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プロローグ


 そこはまさしく戦場。銃弾が飛び交う先には、一種の怪異。それは普通の人よりもかなり大型な人。身体の上半身が赤黒く皮膚が丸見え、筋肉隆々な巨人。人の七・八倍はある大きさで、右手にはその巨体に似合う木製の棍棒を持っている。その棍棒を振り回しているだけで雄大な自然が破壊されていく。

 そんな巨人も一体だけではない。数にして三体。その三体が壁に囲まれた都市へ向かっていた。そこを目標としていて、そのついでに道中で暴れているというのが正しい。

 人間が住む都市側でも、無抵抗というわけではない。壁の上に設置されたバリスタによって大きな矢が発射されたり、大砲が放たれたり。命中精度はよろしくなかったが、それらを避けたり爆発が起こることで足止めには成功していた。

 壁の上にいる中年の男が叫ぶ。


「なんとか時間を稼げ!マーズファクトが到着するまでの辛抱だ!」


「くそ!クリーチャーの巨人種が三体だ!マーズファクトはまだか⁉︎」


 そうして抵抗している間に、堅牢な扉が開かれる。対クリーチャ決戦人型兵器マーズファクト。その先鋒が到着したためだった。三対一では不利だが、このままでは壁に到達されてしまう。この壁は堅牢に作られているが、クリーチャーの進行を確実に防げるものではない。だからマーズファクトには確実な時間稼ぎをしてもらうために一機でも出撃して欲しかった。

 このマーズファクト、特殊な金属の合金であるためかなり硬く作られている。クリーチャーと戦ってもそう簡単に破壊されることはないくらいに硬いのだが、いかんせん金属が希少すぎてマーズファクト作成にほぼ回されてしまう。


 マーズファクト。人型というだけあって人の形をした大型の機械だ。だが巨人種よりは若干小さく、頭一個分マーズファクトの方が小さい。携行武器は80mmマシンガンと大型シールド、あとは専用の大型サーベル。それが標準装備だった。エースパイロットともなれば専用武器を持っていたりしたが、今出てきたのは一般量産機。

 イメージとしては岩石を想像しやすいだろうか。人型というにしてはだいぶ全体的に太ましく、茶色のボディ、それを胸の部分にあるコックピットから直接操作しているのだ。岩石の見た目にしては関節などが柔らかく、人と同じような動きができる。だからマシンガンやサーベルを用いられるのだ。

 その量産型マーズファクトは扉が開いた途端巨人種に突っ込む。それと同時にマシンガンを放ち始めた。なんて事のない鉄で作った矢や大砲が効いているのだから、マシンガンの弾丸が効かないはずがない。人間のように走るマーズファクトは、確実に一体ずつ倒していく。相手からの棍棒が当たらない位置を保って、防がれないように素早く後ろを取って撃つ。


 単純なことだが、これができるパイロットが多くない。むしろ動きだけ見ればなぜ量産型に乗っているのか疑問を覚えるほどの実力者。一体目を確実に倒し、二体に接近されたが、棍棒による攻撃をシールドで防いで蹴り飛ばし、距離を取ってまたマシンガンを放つ。

 弾切れを起こしたようで、腰にあったサブマガジンを取り出していた。すぐに装填を終え、また撃ち始めた。数の差など気にしない戦い方は惚れ惚れとするほど。壁の上で時間稼ぎをしていた者たちも安心して見ていられたが、聞こえてきた声でその安心も吹っ飛ぶ。


「あれに乗ってるの、マーセナル姫らしいぞ⁉︎」


「またか!あのお転婆姫!」


 そう、マーズファクトに乗っていたのはまだ十六になったばかりの、この国の第二王女マーセナル・レン・クーアル・エ・プリシデンシャル。プリシデンシャル王国の、れっきとした姫だった。通称マーシャ。

 その姫はコックピットの中で冷静に戦闘を続ける。通信が入って下がるように言われるが、全く聞かない。操縦桿を握り、的確に巨人種の動きを見切って蹴り飛ばしながらまた銃で撃破する。

 これだけ勇ましく戦い、蹴り技が得意なマーズファクトのパイロットを見て誰が姫だと気づくのか。その容姿は王族だけあって大人しく黙っていれば誰もが賞賛する美少女。実際絵画にされた際には本性を知る人から誰だと疑問に思うほどの美。陽の光を色濃く映したとされる長い金沙の髪も、今はシュシュによってポニーテールにされている。邪魔だからだ。父親の意向で伸ばしているが、本人からしたらさっさと切りたいと思っているらしい。

 蜂蜜を思わせる琥珀の瞳も、平時であれば美しいと賛美されるだろう。だが今は戦闘中。鋭く吊り上がった瞳は、美しいという言葉から遠ざかって雄々しかった。


「チィ!関節部の反応が悪い!これだから量産型は!」


 しかも口が悪いときた。いや、公の場ではこんなことはない。せいぜいが戦闘中と、マーズファクトの整備をしている時。もしくは作戦会議をしている時か。それ以外の時ならばお嬢様然とした口調と態度なのだが。

 あと機体に悪口を言っているが、これは整備班の整備が劣悪だったからではない。マーシャのパイロットとしての技量が高すぎるのである。この量産型マーズファクト、ケルレンは決して悪い機体ではないのだが、何故かパイロットとしての才能を開花させたマーシャからしたら及第点以下の機体だった。

 国王の考えとしてはマーシャをマーズファクトに乗せたくない。だから専用機を作るなんて以ての外で、マーズファクトの操作を教えたのは緊急時のためである。なのにいつの間にか操縦を覚えて訓練時間を伸ばし、エースと遜色ない腕前になったのは計算外だった。

 最後はブレードで巨人種を叩き切っていた。このクリーチャーたちは死ぬと身体が灰になって消える。その灰もしばらくしたら消えていた。マーシャはそこら辺に投げ捨てていたマシンガンとマガジンを回収して王都へ戻っていた。


「不完全燃焼ですわ……。今は防衛隊の本隊が調査に向かっているから暴れられると思いましたのに……。ケルレン改造したらダメかしら?」


 マーシャは帰投してすぐ王の臣下団や直接の防衛戦力である機動隊、そして父親である王から直接怒られる。一国の王女として相応しい行動を心掛けろといういつも通りの説教。それこそ耳にタコができるほど聞きなれているので、マーシャは全て聞き流す。

 王女としての行動よりも、一個人としての感情を優先させるからだ。だが国を憂いて、動けるからこそマーズファクトに乗って国の脅威たるクリーチャーを倒している。理念は王女として褒められたものだが、先行しすぎる癖と周りの制止を聞かないことは何度も咎められている。

 王族としての教養を学ばされることには粛々と受け止め、パーティーでの行動も一国の王女として全く問題ない。むしろ一部の貴族や他国の者たちはマーシャのお転婆ぶりを知らない者すらいる。王都に住んでいる者は全員知っているが。国民からは英雄視さえされている。最前線で戦う、美しき姫。実力も相まって彼女を好む声は多い。


 そんなマーシャは王城を抜け出して従者も付けずにある場所へ訪れていた。そこはマーズファクト製造工場。マーズファクト本体もそうだが、関連武器なども作っている人類の最終防衛装置を作る現場だった。マーシャがここを訪れることは珍しくなく、ここで働いている人間はまたかくらいの軽い感覚。

 マーシャは行く当てがあるようで、そこへ一直線に向かう。


「フレッセル技術主任はいまして⁉︎わたくし専用機の開発はまだですか!」


「これはこれはマーシャ。今日もカリカリしてるねえ。牛乳が足りないんじゃない?」


 そう返した二十代後半の男性はフレッセル・カーバルニア。マーズファクトの開発技術主任を任されている人物で、彼が考案したマーズファクトはほとんどが専用機、そして携帯武器として採用されている。現場からの覚えもいい、優秀な人材だった。そんな実績があるからマーシャもここを訪れる。

 マーシャと愛称で、しかも呼び捨てで呼んでいる事を誰も咎めない。マーシャもお付きの者も国王でさえも。

 フレッセルはマーシャのことを一瞥した後、口に咥えたタバコのような物を離さず、かといって煙も出さないまま見ていた資料に目線を戻す。マーシャのことなど気にしないとばかりに。


「質問への返答は?」


「ボクが勝手にできるわけないじゃないっすかー。国王様も反対してて、開発許可も降りてないのに。国民は支持してますけどね、王族や家臣団であなたをマーズファクトに乗せるのは賛成されてないんですよ?それに。クロセチル合金はかなり希少っす。お姫様のお遊び用に作れるもんじゃないんですよー」


「お遊び用なわけないでしょう!国防のためです!」


「なら国王様の許可取ってきてください。認可証がないとどうにもできないっすよー。こっちも仕事ですし、国営の団体なんで」


「ムキーッ!」


 こうもマーシャをあしらえる人物はフレッセルくらいしかいなかった。二年ほど同じような問答を繰り返しているが進展はなし。二年前はまだケルレンの性能で十分だったのに、いつも暴走するのでそれに比例してパイロット技量が上がってしまった。ケルレンでは不十分とはわかっているが、マーシャを死地に送ることを国王が望んでいない。

 クリーチャーと戦っていたら死ぬことなんて平気であるのだから。


「マーシャはエースになる必要がないのに、どうしてそんな戦場に行きたがるんだか」


「それが力ある者の務めだからでしょう?」


「身分も考えて欲しいんだけどなあ。我が国にはたくさんエースパイロットがいるじゃないか」


「それと、わたくしという戦力が燻っているのは話が別です」


 そんな、いつもと変わらない調子で話す二人。ここに来ればマーシャはマーセナル王女としてではなくマーシャとして扱ってもらえた。それが嬉しいから来ているという側面もあった。


 この穏やかな時間が続くのは後少しだけ。

 フレッセルが戦死するまでの、ほんのひと時。


兄よ。他人任せにするからこうなるのだ。

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