そして始まる
毎日が有頂天だった。
外を歩けば誰もが振り返り。
取り巻きは何でも言う事を聞き。
雑誌の取材やTVの出演、コンサート。
俺への視線は神を崇める様で、悦に浸る。
そうなるとファンの執着も凄まじく、行く所どこにでも現れる。
何人ものストーカー、だけど悪い気はしない。
その中にいた1人の娘。
その娘は他の子と違い、大声を上げる事もなく遠慮がちで。
恥ずかしがりやの大人しい娘、それだけなら気には止めないが。
言い寄る娘の中で、1番美人だった。
「いつもありがとう。」
そんな風に声をかけると、顔を赤らめていた。
「持って帰ればいいじゃん。」
メンバーはそう言うが、落としてみたい。
落とすも何も、既に落ちているのだが、人気者の欲求なのか?
モテる男の遊びなのか?ゆっくり進め様と思った。
「お疲れ。」
高級車に送られ着いた先は、都内のタワマン。
前の俺なら一生掛かっても住めない。
最上階、街を見下ろしながら笑いが込み上げる。
「手に入れた......全部俺のモノだ!!」
くそったれな人生を捨て、くそ最高な人生を手に入れた。
慣れというのは凄くて、この生活にもすっかり順応した頃。
相変わらず追っかけは凄かったが、あしらい方にも余裕が出た。
あの娘を見る事が少なくなった気がした。
「だから、とっととヤれば良かったのに。」
「かもな。」
ちょっとした虚無感、誰でもいいから女を抱こうと思った。
タワマンの入り口。
呼び出す女を携帯で模索していると声を掛けられた。
「りょーちゃん。」
懐かしい声で、誰なのかすぐに分かった。
「......めぐ。」
俺の初恋であり、初めての彼女で、幼馴染の娘。
そういえば、引きこもってからは会っていなかった。
中学で付き合い、高校入学で別れ、ちょくちょく顔は見ていた。
それでも、なんとなく話さずに、なんとなく疎遠に。
「あ、久し振り......元気か?」
「うん......りょーちゃんは?って、元気だよね。」
「あぁ、うん......そこそこ。」
「いっつも観てるよ、TVの前で応援してる!」
「あ......ありがとう。」
「......たまには帰って来なよ、おばさんも心配してるよ。」
家族の事を忘れていた......。
引きこもってからは、顔を合わせるのも嫌になり。
妹は今年高3だった様な、そんな事も分からずに。
「......そう、だな。」
「ホント!良かった......変わったって言ってたけど、やっぱ、りょーちゃんはりょーちゃんだよ!」
俺の手を取り笑うめぐが、淡い気持ちを思い出させる。
「だれよ!!その女ッ!!!」
大人しい追っかけのあの娘。
「あんた、邪魔よ。」
その娘が駆け寄り当たると、めぐが倒れる。
「り......ちゃん......。」
抱きかかえたその身体から血が流れる。
「......めぐ......。」
溢れ出す血は、白いタイルを赤く染めていく。
「めぐ!めぐ!めぐ!」
めぐの手が俺の頬に触れその手を握る。
やがて、めぐの身体から力が抜けていくのが分かった。
呆然とする俺に、あの娘は言う。
「浮気もの。」
手に持ったナイフが俺に向けられた。
なんでこんな事に、なんでめぐが。
意識が無くなる直前俺は見た。
黒いフードの男、飛び降りた時にも見た『アイツ』だ。




