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ミラクルカウンター[未完]  作者: 次元レベル町内会長
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反抗開幕(裏・後) 小さな、最初の。確かな勝利

「警鐘鳴らせッ! 伝令ッ! 貴様ら自分が向かう場所はわかってるなッ! よし、駆け足ッ!!」


「「ハッ!!」」


 突如の出来事に混乱していた憲兵官たちも、百弥の一喝で正気を取り戻し、本来のとるべき行動に移っていた。


 若い女性の小隊長が的確に、流れるように指示を出し、部下たちも淀みなく動いていた。



「クソッ、ついてねぇぜまったくよッ! 侵蝕なんて知らねぇぞ俺ゃあよ」


「だがよ、考えようじゃラッキーだろ。ちょうど人手もあるし、何より精霊使い殿がいるんだからよ」


 部下どもの呟きを聞いて、小隊長もまたその通りだなと納得していた。


 ()()ながら、今日は防壁の定期メンテナンスの日で、伝令に走らせた者を除いても三十人ほど兵官が残っている。


 もちろん防衛戦への備えということで旋条銃も弾薬も整備したて補充したてである。


 そこへ()()()()精霊使いが精霊と妖精を伴ってやってきた。


 もしこれらの事実がなければ混乱も酷い有り様であっただろう。



「中央は中尉殿に任せろッ! 両翼から突破を計る魔獣を押し留めろッ!!」


 憲兵官に支給される旋条銃では魔獣に有効なダメージを与えることはできない。


 だが着弾の衝撃は有効であり、陣形を組んでの一斉射撃は訓練生時代に徹底的に叩き込まれる。



「観測隊、準備はいいか?」


「問題ありません。射撃限界ラインは問題なく補足しております。それにしても……」


「それにしても?」


「座学と実戦では全く異なるものですね。教官からは、精霊使いの連携に期待するのは無駄だと教えられたのですが」


「そうだな。私も丙種指揮教育の時にずいぶんと口煩く言われた」


「中尉殿は第三射撃ラインで迎撃なさるようです」


「かの中尉殿だからな。手柄よりも実益を選んだとして、私は驚かないぞ」


 人間の霊気で魔獣を倒せない事実はもちろん共通認識であり、故に精霊使いは他の武官を侮る傾向にある。


 もちろん全ての精霊使いが該当するわけではないものの、今回の侵蝕のような例を除けば共闘することも少ないため、訓練生時代に教えられた偏見はしっかり定着する。


 播磨の国は全国で見てもそうとう協力的なほうだが、この南4区は悪い意味で例外だった。



 ◇◇◇



「永関ィッ! おい小隊長ッ! 生きとるかぁッ!」


「中隊長殿ッ! はい、まだ生きているでありますッ!!」


 戦闘開始からしばらく、報せを受けた憲兵所からの増員が精霊たちと共に到着した。


「状況はッ!?」


「どうやら侵蝕の魔獣は普通の魔獣とは勝手が違うようであります。精霊使い殿自ら刃を振るっておられます」


「そうか、中尉殿自ら……自らッ!?」


 百弥が最前線に留まっていることは知らされていたが、まさか戦闘しているとは誰も思っていなかった。


 皆、興味に逆らえず混戦の中に彼の姿を探してしまう程に驚きを覚えていた。



「へッ? うわッ、マジで局長も戦ってんじゃん!」


「えー? 局長戦えるなら私ら別に急がなくてもよかったじゃーん?」


「ンなワケないっしょ! 見てみ? なんか……何? アレ、えーと妖気のガード壊してンのかな。だけで倒すのはリーダーたちやってるでしょッ! ホラ行くっしょッ!!」


「ふぇーい……っておいィッ! ちょ、抱えるなよ! 子どもか私はッ!」


「「ごーごーです」」


「「れっつごー」」



「こんな状況でも賑かなものだな」


「彼女らに悲観的になられたら、いよいよ不安が伝染することでしょう。中隊長殿、指揮をお願い致します」


「うむッ! いいか貴様らぁッ! 落ち着いて狙えよッ! なに、動きさえ止めてしまえば中尉殿が始末してくれる! ―――よーし、撃てぇィッ!」


 数十人の兵官たちによる旋条銃の斉射により、魔獣どもの動きが抑制される。


 その隙を見逃すことなく百弥が妖気のガードを斬り払い、ラプターたちが即座に仕留める。


 一連の流れは淀みなく行われ、侵蝕の魔獣の進行はなんとか防がれていた。



 ◇◇◇



「局長ッ!! 遅れて申し訳ありませんッ!! すぐに虎徹がお守りいたしますッ!!」


「おーおーッ! こりゃスゲェな! 確かに手強そうだぜッ!」


 避難誘導の引き継ぎを終えたらしく、ついに百弥宋虎中尉配下の戦力が全て集結した。


 精霊一六名、妖精八十名、合わせて九十六名と一人による防衛ライン。



「局長に全てを任せるわけにもいきませんね……戴宗! 花栄! 武松! 合わせろッ!」


「「応ッ!!」」


「―――、―――ッ!?」


 精霊たちと憲兵官たちを合わせて二百余人の戦力とはいえ、妖気のガードを剥がすのに全て局長頼りではいずれ押し込まれる。


 相手の防御が高いのは事実なれど、その手応えは全くの無意味に非ず。


 ならば簡単なことだ。


 相手のガードを凌駕する一撃を叩き込めばよい。


「―――ッ!―――、―――ッ!!??」


 粉砕、である!


 四方より穿たれたウェアウルフは断末の咆哮と共に実体を喪失、後には妖しく輝く魔導水晶のみが残された。




「ほー? なるほどなぁ。一の太刀で断てぬなら…二の太刀、三の太刀と増やせばよい。なるほどなぁ、単純明快なれど、なればこそ効果的か。うん、我らも続こうか? (いくさ)の旅ぞッ!」


「「了解ッ!」」


 その様子を見ていた零に火が入った。


 言葉使いこそ落ち着いたものだが、その瞳の奥には闘志の炎が揺らいでいる。


 もとより本来戦う役目を負わぬはずの局長の、その戦いぶりで昂っていたところに仲間の活躍である。


 それで滾らぬわけがない。


「――――――ッ!」


 狙うは手足。


 四発の弾丸がそれぞれを捉え、一瞬だが四肢の動きを止める。


 それは充分過ぎる一瞬だった。


「――――――ッ!!!!」


 分割、である。


 短銃に能力を割いているとはいえ、その剣技は魔獣を容易く切り裂いた。



 問題があるとすれば、四人一組で当たらねばならないことか。


 大結界から這い出る魔獣の数は収まりつつあるが、これまでに屠った数を思えば常にこの対応を行うのは難しい。


(対策が必要、か。まさか侵蝕の旅に局長に出陣の無理強いするなど……我ら守護精霊の存在意義に関わる)


 零にしてみれば、局長の勇姿は眼福であったが、だからといってまさか何度も戦場に引っ張り出すなど、という思いがある。



 ◇◇◇



 戦況は決まりつつあった。


 すでに新たな魔獣の出現はなく、残った魔獣は狩る側から狩られる側へと成り下がっていた。


 強いて懸念するならば、百弥中尉と配下の精霊妖精、そして憲兵官の特に若い連中は初めての侵蝕ということで精神を消耗していることか。


 だがそれも間もなく無意味となる。



 ついに最後の一匹が百弥に向かって飛びかかろうとしていた。


 それに対する百弥の反応は……納刀。


 そのまま魔獣に背を向ける。


「―――ッ!! ――――――ッ!!??」


 それをチャンスと思ったのか、咆哮と共にウェアウルフが距離を詰める。



 そしてそのウェアウルフが虎徹に両断されると現場に歓声が上がり、この侵蝕戦は人間側の勝利として記録された。

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