願った世界
夢なんだ......死ぬ間際に見る夢なんだ......。
俺はマンションの屋上から落ちた。
だから......これは、ただの願望。
こんな人生もあったかも、そう願った夢なんだ。
なら楽しむ、大勢の人が狂信的に俺を見ている。
聴いた事もない曲を歌え。
弾いた事もないギターを弾ける。
最高の夢だ............。
半裸の男女が乱痴気騒ぎを起こし。
爆音がスピーカーを壊す勢いで鳴り。
転がったボトルから流れ出たワインの匂いが臭くて。
潤んだ目で唇を舐める女が、俺を見ていた......。
「どした?りょーすけ?呑まねーの?」
「あ、うん......。」
「なんだよ、欲しいのはこっちか......?」
男が見せたのは錠剤で、おそらくヤバい物。
「それ、大丈夫なの......?」
「は?お前がいつも飲んでるヤツだよ。」
「え!俺ッ!?」
クスリになんて興味はなかった。
むしろ、そんな物に手を出す人間を軽蔑した。
「お前ホントどしたの?」
「え!あ、いや別に......何か、疲れたのかな。」
「んじゃ、余計コレ飲んで元気になれよ!」
渡された錠剤に迷っていた。
俺は死んで、これは夢で、なら......。
世界が廻る、廻っているのは俺か?
女が求めてくる、男なら応えなきゃ。
スピーカーがうるさい、壊しちゃえ!
テーブルも、家具も、壁も、全部壊しちゃえ!!
目覚めると、頭が割れそうに痛かった。
洗面台に向かい、顔を洗う。
鏡に写っている俺は、紛れもなく俺で。
頬をつねれば痛くて。
これは夢じゃなく現実なんだと、受け入れた。
この世界での俺はロックスターで、憧れの存在。
何故か会った事もないバンドメンバーの名前を知っていて。
行った事もない場所をよく知っていたり。
理解出来ない事が山積みだったが、前の俺に比べれば文句なしだ。
この新しい世界で生きていく。
あの惨めで部屋に閉じ籠った俺を捨てて......。




