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第16話 「健康剣豪」

 勇者の鎧を貫通して俺に傷を負わせたナイフも気になるが、俺はその傷から毒の気配を感じる。正確には「健康体」スキルが働いている感覚だ。


 EX狩刃(エクスカリバー)との特訓で俺は「健康体」スキルについての理解が深まっていた。


「ご立派な鎧がこうも簡単に抜かれた気分はどうだ? そして今打ち合ってわかったが、お前さんBランクと言うには……弱いな」


「別に? 普通のBランク冒険者だ。特別強くもなければ弱くもないと思うけどな」


 精一杯の虚勢を張るが、一度切り結んだだけで実力を看破された。装備頼りのBランク冒険者。だがそこで一つの疑問が生じる。


(奴にとって俺は毒で弱った獲物のはず、なのに何故俺を攻めない?)


 今まで自身の脅威になるような対象と戦ってきたことのない俺は必死に考える。ふざけている暇はない。


 対する傷の男、ジークは鉄線に繋がった特殊な能力を持ったナイフをクルクルと振り回しながら顔の傷を歪ませた笑みを浮かべるだけだ。


「組織……いや、お前さん相手なら『パンドラ』でいいか。そこで学んだことが一つだけある。当たり前のことだけどな。人間は二種類に分けられる。スキルを持つか、持たないかだ」


 そう言うとそれまで俺の様子を観察するだけだったジークが跳躍。瞬間移動のような動きで俺の前方に立つ。その直後、ジークが視界から消えた。


「後ろか!?」


 衛兵たちの持つ松明の影から、ジークが手にしたナイフを俺の背中に突き立てようとしているのが分かった。だが俺もただやられるだけじゃない。EX狩刃(エクスカリバー)の視界、いや迎撃範囲に入ったそのナイフは背後に回ったEX狩刃(エクスカリバー)の鞘によって弾き飛ばされる。


 先ほどまで前方にいた男の瞬発力を警戒した俺は、EX狩刃(エクスカリバー)の迎撃範囲を全方位にするために右手にEX狩刃(エクスカリバー)を、左手にその鞘を手にしていた。鞘であれど彼女は俺の腕を自動で操ることができる。備えあれば憂いなしとはこのことだ。


EX狩刃(エクスカリバー)ねえ。そんなもの最低でも『剣豪』レベルのスキルがなければ従属できないはず……だがお前さんの剣術はへなちょこ。毒が効かないことから所持スキルは精々『毒無効』『頑強』ってとこだ……どういうからくりだ?」


「確かにこいつは『剣士』にも及ばないへなちょこだがな、耐毒のスキルに対しては他の追随を許さねえのさ。こいつはあたしを従属させてるんじゃねえ、自らを蝕む毒を無力化して毒剣に堕ちたあたしと共闘してんだ!」


 ジークとEX狩刃が何の話をしているのかピンとこないが、そう簡単に手の内を明かして大丈夫なのか? まあユーステスとの決闘で毒剣であることはバレてるけど。


 そしてジークは俺の毒への反応で所持スキルを見極めるつもりだったようだ。まさかそれが「健康体」だとは思うまい。だがEX狩刃(エクスカリバー)への反応。目的が不明瞭だ。


「『毒無効』の上位スキル? こりゃあ転移者(ほりだしもの)かもしれねえぞ。本当か?」


「さあなあ! 俺はお前がさっきから何言ってんだかわからねえよ!」


「回収に値するか見極めてやるってこった! まあ詳細は死んでから教えてやるよ!」


 男は弾かれたナイフの鉄線を引っ張って手元に戻し、再び姿を消す。


 しばらく身構えているが攻撃の気配がない。やられた。


(ユーステスたちを狙いにいったか!)


 衛兵たちとフィーナやモニカ、ユーステスたちが戦闘している方向へ駆け付けると、無数の衛兵が倒れているのとジークが攻めあぐねている様子が見て取れた。


「フィーナ! モニカ! 無事か!?」


「『似非剣豪』の小僧まで追いつきやがった。わけわかんねえな。そのエルフ、Aランク上位の魔術士つっても過言じゃねえ。じゃなきゃ広範囲の【麻痺】(パラライズ)なんざ使えねえからなあ。どうしてこんなパーティでくすぶってる?」


 こんな時、いつもは自身の手柄を誇りそうなフィーナは黙ってジークをにらんでいる。


(フィーナがAランク上位? いやたまにすごい実力の片鱗を見せる事はあったけど)


 ジークは衛兵たちが倒れているラインの外側に立っている。魔術の発動を感知して踏み込まなかったのか。


「取引しねえか? Bランクパーティ二つ分とAランク相当とやり合うのは割りに合わねえ。その聖剣、いや毒剣使いの妙なスキルを教えろ。今日はそれでお開きだ」


 フィーナにアイコンタクトを取る。「そうせざるを得ない」という視線。


「俺のスキルは『健康体』だ。これで満足か?」


「ああ? 『健康体』だあ? そんなもんで俺の猛毒を防げるとは思えねえが、嘘を言ってる気配はねえなあ。『似非剣豪』改め『健康剣豪』ってか? ハハハ!」


 ジークはそう言うと石畳にひびが入るほどの跳躍をして姿を消す。ユーステスたちは力が抜けたようでへたり込む。彼らを守る防壁を張っていたモニカとフィーナも一息つく。フィーナはどこかおどけた様子で俺に話しかける。


「いやあ。対人無敵のフィーナちゃんの実力が発揮されてしまいましたね! あんなイキってたおっさんも私の前には恐れをなすってもんですよ!」


「……嘘だ。お前、攻撃魔法を一度も使ってなかっただろ」


 共に衛兵たちと戦っていたユーステスが吐き捨てるように言う。何か思うところがあるのかその言葉にフィーナは黙り込んでしまう。何か事情でもあるのか。


「うるさいぞ『全裸の夜明け団』共は精々フィーナ様に拾われた命を無駄にするなよ。それとフィーナ、言いたくないことがあったら言わなくていいからな。俺だって彼女いない歴イコール年齢のことはなるべく伏せておきたいし」


「わかりました……あとケントがモテないのは知ってます」


 さっきまでの塞ぎこんだ表情はどこへやら、気付くと俺を笑っているフィーナ。フィーナならそうやって笑って俺を振り回してくれるのが一番だ。限度もあるけど。あるからね。


「一緒に街を抜け出さないか? 小さい街にはなるだろうがどこか『パンドラ』の手の及ばない場所だって……」


 ユーステスの提案。確かに互いに「パンドラ」とやらに目を付けられた身だ。だが気になることが一つ。


「『パンドラ』はそれだけ大きな組織なのか?」


「……わからないが、追っ手を差し向けてくるくらいはするだろう」


 だが逃げ回るのは俺の主義じゃない。俺にも病弱なりに今まで色々な病気を正面から叩き潰してきた自負がある。全然カッコよくないけど。


「言ったよな? 俺はこの街の『パンドラ』をぶっ潰すって。ランドタートルを倒しても街が腐ってたら意味がない。俺たちが浄化してやるよ」


「正気か? お前……」


「できるさ。俺たち『白騎士冒険団』なら」


 フィーナは笑って頷いた。モニカもどこか覚悟を決めたような表情で杖を両手で握りしめている。彼女にもシスターなりに悪を見過ごせない理由があるのだろう。


「行け行け! 『健康剣豪』! 悪い奴らをやっつけますよ!」


「そのダサい二つ名定着させるのやめてくれない?」


「えー、あのおっさんにしてはセンスあると思いましたけど……」


 目指すは衛兵の逃げていった領主ルドルフ邸。第一陣敗走の報告を受けてそこら中に衛兵が待ち構えているだろうな。どうしてこういつも街全体が敵になるんだろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『シニガミ』でも思いましたが、敵キャラがいい感じに強敵で読み応えがあります。使い捨て感がないというか。敵敵した魅力があるというか。それでいて「ラスボス感」や「幹部感」と言った大物感がないと…
2023/06/25 07:49 退会済み
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