14.夜次郎の独り言1
遅くなりました。
筆者の環境が変わる出来事がありまして、なかなか投稿できませんでした。
しばらくは定期的に投稿できると思います。
前作と違い第三者視点で書くと主人公の心情がうまくできず・・・所々で主人公視点の話を入れ込んでいくことにしました。
…なんとか桶狭間もクリアした。
どうにか史実通りに進んでいる…はずだ。
それにしてもこれはなんちゅう無理ゲーなんだ。俺も戦国にはそこそこ詳しいと考えていたが、全然知識が足りない。…いや専門家であろうと難問のはずだ。なんせ歴史の中では語られていないことが多すぎて全くわからん!瀬名氏俊の歴史なんてわからねーよ!
それにしても桶狭間の時の行動は偶然だった。敵を発見して後続に一番槍を譲るために林の中に移動したことが幸いして無傷で岡崎まで撤退できたのだが…。敵の位置を把握できていない状況での大雨だったとしたらぞっとする。
それにしても徳川家康…今はまだ松平元康か…の性格は予想外だ。直情的過ぎて驚きだ。“情勢を読む”力がなさすぎる。御しやすいと言えばそうだが、とても秀吉や三成と言った武将と互角以上に渡り合った老獪な人物には見えない。…囲碁だけはやたらと強いくせに。実際は数多くの経験を積んで晩年になって最終的な家康像ができあがるのだろうか。だとすれば“超大器晩成”型な人間なんだが。
いや、それよりも次のイベントを考えよう。…織田信長との同盟か。…織田と松平は因縁の間柄…祖父清康も殺されてるし、今川に従属する原因でもあるし、ずっと領地争いしてたし…。あの状況から同盟に辿り着く道筋がわからん。確か水野家が間に入って取り持ったとか聞いたことあるな。服部一族に調べてもらうか。
…いや待てよ。今の元康は何を目指しているのだ?色々理由を付けて何とか岡崎に留まらせ、独立するように仕向けはしたが…どこを目指しているのか話を聞けていない。…まずは三河の統一と考えていいのだろうか。…一度話をしたいが機会があるだろうか。
それから、俺はこの後どうすればいいか…も考えねば。この戦では瀬名家自体は最小限の被害でとどめられたが、今川領国内の諸侯らは大きな痛手を被った。これに対し主家はどう対応していくか。その内容をすばやくキャッチして舵を切っていかねば現状を維持できない。
それならば今川家の状況を整理してみよう。
桶狭間の戦いで当主と多くの重臣、将兵を今川家は失った。既に家督は氏真が継いでいたので後継者争いは起こらなかったが世代交代は行われた。義元の側近や重臣、奉行衆はこぞって兵力増強のための領地経営を言い渡されて駿府から遠ざけられ、新たに氏真の馬廻や小姓らが当主の周囲を固める新体制となった。既に駿河国内には新当主に対する忠誠を誓う誓紙の差し出しも始まっている。
だが新体制には実績がなさすぎる。当主もその側近たちも若すぎるのだ。これでは武田や北條などの大国には舐められてしまう。
加えて氏真はガチガチの「名門至上主義者」だ。非名門は名門の為に血と汗を流せと公然と言うようなお花畑のような人物だ。公家や幕府に積極的に働きかけていると聞いており、近いうちに官位を受領することもあろうが、そんなものは大国には通用しないことをそのうち思い知ることになろう。瀬名家としてはつかず離れずの位置に居るのが望ましい。大きな動きがあるまでは従順な姿勢を見せておく予定だ。
待てよ…誓紙の提出が遠江にも及べばどうなる?今の状況では素直に応じない国人衆が出てくるはずだ。その場合、瀬名家や朝比奈家が圧力をかけて回ることになる…。俺としては二俣城代という地位に安泰をもたらすために積極的に対応するしかなさそうだ。
だがそれが三河に及んだ時にどうするか。史実では三河は3年後には徳川家によって統一され、10年後には遠江浜松を居城とする。今川家の力が衰退し徳川家が周囲を吸収して成長していくのだが、これを邪魔しないように瀬名家は立ち回らなくてはならない。
強すぎず、弱すぎず、影響を与えるわけでもなく、無視できるわけでもなく…
やっぱ無理ゲーだわ。
そうなると服部一族は手放せん。情報収集に調略、流言に監視…使い道は数多とあり、卒なくこなす。彼らが居なければ俺は決断できない体になってしまった。蔵人佐には悪いが、服部一族はこのまま俺の配下として使わせてもらおう。絶対俺のほうが彼らを使いこなせると思うしね。
そう言えば桶狭間の戦いで半三らが見た伊賀衆って誰のことなんだろう?俺の記憶では今川家と伊賀衆との結びつきが何も出てこない。それにどういう目的で紛れ込んでいたのかが判らず仕舞いだったんだ。まず、仕えているのか雇われているのか。誰の配下なのか。首領は誰か。可能なら半三に調べて貰おう。
「ととさま!」
考えに耽っていた夜次郎の側にいつの間にか須和がやって来て頬を突いていた。
「ととさま!怖い顔!……すわと遊んでくだされませ!」
慣れない言葉使いで夜次郎の腕をつかむ須和。夜次郎は顔を綻ばせた。
「では、駆けるか?」
「馬!はい!」
須和は嬉しそうに立ち上がった。「早く早く」と腕を引っ張られ外へ出た。
実の子ではないがよく懐いている。自身は二十歳にならずして娘を持っていることにまだ慣れていない。年の離れた妹の感覚で接していただけ。だが自分に懐いてくれたのは素直に嬉しいと思うこの頃であった。