着任初日(表) 素晴らしき加護付き転生!
(シリアス要素は)ないです。
少なくとも主人公の主観では。
転生~18才まで色々ありましたが私は元気です。
テンプレはカットだよ!
現在、播磨の国に移動中。
日本で言うところの……大阪のさらに西? らへんだ。
そこが人類の生存限界。
そこから先は魔獣により制圧されている。
魔獣。
それは人類の天敵。
動植物には一切の関心を示すことはなく。
人間を襲っては生命の根源たる魔力を奪い食い尽くす脅威存在。
規模は違えども、日本……この世界では日乃本の各地、そして世界の各地に出現しては破壊活動を繰り返している。
魔獣に完全に制圧された地域は“生存不能領域”と言われるほど酷い有様らしい。
もちろん人類だって指をくわえて黙ってるわけじゃない。
歴史の授業で見た一昔前の日本のような世界、だがここは紛れもなくファンタジーの世界。
霊気という不思議パワーがあるのだ!
女神さまが言うには、かつては人間たちが直接魔獣を討伐できたこともあったらしい。
かつて……まぁ、前回の次元ではって言ってたから、人間感覚の昔とかそういうスケールの話ではないんだろうな。
ともかく、残念ながら今回はムリなんだそうな。
誕生した生命の進化には手を出さないのが女神のルール。
ヘタすれば対抗策を生み出す前に人類が滅んでいた可能性もあるらしい。
女神さま、手厳しいなオイ。
そして、その対抗策というのが……。
◇◇◇
「中尉さん、到着しましたよ」
「ん、ありがとうございます」
運転手にお礼を言って車から降りる。
映画や展示会でしか見たこと無いようなクラシックな車だが、乗り心地はなかなか良かった。
目の前にあるのは時代劇なんかでよく見る“屯所”ってヤツだ。
これが俺の鎮守府……じゃない、拠点となるわけだ。
「中尉さん」
運転手さんが真剣な表情で俺を見る。
「お若いその身で最前線に立たれた志はご立派と思います。ですがどうか、どうかご自愛くださいませ。本来なら、貴方のような若者がこの国の未来を生きるべきだと私は思います」
「……聞かなかったことにしておくよ。運転手さん、ありがとう」
「はい、中尉さん。私こそありがとうございます」
車が離れていく。
生真面目な人だなぁ。
今年で四〇才になるという鬼人族のおっちゃんは、学校出たての若者を死地に運ぶことを恥じている、らしい。
俺が自分で望んだことなのだが、運ちゃん的には愛国心溢れる覚悟決めた若者に見えるのだろう。
すいません。
全然そんなことないです。
色んな欲望を満たすのにちょうどよかっただけなんです。
現に今だって……。
「ここが私たちの……いえ、人類にとっての反撃の始まりなのですね!」
後ろから聞こえるのは女の子の声。
振り向けばそこにはポニーテールで犬耳に浅葱色の羽織のサムライガール。
もちろん腰には日本刀。
この新選組のコスプレにしか見えない女の子こそが人類の希望。
その名も守護精霊だ!
女の子!
窮地の打開策が女の子!
異世界でも日本は未来に生きてんな!
……嘘です。ボクがわざと女の子タイプを好き好んで召喚しました、ハイ。
「楽しそうだな虎徹?」
「もちろんです! 局長と共に戦うことこそがこの虎徹の存在意義にして望みですから!」
耳をピンッ! と伸ばして尻尾をブンブン振る虎徹。
あらヤダこの生き物可愛い。
ちなみに犬耳そのものは珍しくない。
異世界だけあって、俺のような普通の人間以外にもいろんな種族がいる。
それら全部まとめてこの世界では人間というのだ。
なれるまでちょっと大変だったのは秘密だ!
◇◇◇
「初めまして中尉殿。戦闘以外の、主に書類仕事の補佐を担当しますスズリと申します」
「初めまして。私が炊事洗濯などの生活回りのお世話をさせていただきますナキリです」
「そしてアタシが精霊関係、つまりは戦力強化を担当するタタラだ! よろしくな、中尉殿!」
屯所に入るとそこは美少女の住まう場所でした。
ありがとう、顔も名前も知らない過去の転生者のパイセンたち。
女神さま曰く、いつかどこかで皆さんが産み出した流れが今につながっているとのこと。
お陰でギャルゲーのごとき主人公ライフが楽しめそうです。
エルフの秘書がスズリ、ネレイドのナキリさんが補給、鬼娘のタタラがガチャ担当か。
この子たちも人間ではなく。部隊の運営を支える支援精霊たちだ。
ちなみに皆さん黒髪黒目である。
虎徹もだが、日本人は基本みんなこうだ。
ボクとしては中々アリだと思います、ハイ。
「スズリ、ナキリ、タタラか。今日から播磨南駐屯所に配属になった百弥宋虎だ。よろしく。そして―――」
「守護精霊、虎徹です! 術式も多少は使えますが、見ての通り刀による近接戦闘が得意です!」
「よろしく―――えッ?」
最初にスズリが固まり、続いてナキリとタタラも固まる。
「? 何でしょう?」
首をかしげる虎徹。
可愛い。
「なぁ中尉殿、この虎徹って子は、アンタが生み出したのかい?」
「そうだ。記念すべき一人目の守護精霊だな」
「えへへ……♪」
虎徹は忠誠心が振り切ってるのか、俺のちょっとした発言に一喜一憂する感じになっている。
嫌いじゃないけど、守護精霊が皆こうだとさすがに困る。
「そ、そうかい……一人目でそのレベルの守護精霊かい……」
タタラが何かブツブツ言ってる。
まぁ向こうは本職だからな。
俺にとっては満足な出来だが、プロから見たら何かあるのかもしれない。
「―――ハッ! し、失礼しました中尉殿! すぐにお部屋にご案内いたします!」
「いや、その前にタタラに頼みたい事がある」
「アタシに?」
「あぁ。虎徹一人じゃロクに警邏もできないからな。他に三人ほど守護精霊を迎えたい」
「サラッと言ってくれるねぇ……いいさ、素材も魔導水晶もあるんだ。お手並み拝見と行こうじゃないか!」
◇◇◇
守護精霊の作り方。
①まず祭壇を用意します。
②強化担当の守護精霊(この場合はタタラ)に場を整えてもらいます。
③魔導水晶を祭壇の中央に置きます。
④呼びます。
≪ダレ……ワタシをヨぶのハ……≫
⑤現れた何かに名前を付けて存在を固定します。
守護精霊とはそもそも何か?
人間たちに訊ねれば「昔の人の技術なのでよくわかってない」
女神さまに訊ねれば「興味ないから知らない」
だってさ!
………誰か俺に説明してくれッ!
さて。
この原生精霊に具現化するためのイメージを流し込んで名前を付けることで守護精霊は誕生する。
俺がイメージするのはズバリ、新撰組だ。
もっと言えば新撰組の偉い人が使ってた刀だね。
虎徹がまさにそれ。
最初ゲームで見た時は小鉄だと思ってたんだけど、全然文字違ってたわ。
新撰組の局長、近藤勇さんの愛刀だったんだねー。
ではイメージしていこう。
思い描くのは狐耳のロングヘア、もちろん浅葱色の羽織の侍だ。
オリジナリティーは基本出さない方向だ。
イメージが具体的な方が精霊として安定感が増すらしいからだ。
正直、一人目の虎徹がなんの苦労もなく普通に成功してしまったので、安定感と言われてもよくわからん。
≪貴方が……名前を、私の名前は……≫
和泉守。
今この瞬間から、お前の名前は和泉守だ。
次の瞬間。
「「おぉ~ッ!」」
成功しました。
背丈は俺の肩くらい。
狐耳のクールな感じの美少女だ。
あと何故か扇子持ってる。
理由はわかんないが似合ってるので良しとしよう。
「お初にお目にかかります局長。この和泉守、如何なるご用命にも応えて見せましょう……」
優雅な動作で跪く和泉守。
「うん、よろしく頼む」
ポン、と頭に手を載せる。
あ、やべ。
虎徹がワンコだから頭撫でても喜んでくれるけど、狐はプライド高そうだしアウトじゃね?
「……はい♪ 末永く御側に♪」
ぜんぜんそんなことなかったわ。
めっちゃ嬉しそう。
この子も忠誠度…好感度? カンストしてね?
嫌われるよりはずっといいけどさ。
喜び6割困惑4割くらいのまま次の精霊を呼ぶ。
出てこい、鬼神丸!
「よッ! と…オレを呼んだのはアンタか。ヨロシクな、局長! 戦いならこの鬼神丸さまお任せってな!」
名前の通り鬼人族な女の子。
膝まで届く三編みが大変よろしい。
あとボリュームやべぇ。
特別なにか強くイメージしたワケじゃないのに、たゆんたゆん。
う~む、そんなつもりは無かったが俺は乙パイ星人だったのだろうか?
うん。
前屈みになる前に次呼ぼう。
出てこい、菊一文字!
「……菊一文字。よろしく、ねー……」
王道をいく、猫耳!
そしてのんびり口調!
……見回りサボって昼寝しそうな気がしなくもないが。
「んー? お仕事はぁ……がんばる、よー……」
「そうか。期待してるぞ。あと俺そんなに考えてること顔に出るかな?」
「いや、多分みんな同じこと考えたんじゃねェか?」
鬼神丸のフォローにうなずく面々。
だよねー、スッゴいホワホワキャラだもん。
ま、何はともあれ数は揃った。
俺の、というか俺の後見人たる女神さまの加護もあるし、そうそう負けることもないだろう。
……精霊たちにも加護の力って影響するのかな?
世界が俺の味方になってくれるって言ってたから、それなりに効果は期待できると思うんだけど。
うーん、とりあえず後で考えるとしよう。
虎徹たちも指示を待ってるし。
◇◇◇
「早速で悪いが、四人には今夜から警邏任務に就いてもらう」
「「ハッ!」」
「虎徹、お前がリーダーだ。やれるな?」
「はいッ! この虎徹にお任せください!」
目がキラキラしてなさる。
いい、笑顔です。
「各自、適当に身体をほぐしておけ。タタラ、残ってる備品に木刀はあるか?」
「おうッ! ちゃんと手入れもしてあるゼ! もちろん実戦で使える武器もメンテはバッチリさ! ……まぁ、ソイツらの力なら自前で武器くらい具現化できるだろうけどヨ」
「まぁ、そうなんだけどさ。さすがに霊気兵装でウォーミングアップは危ないだろう?」
「ハハッ! そりゃそうだナ! よぉし、オマエら! 道場に案内してやるからアタシについてきな!」
召喚してすぐとはいえ守護精霊、口出ししなくても準備運動くらいちゃんと終わらせるだろう。
あとは出撃前に大まかな指示だけ出しておけばいいかな。
警邏となれば当然、魔獣との戦闘が発生する。
一応俺も魔獣との戦闘経験はあるが、一緒に行ってもハッキリ言って役に立たないだろう。
どんなにプレイヤースキルが高くてもシステムの壁は越えられないように。
女神さまの加護を持つ転生者でも、人間の霊気である以上魔獣を倒すことはできなかった。
最弱の小型二足種のゴブリンタイプですらノーダメージだった。
そう……人間の扱う霊気では魔獣には歯が立たないのだ。
もうね、ショックを通り越して面白いとすら思ったよね。
チート転生なのに俺ザコ過ぎワロスwwってなったわ。
なので余計な手出しはしないし、余計なことも言わない。
つーか、言えねぇ。
コイツら忠誠心高すぎて迂闊な命令したらヤバそうなんだもん。
なるべく現場の判断で動けるよう、大まかな方針だけにとどめないとアカンやつだよ。
「スズリ、ここ最近の魔獣の出現ポイントはわかるか?」
「はい、データはしっかり集めてあります」
「よし。ならひとまずスズリが中心になって、5人で巡回ルート決めてくれ。俺が指示するよりソッチのがいいだろう」
「え? あの、その……よろしい、のですか?」
「よろしくない理由でもあるのか?」
「いえ……はい、了解しました。では虎徹さん、和泉守さん、鬼神丸さん、菊一文字さん、よろしくお願いしますね?」
返事をしてスズリについていく4人。
残された俺は―――
◇◇◇
「それでは中尉殿、私がお部屋にご案内しますね」
ナキリさんの案内で自室に。
ナキリさん、だな。
なんとなくさん付けで呼びたい雰囲気をまとっていらっしゃる。
一通り見て回ったが、施設の設備は中々充実している。
前任の階級が中佐だったからかな?
なんでも愛人なんかも多数囲っていたとかなんとか。
ハハッ、もげて爆発しろ。
で、一通り説明終わる頃には精霊たちの慣らし運転も終了……と。
出発前に、帝都にいたときよりはやや質素なれど、バランスよさげな和食をみんなで囲む。
案の定、虎徹と和泉守が両脇を固めてくる。
うーん、別に呼び出すときに俺に惚れろとか念じてないんだけどな。
『鳥の……刷り込みみたいなもの、かしら……?』
頭の中に女神さまの声が響く。
あー、なるほど。
納得。
食事を終えて庭に出れば、暗い空には紅い月がなんとも艶っぽく光ってやがる。
数百年前には俺もよく知るお月様が鎮座なすっていたそうだが、いつからかあの紅い月に“喰われた”のだとか。
それ以来、この星には魔獣が出現するようになった……と。
一応、魔獣が具現化するのは特別な場合を除いて夜だけと言われている。
負け戦続きの人類が踏ん張れているのは昼間の物流が止まらないおかげなんだろうなぁ。
◇◇◇
「こっからが本番、か……」
俺には女神さまの加護がある。
それは実際に体験済み。
時には俺の周囲にまで及ぶ、反則的なミラクルカウンター。
俺がソレを願う限り、誰であっても守ることができる超ご都合なチートだ。
ぶっちゃけ、すげぇ興奮する。
わかってるんだよ、不謹慎だなんてことは。
ゲームじゃない、正真正銘ガチの命の危険だって。
だけど俺は所詮、一般モブだもの。
物語のヒーローみたいな気高い精神なんて身につかないよ?
だから俺は開き直る。
一人、安全を確信したまま部下が活躍する様をニヤニヤ眺めるのだ!
さぁ、今夜の出撃命令をもって、俺は正真正銘の正式な軍人として生きるワケだけど。
自分の欲望に忠実に生きるのは大前提だが、一般の人々を護ろうという気持ちにも偽りない。
別に18年の異世界生活で正義感に目覚めたワケじゃない。
俺は死なない。女神さまの加護があるから。
だから気兼ねなく前線に立てる。だから誰かの代わりに戦う。
何故ならそいつは死ぬ可能性があるから。
ただそれだけのことだ。
なにはともあれ、軍人としての俺の、指揮官としての記念すべき初陣だ。
どんな形で勝利の報告が聞けるか、楽しみだな!