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怪物狩り

「ゴアァァァァ! ! グルゥオォォォォォ! ! !」

「またオーガ……また化物か……オーガ……」


 剣闘士って普通は人間同士で闘って、たま〜に運の悪いやつが魔物と闘うものじゃないの? 最近俺vs魔物の興行が多すぎる。奴隷だから立場が弱くて興行主に文句を言うことも出来ないし……俺嫌われてるのかな……?


「鎖を外せーっ」


 俺と同じ奴隷と思われる男たちがオーガの鎖を外そうと近づくが、オーガが自分で拘束具を引きちぎっていく。


「ぅおっ? ! ヒッ、生き残れよ! 怪物狩り……」

「……あぁ、うん」


 一瞬獣殺しが誰を指しているのかわからなかった。自分を指していると気づいたときに、嬉しいような気もしたが、そのあだ名が定着してしまったらこれからも魔物と闘うんだろうなぁ。


「おし、来いよ……!」

「グラァアアアアアアアアアアアアア!!」


 いつもなら相手を網にかけて、動けない間に短刀で急所をえぐるのが俺の必勝パターンだが、太い鎖をちぎる程のパワー相手にこの薄い網が有効だと思えない。


「速攻は無理だな」


 オーガのパンチを躱しながら戦術を考える、3発目のパンチを避けると同時に頭の中がまとまった。持久戦に持ち込んで奴を疲弊させ、攻撃が鈍ってきたら太ももを切りつけて失血でさらに弱らせよう。


「どうしたよ化物、ビビったかい? 」

「ウオォォォォォォォォォォオ! ! 」


 挑発を理解したのか攻めが激しくなる、パンチだけでなくキックもするようになった。


「見えてんだよっ!」


 奴の癖がわかってきた、避けながら腕を切りつけ、スライディングで転ばせる、計画通りに太ももに短刀を刺す、さらに予備の短刀で右目をえぐる。いい流れだと思った、しかしそこで油断してしまった。奴は最後の力を振り絞って反撃し、俺はモロに受けてしまった。


「ごへっ……がはっ!」


 アッパーで空中に弾き出され、さらに落下中に掴まれて地面に叩きつけられる。一気に逆転されてしまった。左手で俺の首を抑え、右手で止めを刺そうとしている。このままだと3秒後に俺の頭は潰される。


「グルゥゥゥゥゥウ……ウヘッウヒッ……ウヘヘフハハハハ!」


 奴は勝利を確信して笑い出した。もう3秒だけ俺の寿命が伸び、俺の顔に臭い唾が飛んでくる。だが、こんな状況でも逆転の種は残っているようだ。奴の太ももに刺さったままの短刀、傷はかなり深いようで、これを引き抜けば大量の血が噴き上がるだろう。


「クククッ……ハハハハハ!! この間抜けがぁ!」


 両足でナイフの柄を挟み、引っこ抜く。奴の汚い笑顔が激痛で歪み、左手の締めが外れる。マウントポジションをひっくり返し、左目を潰し、喉を裂く。あとは網にかけて自由を奪ってからひたすら殴る。1分弱殴り続けて、頭に膝蹴りをしたとき何かが割れるような感じがした。ピクリとも動かなくなり死亡を確認する。集中が切れて周りの音が聞こえるようになると、コロシアム中に大歓声が起こっていた。


「「「「ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア! ! ! ! 」」」」


「よっしゃぁぁぁあっ! ! …………やったぁ、俺ぁ生きてんだ……」


 息を整えてから、門へ向かって歩き出す。やっぱり魔物相手の殺し合いは疲れる。次は人間相手の興行になりますように。そう心から祈って門をくぐる。





 


 武具を返し、医務室に行く。ヤブ医者や新人回復術士ばかりで信用できないが、奴隷が受けられる最も質の高い医療がこれだ。


「今回は調子が悪かったのか?」


 今俺の治療にあたっているギバルという男は比較的腕が良い方だ。回復魔法を多用せずに薬学と外科学を用いて治療してくれる。以前訪れた時より打身が酷いので、このような質問をするのだろう。


「少し油断しました」

「油断か……お前、そろそろ死ぬぞ。対戦相手が強力な魔物ばかりじゃないか」


 直接的すぎる言い方に少し驚いた。でも合っている、最初はただの虎、次に水牛、オーガの子供、意識を保ったアンデット、そして今回の強靭なオーガ。なぜ今まで無難に勝ってこれたのか不思議な戦歴だ。


「俺のあだ名って、もう怪物狩りで定着してるんですかね」


 もし客がこのあだ名を気に入ってしまえば、興行主はノリノリで魔物vs俺のカードを組むだろう。たしかに闘獣の試合は盛り上がるし、俺の手取りも増える。虎や狼程度ならいくらでもやれる。だが、あんな巨人が出てくると命がいくつ有っても足りない。


「ああ、お前は外に出れないから知らなかったのか。剣闘好きの間で怪物狩りといえばアランカのベクスト、つまりお前のことだ」

「……そうですか」


 6分ほどで彼の診察がおわり、大量の打身薬をもらった。1ヶ月分あるから、毎日寝る前に塗れと言われた。次の興行がいつになるかわからないが、多分治りきらないまま怪物と闘うことになるだろう。夕食、礼拝を済ませ、9時過ぎに眠った。不潔で寝心地の悪いベッドだが、疲れていたからすぐに意識が飛んでいった。



 俺の命の値段は160万オーツ、今までに21万オーツ稼いで残り139万、それを払えば自由になれる。人に勝てば7000オーツ、魔物を殺せば4万オーツ、考えてみると怪物狩りも悪くないかもしれない。

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