反抗開幕(表・後) 見てるだけは許されない系
西側の門には他の出入口と違い、防衛の工夫がされている。
壁の上にスペースを作り、そこからライフルで弾幕を張れるようにしてあるのだ。
有効射程距離は100メートルくらいかな?
それが長いのか短いのかは知らないが、火薬だけでなく霊気も使っての射撃だし、そんなもんとしか思ってない。
そんなことより問題は、結局のトコ魔獣を仕留めることができないってことだろう。
基本ルール、人間の霊気では魔獣は倒せない。
足止めくらいはできるので、役立たずというワケじゃないけど。
「中央は中尉殿に任せろッ! 両翼から突破を計る魔獣を押し留めろッ!!」
いいね、よくわかってる。
たぶん俺よりちょっと年上、犬のお姉さん、手馴れてる。
やっぱりさ、こういうのは余計な口出しをしないで、自分の役割に集中したほうがベストでしょ。
一応俺だって色々勉強してるけど……現場経験者にはかなわんぜ。
◇◇◇
俺たちは門から外へ、いくらか離れて布陣。
あまり前に出すぎると防衛の利点を失うが、近すぎても万が一、魔獣に突破されれば街が危険。
その辺は戦いながら微調整するしかないね。
しかし、なんというか。
「なんだなんだぁ? あの魔獣ども、ちょいと変な感じになってやがるぜぃ」
「うむ、感じる妖気はそこまで大きくないが……嫌な感じだ、まるで幻に化かされている気分だ」
二人も気付いたか。
具体的に何が違うかワカランが、普通の魔獣じゃない。
……いや、考えてみれば当たり前なのか。
こうして侵蝕してくる時の魔獣が普通の魔獣と同じなら、そもそも負け続けなんてなり得ないんだし。
そこに気が付かないとは……やはり凡才か、俺。
「たいちょー、いちばんやり、うけたまわりーッ!」
「…任せたッ!」
「ちぇいさーッ!」
ラプターの許可のもと、空翼隊の妖精の一人が駆け出した。
敵軍の先頭を歩くゴブリン狙い、一撃離脱で様子を見るか。
「―――ずぇッッ!?」
あちゃー。
マジっすか?
ダメージほとんど無いし、弾かれてるし。
様子見の一撃とはいえ、まともに入ったのに。
「ぐぬぬ、なんなのですあいつら。てごたえがふつーじゃねーです」
異変を感じてすぐに下がるところは素晴らしいな。
意地になって打ち合い始められても困る。
「おっとっとォ? ゴブリンタイプでコレたぁ、楽しませてくれそうじゃねぇかい」
「憲兵たちのライフルは牽制程度に効果を発揮しているが……マイロード、いかがなさいますか?」
いかがなさいますでしょうかね。
「そうだな……友軍の到着まで戦線を維持する。無理に倒そうとするな、足留めに集中しろ」
「「ハッ!!」」
はい、日和ましたー。
だってしょうがないじゃん!
そんな一瞬で頭まわんないし、反逆センサーは鑑定できるワケじゃないもん!
経験則から危険の度合いや方向性は探れるけど、侵蝕の魔獣と戦うの初めてだから探りようがない。
だからといって何もしない選択肢はないし……。
うーん、とりあえずぶん殴っておくか。
俺の刀は精霊や妖精と違って普通の刀なので、折れたり欠けたりすると大変だし。
拳なら多少の怪我だったら治癒の術式で自力で治せるし。
まずは様子見に……いっぱぁーつッ!!
「オラァッ! ……ッ!?」
「―――、―――ッ!?」
割れた。
魔獣を覆っていた妖気のガードが割れた。
あり得ない。
女神の加護があっても人間の霊気しか扱えない俺では妖気のガードを貫くことは絶対にできないのだ。
だが現実、目の前のゴブリンタイプは怯んだ。
「―――、―――ッ!」
来る、追撃!
考えても仕方ない。
「疾ッ!」
飛び掛かってくる魔獣に対空アッパー!
格闘ゲームでは定番の対処、異世界でも通じちゃうぜ!
「ちぇすとぉぉぉッ!!」
さっきの一番槍の妖精、ナイス追撃だ。
たまたま側にいたからか、隙を見逃さず縦に一刀両断した。
「すげーです! くんれんようのまきわらよりやわらけーです! さすがきょくちょー!」
そんなキラキラした目で見られても困るんだよなー、俺もよくわかってないし。
が、対応できるとわかったからには!
「よし、俺が魔獣の障壁を剥ぎ取る。順に仕留めてくれ」
「マイロード、危険です」
「そうだな。それがどうした?」
別に俺は関係ないしー?
むしろ危険はバッチこーいですよ、加護が強化されるから。
「ふぅぅぅ……ッ」
異世界で戦って知ったこと。
俺は気合いを声に出して戦うタイプじゃないらしい。
一つ一つ丁寧に処理する戦いかたが性に合ってるようだ。
ラノベの主人公のような大立回りの無双は出来ませんでした。
人には向き不向きがあるってこったね!
蒼い霊気を纏わせた刀で片っ端から切り捨てる。
切り捨ててるのは妖気のガードだけで本体は無傷なんだけど。
「せぇぇぇいッ!」
「ほぉれ、ほれぃッ!」
「「てやーッ!」」
追撃でガンガン減らしてくれてるので問題ナッシング!
いやー楽チン楽チン。
「局長~、みーんな、おっまた~♪ ってナニ~、局長も戦ってる系なん? あはっ♪ いいトコできちゃったじゃん!」
「……む、コレは、私は楽していい系?」
イーグルと空爪隊、ヴァルチャーが空角隊と共にやってきた。
あと楽できない系です。
戦ってはいるけれど、俺、倒せてないし。
「二人とも、いいタイミングだ。他の連中は?」
「バッチ配置についてるハズだよ。憲兵さんたちに引き継ぎ終わったらすっ飛んでくるっしょ。特にコテっちゃんとか?」
虎徹か。
全身に忠義が詰まってるアヤツは間違いなく高速で、光速で? 飛んでくるだろうな。
◇◇◇
「敵は普通の魔獣じゃない。俺がガード剥ぎ取るから後よろしくな」
「おっけオッケー。ほーらヴァルちゃんもテンション上げー!」
「うぅ……強化型とか……ちょうメンドくさいンですケド……」
ストレートに気合いを入れるイーグル。
文句言いながらしっかり戦闘濃度まで霊気を上げるヴァルチャー。
なーんか性格が濃いんだよな、この部隊。
ラプターが一番まともかな。
「作戦変更。友軍の到着まで徹底的に押し返す。部隊結成の前祝いだ、派手に踊れよ?」
「応ッ!!!」
いい返事。
マジで頼むよ君たち、俺サポートしかできないんで。