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やっと記憶がないと自覚しました

 ――ガシャーン!!

 ――ドンッ!!

 突如、何かが割れる音とぶつかる音が聞こえてリーヴァは飛び起きた。


(何事!?)


 室内を見ると、窓ガラスは割れ、椅子は倒れ、ドアは蹴破られていた。

 室外からは人の叫び声と破壊音が聞こえ、のんきに寝ている場合ではなさそうである。


 リーヴァはひとまず外に出ようとベッドから足を下ろして立ち上がった。

 体に痛みは残っているが、支えがなくても歩くことはできそうである。


「――っ!」

 ベッドから離れようとした途端、下から突き上げるような大きな振動が伝わってきて、リーヴァは立っていられなくなり思わずベッドの上に座り込んだ。


 揺れは何度も何度も起こり、ベッドにしがみつくことしかできない。


「――っ!?」

 揺れが収まったと思った瞬間、内臓が浮き上がるようなぞわりとした感覚がして、激しい落下音とともにうつ伏せの状態でベッドに叩きつけられた。

 そして、叩きつけられた弾みでベッドから投げ出され、今度は背中を床に打ちつけた。


 仰向けのまま薄っすら目を開けると、舞い上がった埃とぽっかりと穴の開いた天井が見えた。


(ああ、体が痛い、動きたくない。

最近痛い思いばかりでついてないなーって、あれ?

最近って、私何をしてたっけ?えーと、えーーと……)


 そこまで考えたら頭痛がして、リーヴァの意識はまたぷっつりと途絶えた。


         *  *  *


「ごめんね、手荒なことして」

「悪いと思っているならここから出してもらえます?」

「それは僕の一存では決められないなー」


 目が覚めて気付けば牢屋の中。

 自分が一体何をしたんだと、リーヴァは鉄格子を挟んで向かい側に立っている少年のような声をした少女を恨めしそうに見つめた。

 

 リーヴァはここに来てやっと分かったことがある。

 それは自分の名前以外、何一つ覚えていないということだ。

 今まで何故そのことに気付かなかったのか不思議なくらいだが、思い返してみると、寒くて薄暗い部屋で目覚めた時からずっと頭の中にもやがかかっていて、ここに来てそのもやが一気に晴れた感覚である。


「では、あなたは誰で、何故私がここに入れられているのか教えてもらえます?」

「えー、めんどくさいなー」

「あなたは私から情報を引き出したくて、わざわざ牢屋にいる私に会いに来たのでは?」

「あ、それは分かってるんだ。うーん、そうだね」


 少女は両腕を組み、小首をかしげて悩むような仕草をしているが、顔はにやにやと笑っていることから悩むふりをしているだけだと推察される。


「ま、それくらいは話してもいいかな。僕はラウル。自警団の一人だよ。君がここに入れられているのは、三日前に若い女の子ばかりが六人も行方不明になった事件の関係者である疑いが持たれているからだよ。ねー、君はなんであそこにいたの?」

「怪我をしていたので療養していただけです」


 嘘ではない。最初に目覚めた部屋から運んで手当てをしたとライオン君――ハーヴェイが言っていた。

 

「おいっ、ラウル!また仕事をさぼっているな!」

 リーヴァの見えない位置から、バンッという乱暴に扉が開かれる音とともに男性の声で怒号が飛んできた。


「げっ、めんどうなのに見つかった。ここならばれないと思ったのに」

「残念だったな。お前がここに入るのを他の団員が目撃してたんだよ。お前、仕事をさぼるためにわざわざこんな所に来るか、普通」


 大股で牢屋の前まで歩いてきたのは、いかつい顔にがっしりとした体躯の男性だった。

 頬には斜めに走る傷が残っていて、歴戦の猛者のような風格がある。


「さぼってないよ。この子から何か情報を引き出そうと思って」

「ほう、そうか、そうか。では、何か有益な情報が聞き出せたんだろうな?」

「今、聞き出している最中だったのに、ガルガルが話の腰を折ったんじゃないか」

「俺の名前はガルキンだ! ガルガルはやめろ!」

「君のその凶悪な顔つきも、僕の天使のような可愛らしさも生まれ持ったもので変えられないから、せめて名前だけでも可愛らしさが感じられるように一生懸命考えたのにー」


(ガルガルってあだ名、一生懸命考えるほどかな。割と安直だと思うけど)

 そもそも男性に可愛らしさは必要なのだろうかと心の中でリーヴァが疑問に思ったところ、その問いに答えるかのようにガルキンがラウルに言い返した。


「俺に、というか男に可愛らしさはいらん!」

「えー、可愛さは必要だよー。だからガルガルは他の団員に怖がられて周りに馴染めず、いつも一人でご飯を食べてるんでしょ?」

「俺が一人で食事する羽目になってるのは、お前たちが不用意に物を壊しまくるくせに後始末は全くしないせいで、周りが休憩している間も事後処理やら何やらで自分の業務以外の仕事をしているからだ!」


(何だか他人が壊した物の後始末に追われる様子に既視感があるなー)

 覚えている限りでは誰かが壊した物を弁償した記憶はないのだが、リーヴァは何故かそう感じた。


「それで、この娘がお前が宿屋の天井に穴を開けて、ベッドごと下の階に落っことしたせいで気を失っていた娘か」

「なんで現場にいなかったのにそのこと知ってるの?」

「さっき宿屋から届いた請求書の処理をしていたからな!」

「ありがとー、ガルリン」

「ガルリンもやめろ!」

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