第18話 毒拳制裁
俺のEX狩刃とルドルフの堕印奴隷が激しくぶつかり合う。
「何か言えよダインスレイヴ! どうして顔を見せない!?」
守護精霊としての姿のEX狩刃が俺の横に出現し、ルドルフの剣に呼びかける。返事はない。
確かにフルンティングと対峙したときのような守護精霊の存在がない。「魔剣」とは言うが「霊剣」の一種だろう。ルドルフは「刃命」を解放しているし、堕印奴隷とEX狩刃は知己のようだ。堕印奴隷が姿を現さないというのは彼女にとってきっと不自然なことなのだ。
そして禍々しい鎧に身を包んだルドルフの一撃の勢いには凄まじいものがある。とてもではないが、田舎街周辺を治める領主が持つ武力とは思えない。武力でその座を勝ち取ったのならまだしも、直接顔を合わせた際にそのような雰囲気はなかった。
「フフ。確かにジークの言う通り剣術の方はお粗末だな。ただ反射的に攻撃を受け、打ち返しているだけだ。剣任せでは『剣豪』スキルの力で堕印奴隷を従属させている私には勝てんよ」
(スキルで従属? EX狩刃は俺と共闘してるって言ってたな。どっちが強い?)
迷うな! 当然俺たちだ!
剣をぶつけ合いながらEX狩刃から堕印奴隷に毒を送り込もうとするが、フルンティングのときのように毒が剣に流れ込んでいく感覚がない。相手も「魔剣」というだけあって一筋縄ではいかないということか!
「お得意の毒攻撃かな? 堕印奴隷は強力な『呪い』を宿した剣でね。剣に宿した毒で上書きしようなどと、なあ!」
直感的にこれ以上EX狩刃を堕印奴隷に接触させてはいけないと感じた俺は飛び退る。おそらく俺が今まで毒で他人の武器を侵してきたようにEX狩刃を呪うつもりだ。
「よくやった! あんたも戦いってもんがわかってきたねえ!」
EX狩刃の声。彼女を失うわけにはいかない。当然仲間だからという意味もある。だが相手の鎧の力が未知数である以上、勇者の鎧の力で圧倒することはできないだろうからだ。
「ケント! 耐えてくださいね! 【拡大】! 【麻痺】!」
後方に下がらせていたフィーナの声。俺とルドルフを巻き込む形で麻痺の呪文を放ったようだ。これはナイスアシスト。すかさず俺は前に出る。直接鎧に毒を流し込めば!
しかし麻痺していたはずのルドルフの重い拳が俺の兜を捕らえ吹き飛ばし、壁にめり込ませた。
殴られた際のめまいは「健康体」スキルで即座に消える。だがこの威力、勇者の鎧の性能以上のものだ。それほどまで「覇者の鎧」とやらは強いのか?
「私は『剣豪』『鉄拳』『状態異常耐性』の三つのスキルを保持している。攻撃は『剣豪』『鉄拳』で行い、防御は『状態異常耐性』と覇者の鎧で行う。完璧だとは思わないかね?」
既にルドルフは堕印奴隷で切り込んできている。俺もEX狩刃で受け止めながら流れ込んでくる呪いを最大限の毒で押し返し対抗する。
「一人に三つのスキル? あり得るのか!? フィーナ、モニカ!?」
「ないです!」
二人同時の返事。普通じゃない相手なら普通じゃない対抗策を考えないと!
鍔迫り合いをしている間にも ルドルフの持つ剣に禍々しく赤い光が集まっていく。さっき光線を撃ったアレか!
「やばいぞ! あんたの勇者の鎧でも耐えられるかわからない! とにかく堕印奴隷の破壊に集中する。暴発に気を付けな!」
「覚悟しとく! お前も無理はするな!」
だがルドルフは後方へ跳ぶと切先を仲間たちに向ける。しまった。殴り飛ばされるまで俺が塞いでいた通路ががら空きだ。すかさず割って入る。
「まったく愚かな。あの距離で呪いを放ったら私まで侵されてしまうだろう?」
勇者の鎧でもあの光線に耐えられないかもしれない。
だがそれじゃ俺の考えに「足りない」かもしれない。
「モニカ! 今すぐ俺に攻撃魔法を撃て! 【聖閃】なんかがちょうどいい! 俺にだぞ! 早く!」
「すみません! すみません! 【聖閃】!」
今まで俺を巻き込むまいと攻撃魔法を控えていたモニカが謝罪しながら聖なる光をぶっ放す。やはり元々がBランク相当のシスターだけあって精度も高い。勇者の鎧がなければ死んでるんじゃないか。
(警告。ダメージ蓄積。これ以上は鎧の機能維持に重篤な影響があります)
脳裏に響く鎧の声。あったなこんな機能!
「愚者のすることは理解が追いつかないな。残念だが【聖閃】は範囲攻撃ではない。最も覇者の鎧に当たったところで無意味というもの。無駄話はここまでだ……解き放て【血呪】!」
赤い光線が俺を直撃する。これで今度こそ、今度こそ。
勇者の鎧は「壊れた」はずだ。
(機能を一時停止。修復機能を実行します)
至る所にひびの入った勇者の鎧を身に纏った俺は倒れる。これが呪いか。最悪な気分だ。ガキの時に高熱を出したときなんかの段階をぶっ飛ばした感覚。
「おまけといこうか。何、遠慮せずに受け取りたまえ」
俺の背中に追加の呪いと共に堕印奴隷を突き立てるルドルフ。血を吐き、未知の痛みに絶叫する俺。みじめにも俺は身体を蝕む呪いと背中の痛みに悶え、震える。
「【麻痺】! 【麻痺】! 【麻痺】!」
「少しは効くなあ。ただその程度だ。他にはないのか?」
「俺が相手だ。クソ領主!」
ユーステスが前に出る。だが彼の剣は「刃命」もない剣だ。堕印奴隷の相手にはならない。
「そうだったな。貴様らを始末する仕事が残っていた。あの男が意外とやるものでね。忘れてしまっていたよ。ん? ふむ……?」
背中にぶつかった衝撃を、ルドルフは俺の最後の悪あがきだと思ったはずだ。
悪いな。これが本命だ。
「貴様、何故だ? 今や全身を呪いが蝕み死んでいてもおかしくはないはず。それにその傷でどうして動ける?」
「俺は『健康体』だからな。刺されても、呪われても、俺はいつだって健康じゃないとならない。そう決まってるらしい」
そう。俺は「健康体」スキルで呪いを無効化することに賭けた。呪いを受けるためにわざわざモニカに俺を攻撃させて確実に鎧を「破壊」した。
そうすれば奴は油断し、俺に背を向けるだろうからだ。フィーナに真意を知られたら大目玉だが、許してくれ。
そして俺は今EX狩刃を通じて「覇者の鎧・贋作」に全力で毒を流し込んでいる。
本人のスキルも合わせて一定の毒耐性は持っているはずだ。だから全力で押し通す!
「EX狩刃! 出し惜しみするなよ! 聖剣に戻るくらいの勢いで毒を叩き込んでやれ!」
「当たり前さ! だが聖剣ってのは少し堅苦しくってねえ。だからあたしには毒剣がお似合いさ! 唯一の使い手が死ぬなよ、わかってんな!?」
ユーステスは呪いに必死で抗いながらルドルフに食い下がる。その隙に俺はありったけの毒を注ぎ込む。覇者の鎧は徐々に砕けつつある。
「死にぞこないめ! ならば貴様は『鉄拳』で死ねい!」
剣から片手を離し、背面に思い切り拳を振るおうとするルドルフ。勇者の鎧なしにこの一撃は不味い。が、毒が先に効くことに賭けるしかない。
「ここまできたら私も後先考えませんよ! 【麻痺・束縛拘束・停止】」」
流石にフィーナの全力には耐えられず、『状態異常耐性』スキルを持つルドルフも動きを止める。その瞬間、確かにルドルフの鎧が砕けた。
「『鉄拳』だあ? なら俺は『毒拳』をお見舞いしてやるよ!」
「やめ……」
俺はEX狩刃の毒を右拳に集中させる。
背中に開いた鎧の穴に俺はそれを思い切り叩き込んだ。




