第二章 真の作戦part1
三十分経つと試験官のエマが待合室へと戻ってきた。
「結局、残ったのはこれだけか」
辺りを見渡すと八〇〇人ほどいた受験者は三〇〇人ほどまで減っていた。まだ現実を受け入れられずに泣いている者や特に気にも留めないといった感じの者など心境は様々だが皆、腹を括って決心をしたといった様子だった。
「今ここにいる者たちは作戦への参加を同意したものとみなして試験の同意なき途中棄権を禁ずる」
エマのその一言を合図に試験は開始された。
身体検査や適性検査、戦闘検査などありとあらゆる検査が行われ、そのほとんどが一切の滞りなく進められた。
試験終了後、受験者は再び待合室へと集められた。
「今から試験合格者を発表する。所属部隊と受験者番号が呼ばれたら返事をするように。ここで名前が呼ばれなかった者は適性なしと判断され不合格となる」
そう言ってエマは所属部隊と受験者番号を読み上げ始めた。
しばらく経って呼ばれてない受験者が少なくなってきたが俺たち三人はまだ呼ばれない。
おかしい、身体能力だけでいえば転生前とほとんど変わりが無いはずなのにと自分が呼ばれない理由を考えていると
「ここまでが通常部隊だ。呼ばれた者は退室して外にいる隊員の指示に従え」
呼ばれた受験者達は安堵や悲壮の面持ちで退室していった。
「俺たち三人はダメだったのか」
遼はそう言い机に顔を突っ伏してしまった。優子も泣きそうな顔でこちらを見ている。俺もなんで駄目だったんだと一瞬思ったが、そこでエマが言った言葉をふと思い出した。「ここまでが通常部隊だ」ここまでがって事はもしかして続きがあるんじゃないか?そう考えていると
「落ち着け。お前たちの四人は不合格じゃない」
不安そうな雰囲気を出していた俺たちを見かねてかエマはすかさずフォローの言葉を入れてきた。
「え、三人じゃなくて四人ですか?」
優子が不思議そうな感じでエマへと問いかけた。
確かに俺たちは三人しかいないはず。
「そう、四人だ。後ろを見てみろ」
そう言われて俺たち三人は後ろを振り向くと五席ほど後ろに白髪の少年がこっちをじっと見て座っていた。
「竜胆夏紀、榊原遼、中川優子、そしてアナイ・アレイション、お前たち四人は特別実動隊として私の隊に所属してもらう」
「えっ、たったの五人ですか?」とすかさず遼が問いただした。無理もない他の隊は基本的に一〇〇人ほどで構成されている。俺が転生前の時も基本的に一〇〇人ほどで構成されていたし地球で動く時も十五人ほどで固まって動いていた。五人しかいない隊など聞いたこともないのだが。
「そうだこの五人で動いていく。それについては後で説明する。まずはそれぞれの選出理由の説明からだ」
エマはそう言うと一人ずつ理由を説明し始めた。
「まずは竜胆からだ。この地球探索作戦は五年おきに実行されるのだが今回集まったメンバーの中でも戦闘能力がトップクラスだ。まだまだ荒いところはあるが伸びしろや潜在能力を込みで考えると歴代最強といわれる私を抜くかもしれん」
確かに俺は転生前は地球へ行く前に三年ほどトレーニングを積んでいたし実戦経験も豊富だ。それに加えて記憶が戻った後の約九年間のトレーニング実績も考えればこれだけの評価を貰ってもおかしくはない。だが遼と優子は孤児院の時から暮らしているが特別変わった力をもっているとは思えない。二人とも頭は回るし運動能力もそれなりにいいがトップクラスというほどではない。二人が選ばれた理由はなんだ。それにまだ名前しかわからないもう一人も気になる。
そんな考えをよそにエマは話を続けた。
「次は榊原だ。身体能力こそ中の上だったが銃の適性が群を抜いて高かった。基本的に隊員は刀か銃のどちらかを武器として戦う。ほとんどの隊員が刀のみで戦い、銃を扱う者はかなり少ない。なぜなら銃は扱うまでに時間がかかる上に弾数が限られるためコストパフォーマンスがかなり悪いからだ。私自身も刀と銃どちらも使うがメインは刀で銃は補助程度だ」
確かに転生前の時も銃を使ってる奴はかなり少なかった。俺も銃はほとんど使えなかったしメインは刀だったな。あの頃から一〇〇年ほど経ってはいるがそこは変わらないのか。そんなことを考えていると隣で聞いていた遼が目を輝かせながら食い気味に質問していた。
「銃ってどんな種類があるんですか?」
「そんなに焦るな。順番に説明してやるから」
エマは遼の新しい玩具を見つけたかのような目と圧にかなり気圧されているようだ。今日初めて会ってからずっと毅然とした態度で話していたのでこの人もたじろぐ事もあるんだなと少し可愛く思えた。
「話の続きだが銃には非戦闘員やサブで使う用のハンドガン、近中距離専門のアサルトライフル、そして遠距離専門のスナイパーライフルと大まかにこの三つに分けられる。基本的にアサルトライフルかスナイパーライフルのどちらかに適性が出ればメイン武器に銃を選んでもいいことにはなっているのだが榊原はそのどちらもかなり高い適性が確認された。これはかなり珍しい例で今回のメンバーだとどちらも適性が出た者はいない。だからどちらも使えるお前を後方支援役として抜擢することにした」
「俺が後方支援役ですか」
「なんだ不満か?」
「いえ嬉しいです!」
遼はそう言うとバンバンと手で銃を撃つ動作をしながらはしゃいでいた。隣にいた優子が落ち着きなさいよと言って止めていたが遼はお構いなしに続けていた。俺はよっぽど嬉しかったんだなと思い、少し微笑ましくなった。
「はしゃいでいるとこ悪いが次に行くぞ」
エマはパンパンと手を叩いて遼を注意した。遼はすみませんと言って座ったがまだ嬉しさを隠せないのか口元が緩んでそわそわと落ち着かない様子だった。
「次は中川だ。戦闘能力自体に特筆すべき点は見つからなかったが血液に少し不思議な効果がみられた」
「私の血にですか?」
優子は不思議そうな顔をしながら聞き返した。
「そうだ。お前の血液にはどうも他人の治癒能力を促進させる効果があるらしい。詳しく調べてみないとわからないが他人がその血を飲むと傷の治りが早くなるということみたいだ。その影響かはわからんが中川自身の生命力や治癒能力もかなり高い。だからお前にはこの隊の医療係として活躍してほしい。もちろん自分の身を守るためにハンドガンの扱い方も覚えてもらう」
まさかの事実に俺たち三人は思わず顔を見合わせた。優子の血にそんな効果があったなんて。思い返せば優子自身、かなり傷の治りは早かった気がする。男二人の俺たちについて回るから怪我も多かったが次の日には治りかけていた。風邪を引いているところも見たことないし、それが優子の血のおかげだったとは。
「私の血にそんな効果があったなんて」
優子は少し戸惑いながらも話を続けた。
「私の血に治癒効果があるならそれこそ大人数の隊の方が向いているんじゃないですか?そっちの方が沢山の人を治せると思うんですけど」
確かに優子に治癒能力があるなら大人数の方が向いているはず。ここだと本人含めても五人までしか治療できないし、そんな特異体質は複数いるとも思えない。なぜこの隊なんだ。
「確かに最初は我々もそう考えた。しかし何百人といる隊で中川の特異体質を教えたらどうなると思う。怪我をした隊員はすぐに中川を頼って来るだろう。そうなると中川の体力や血液は確実に足りなくなる。本人が持たなくなってしまう」
そういうことか。何百人と治すような血液量を人間が持っているわけない。人がいい優子は自分を犠牲にしても他人を助けてしまうだろう。そうすれば先にパンクするのは優子の方だ。
「安心しろ。このことを知っているのは私と司令官、他の隊長四人、分析班のみだ。地球に行く他の隊員には知らせない。お前たちもこのことは秘密にしてくれ」
「わかりました」
俺たち三人は元気よく返事をした。