前世の記憶って、持ってるだけで大変。
来世への自分へ
今の自分に、思い残すことはありません。だけど、できれば普通に生きたかった。普通ってなんだろうな…。まぁ細かい事は置いといて、つまり今世は生きるのに辛い、辛すぎるのかもしれない。来世に期待するしか俺にはない。まぁもう今更遅いんだけどな。来世では上手く生きてくれ。
今世の自分より
よし、書けた。さてとこれを封筒に入れて。ゆっくり寝るか…。俺はもう霊体だしな。ちゃんと来世に行ければいいな…。
そんな事を思いながら、ゆっくり目を閉じる。
ふわふわした感覚が全身を包み、次第に感覚が消えていく。そして意識が遠のいてゆく…。
スマホのアラームが鳴る。布団から手を伸ばし、アラームを止め、ゆっくりと体を起こす。メガネをかけ、部屋の壁かけ時計を見ると七時過ぎを指している。
ヤバっ、時間ないじゃん。
私は大急ぎで学校へ行く準備をする。髪型はボブのような短さだが、寝癖で毛先が遊ばせたようにウネウネしている。
治すか?いや、時間ないしこれはこれでオシャレってことで。
髪は放っておく。学校の制服を来て、朝ごはんはパンを適当に焼いて急いで食べる。そのせいで少しむせながら家を出た。
いつもの登校ルートを歩く。大きな坂を下ると自転車を降りて信号待ちしているアイツがいた。
アイツは身長180センチのスラリとしたイケメンで、私の幼馴染みなんだが。…正直、アイツには困っている。
「おはよう、ツッキー」
「おはよう、キロ」
とりあえず、いつも通り挨拶を交わす。
アイツの名前はツッキー、ツキヒトって名前だからツッキー。アイツを知ってる人は皆ツッキー呼びしてるせいで、本名をあまり知られていない。そして私は杏。縦から読むと木とロだからキロ。このあだ名って珍しいよね、誰が付けたか覚えてないけど。
ツッキーは180cm、そして私が170cm。隣に並ぶと自然な身長差だが、他の学生が周りにいるとデカいカップルになってる。
いや、カップルじゃねーよ。
2人で駄べりながら登校していると、ツッキーがいない。気がつくと遠くにいる。何やってんだ?
「お前、俺の女か?」
うわっ同じ高校の女子生徒に壁ドンしてる。電柱で、きっと友達と待ち合わせしていたんだろ。
てか電柱で壁ドンって器用だなぁ。
そう思っていると、女子生徒は照れて目を泳がしながら「違いますよ…」と優しく否定している。
「そうか…悪いな」
その女子生徒の耳元でそう囁くと、こっちに向かってきた。
置いてかれている女子生徒は未だにボーッとしている。可哀想に…。
「キロ、俺の女…じゃなかった。」
「なにへこんでんだよ。」
冷たい目をツッキーに向けたが、ツッキーは私を通り過ぎ、また別の女子生徒にも同じことをしている。
そう、コイツには困っている。
女子生徒を見る度に壁ドンして、俺の女かどうか聞いて回ってるからだ。
それで付いた異名が「壁ドンのツッキー」
相変わらずダセェな。私は彼を「残念なイケメン」と呼んでるよ。
そしてツッキーは、またこっちに戻ってくる。
「で、どうだったの?」
一応、俺の女が見つかったか聞いてみた。
「いや、いなかった…。」
「だろうよ。」
「いや、絶対いるはずなんだよ…。」
うなだれながら自転車を押している。
コイツ、ガチで俺の女っていうのがいると思っているのか。こういうのを中二病とでも言うのだろう。
顔とスタイルが良いだけに、残念っていうか、とっても残念に見える。
あらゆる女子生徒に壁ドンしまくる友達を眺めながら私は学校についた。
授業中は、彼も私も極めて真面目に授業を受けて、気がつけば昼休み。
私は中庭のベンチに座って本を読んでいた。
「おっいたいた。おーーい。」
声のする方を振り向くとツッキーがこちらに向かって走ってきた。
「どうしたの?」
「隣、いいか?」
「いいけど」
お互い一緒のベンチに座って会話でも始まるかと思ったが、静かな時間が流れる。
「なぁ」
その静寂を切り裂いたのは、ツッキーだった。どこか重い空気を感じる。
まぁあんだけ壁ドンしてフラれりゃ、ツッキーでもへこむか。
「なぁ、お前は前世の記憶、持ってる?」
えっ?あっ、びっくりした。思わず時が止まった。
「俺…変に思われるかもしれないけど、実はボンヤリだけど、前世の記憶みたいなのあってさ」
「そうなんだ」
「んで、その記憶では俺はジェンダーで」
ん?ジェンダー?どっかで聞いたような…。
「で、前世の俺には恋人がいたんだよ。そいつは女々しいヤツってこと覚えてたから」
「それで俺の女っての探してたのか」
俺…ジェンダー…恋人…。このキーワードはもしかして…。
ほわわわーん
俺には彼女がいた。そいつとは高校の時に出会ったんだが、なかなか猫かぶってて素顔を見せてはくれなかった。
俺達が付き合って数ヶ月後のある日、彼女の素を見る機会があった。
まぁ俺が見せてくれって言ったんだけど。だって恋人なのに猫かぶられるのイヤだし。
そしたら、彼女、実はジェンダーだった。まぁ男でも女でもない性別っていうジェンダーの存在を、当時知らなかったから新鮮だった。
人間といえば男か女。そしてそのどちらも苦手だった俺は、ジェンダーという新たな人種に惹かれていった。
その後も多重人格を告白され、俺の彼女はジェンダーで多重人格ということだった。
やっぱりそうだ…これ。
前世の私が付き合っていた彼女の情報だ。
うーん、どうなってんだ前世の彼女!多重人格でジェンダーってキャラ濃すぎるでしょ!アニメキャラにもこんな濃いキャラそうそういないよ!どこに萌えるんだよ!あぁでも前世の私はこの濃いキャラに惚れたのかぁ!
ってかツッキーの前世がその濃いキャラの彼女だったってこと?
どうなってんだ…。
前世で恋人同士だった2人が今世で、幼なじみとして再会したと…。
ドラマチックなんだけど、実際に起こると、こう、どう受け入れればいいのやら…。
私がそうこう考えていると、ツッキーの声がした。
「おいっ、聞いてんのか?やっぱり俺の話、変だよな。気にすんな」
どこか落ち込んだ表情をしている。なんて言ったらいいのだろう。
とりあえず私のことも告白するチャンスかも。
「ううん、ちゃんと聞いてた。そのジェンダーっていうのがツッキーの前世で、その記憶を持ってるんでしょ?」
「あぁ…そういうことだな」
「で、前世で付き合っていた恋人を探してるんでしょ?」
「あぁ、まさか心当たりあるのか…!?」
「あぁ…えーっと…多分」
「マジか!?そいつはどこにいるんだ?」
ツッキーの声が明るさを取り戻したようだ。ただ、私の両肩をおもいっきり掴まれて、びっくりして声が引っ込んでしまった。
「?あぁ…悪ぃ」
それに気づいたらしく、ツッキーは私の両肩から手を離してくれた。それから深呼吸して、私は話す。
「そのツッキーが探してる、前世の恋人って多分、私」
「はぁ!?どういうことだよ」
ツッキーが驚くのも仕方ない。
「実は、私にも前世の記憶があって。その時の恋人がツッキーの前世だったジェンダーで…」
もじもじしながら話す私を気にとめず、ツッキーが言葉を必死に理解しようとした。
「つまり、俺とお前は前世で恋人同士…」
「多分、そういうこと。女々しいからって女って訳じゃないんじゃない?」
「どういうことだよ…俺はてっきり、」
「女々しい男だっているでしょ?前世での私、男だったし。」
それを聞くと雷に打たれたように、ツッキーが目を見開き、叫んだ。
「うおぉ!マジか!そういうことか!」
ひと通り叫んだ後、落ち着きを取り戻した。
「あぁ…理解した。お前だったか…俺の女」
「うん、そうだね」
こういう場合って奇跡の再会って感じで感動するんだろうけど、私は感動よりも、少し頭にきていた。
「さっきから俺の女って言い方どうにかならなかったの?」
「えっ?」
えっ?じゃねーよ。なんかさっきから、ちょくちょく言ってる「俺の女」って、なんなんだよ。
「俺の前世での恋人を俺の女だって言ってたんだけど」
いやいや、冷静に説明してんじゃねーよ。「俺の女」ってなんだか下に見れられてる感あるし。
「俺の女って言い方、なんか腹立つ」
わかりやすく眉間にしわを寄せる。
それでもツッキーは折れない。
「でも結局、お前とは前世でも恋人同士だった。つまり、お前は俺の女…。」
そう言いながら、私のあごを指でクイッとあげた。顔を近ずけてくるので、ビンタした。
バチン。
キレイな音色だ。
「はぁ…前世で恋人同士だからってなんで今世でも恋人なんだよ。」
ため息まじりで言う。前世で恋人だから今世でも、そんなのツッキーの勝手じゃん。
ぶたれた頬をさすりながら、顔を上げたツッキーはへこんでる。今世紀最大にへこんでる。この世の終わりの様な顔してる。
「いや、そこまでへこなまなくても。」
さすがにここまでへこまれると、気まずい。
「だって…」
俯いてグチグチ言ってる。何言ってるか分からないけど。
「ごめんって…やりすぎたよ。」
私も反省…。すみません…ビンタはやりすぎました。
それを聞くと、ツッキーは頭を上げて自分の足元を見つめる。
「だって…前世の記憶持ってて、ずっと恋人として一緒にいて、今世になっても前世の記憶があるから、恋人のこと忘れられないし。」
ツッキーは今世になっても、前世で付き合っていた恋人のことが忘れられずに、恋人を求めていたと。
「寂しいかった。だけどこうしてやっと出会えたんだ。」
シリアスな展開になってる。苦手だ。ヤバい、どうしよう、ビンタしちゃったし。寂しかったのに、悪いことしたな。
「ツッキー、ホントごめん。確かに私とツッキーの前世の記憶を照らし合わせると、私達は前世で恋人同士だった。それは認めるよ。」
ツッキーが顔をこちらに向けている。涙目で。
そんな今にも泣きそうな顔するなよ…。
「でも、キスとかそういうのは、まだ早いよ!」
あぁ…明るい話題で元気づけようと思ったのに、キスとか訳分からないこと言ってない?大丈夫?あぁ…これは俗に言うテンパってるってやつやー。
脳内で慌てふためく私をよそに、ツッキーは私の手を取った。
「悪ぃ、俺、嬉しくてつい、な。」
「うん、それは分かるよ」
お互い少し見つめてから、ツッキーが口を開く。
「俺と、もう1回になるのか?…その、付き合ってくれないか?」
「うん、いいよ」
でも、ツッキーの頬に付いた真っ赤な手型が、紅葉がくっついてるように見えて、つい吹いた。
「ブフッ!」
「お、おいここは吹くところかよ!」
「アハハッ!だって、ほっぺ、真っ赤」
「こ、これはお前がやったんだろ」
「ハハハッ、フゥーごめんごめん」
「フフッもう、いいよ」
前世からの繋がり。それは奇跡のようなもので感動的なんだけど、真っ赤な手型のせいであっけなく感動も過ぎていった。