれ」
ユーステスは脱「パンドラ」を経て丸くなった気がする。やっぱりそういう組織に身を置いていると余裕がなくなるんだなあ。俺はというと身の回りに爆弾のようなエルフを抱えているので余裕がありません。前よりも怒りっぽくなった気がする。
そうやって「戦友」となったユーステスと語らっていると、わざとらしい視線を感じる。「こっちに気付け」というような。
わざと無視してやろうとも思ったが、ファンの女の子の可能性もあるので振り向いてみた。
チビッ子がいた。先の折れた黒い尖がり帽子に子ども丈の黒いローブ。眩い金髪を腰まで伸ばし、その髪には緩いパーマがかかっている。「魔女です」と名刺を差し出されているような気分。
「Bランクの冒険者が欲しいって聞こえたのは気のせいかしら」
「欲しいけど……頭数が足りなくて依頼受けられないし」
「やめとけ、そいつは……」
次の瞬間にはユーステスは壁にめり込んでいた。戦友が逝った。チビッ子魔女の仕業だろうか。一応罪を償っている最中なんだぞ、そいつは。というか最近の俺を中心にした出張所の備品破壊は全部「白騎士冒険団」に請求が来るから。やめてよ。
「邪魔者がいなくなったわ。わたしはエミリー。Bランクの冒険者よ。実力も申し分ない……というのは今見せた通りよ」
「なんでそんな実力者がパーティを探してるんですかねえ? 知ってますよお。もうあんたに付いていけないとかって解散したんでしょう? 知ってますとも。身近にそういうのがいますからねえ。ヘヘ、へへへー」
さっきの「やめとけ」というユーステスの遺言。そして有無を言わさぬ実力行使。見ればわかる。こいつは暴力型のフィーナだ。
「うるっさい! 吹っ飛べ!」
「ふんぎゅう~」
勇者の鎧の力で耐えてみせるがすごい威力だ。備品が吹き飛ばされ、冒険者たちは避難を始める。そして受付嬢の表情が曇る。あれって周りが思ってる以上に怒ってるやつだから。というか「パンドラ」の時もそうだけど、あの人の胆力すごくない? 冒険者にした方がいいと思う。
「いいからわたしを『白騎士冒険団』に加えなさい!」
「嫌です」
トラブルメーカーを二人も抱えて冒険なんかできるもんか。モニカも常識人に見えてどこかおかしい部分があるし。
「話は聞かせていただきました!」
聞き慣れた声、フィーナだ。嫌なタイミングに来るなあ。こやつは。そしてモニカは巻き込まれた冒険者の救護活動をしている。フィーナも少しは見習え。
「一度四人パーティで登録してみて冒険してみてはいかがでしょうか。相性を試すために簡単な討伐に出るパーティは珍しくありませんからね!」
へえ。そうなんだ……いやあ~ダメだろ。フィーナは次のランクに上がりたいだけだし、このチビ助はどこまでも食らいついてきそうな勢いがある。固定パーティになってしまうのでは?
「さんせいさんせい、さんせ~い! わたしはエミリー! 話がわかる人がいて助かったわ!」
「私はエルフのフィーナ! シクヨロー!」
「えっ『毒沼のフィーナ』……」
今さら後悔しても遅いぞ。俺は覚悟を決めた。さあ、強欲と暴力。どちらが勝つかな?




