4‐⑯ 人間ダーツ再び
「ごめん。盗聴器壊されちゃった……」
ツミキはポールとマリスの部屋に行ってついさっき起こったことを話し、頭を下げた。部屋に居るのは三人とテンオウのみだ。
「大丈夫だよツミキ君、バックアップは取ってあるし。それに僕は無闇に人数を増やすのは反対だったから」
「え?」
「チェイスを盗んで逃走することを考えると、第一棟~第五棟までの人でメンバーを構成するのが望ましいと思うよ。こう言っちゃなんだけど、そこから先の人は足手まといになる可能性が高い」
「えーっと、どういうこと?」
ポールの説明にテンオウが補足を入れる。
「ほら、チェイスって半分ぐらい精神体で動かすから。チェイスを強奪して操作するなら精神体の強い人で構成した方が良いんだよ。チェイスの操縦経験の無い人に限ればね」
「う、うん。でもそれがなんで一棟~五棟の人間に拘る理由になるの?」
「この監獄では精神体の強い順に一棟から五十棟に振り分けられるからだよ。数字が大きくなるほど精神体も弱くなっていく、つまりパイロット適性が落ちていくってわけ」
この監獄の住処は“質”で振り分けられている。その理由はトートが誰を念入りに教育するかわかりやすくするためだ。上質なリウム合金を作るために、なるべくわかりやすく分けて管理し、水面下で質が低く先も短い人間は早々に排除(釈放)し、質が高く伸びそうな人間は手塩にかけて育てているのだ。だが、その裏の事情を知っている囚人はいない。
(確かに入ってくる義竜兵の人数分程度しか外に人は出せない。そのことを考えるとどうしても少数での作戦になる。なら、できるだけ優秀な人間を揃える必要があるか……)
ポールはPCを操り、一枚の書類を作成・印刷する。
ポールは印刷した紙をツミキに手渡した。紙には上から名前が並べてある。ツミキが知っている名前もあれば、知らない名前もある。
「これは?」
「僕なりに優秀な人を選抜してみた。刑期ランキング上位の人。ここにはツミキ君の知らない重罪人・危険人物がまだまだいる。彼らの力を借りれば脱獄の成功率は一気に上がると思うよ」
マリスがツミキの持つ紙を横から見て、「げ」と酸っぱい顔をする。
「ちょっとポール! コイツはないでしょ!」
「コイツ?」
「それってもしかしてハリスさんのこと?」
(ハリス……)
ツミキは視線を落とし、ハリスという名を探す。するとちょうど中央の所に“ハリス・ベネット”という名を発見した。
「ダーリン、コイツはダメ! イカレた賭博するクズ野郎よ!」
「賭博、って。もしかして三棟でやってるって言う“裏賭博”のこと?」
裏賭博。
法外の額で金のやりとりをする場。中には監獄内で約束されている“人権”を賭けている人間も居る。
無論、ヘビヨラズのルールから外れているがトートは特別に公認している。賭け事は精神体のパワーを鍛えるのに適しているからだ。
「ハリスさんは裏賭博を取りしきってる人だよ。もしハリスさんを味方にできれば物凄い戦力になる」
テンオウがツミキの裾を掴む。
「だ、駄目! 危ない……」
「テンオウ?」
「ハリスさんは結構危ない賭博をやっていてね、重傷者を次々に出してるんだ」
「どんな賭博なの?」
「二つの的を付けた挑戦者を、ホストであるハリスさんがひたすら狙う。その名も――“人間ダーツ”」
その名を聞いて、ツミキは耳を疑った。
「人間、ダーツ?」
ツミキは思い出す、サーカス団で披露した自分の芸を。
人間ダーツ。自らを的として“自分にナイフを当てて殺せたら高額払う、逆に殺せなかったら金を支払ってもらう”という条件で客にナイフを投げさせるゲームだ。だがそれは、ツミキの知っている人間ダーツのルール。この監獄の人間ダーツのルールとは異なる。
「人間ダーツっていうのはね、まずゲストである挑戦者が体のどこかに的を二つ設置する。そしてホストであるハリスさんが武器を持って、その武器で挑戦者の的を狙う。制限時間内に的のどちらかを守れれば挑戦者の勝ち。どっちも撃ち抜けたらハリスさんの勝ち」
「武器はなにを使うの?」
「銃、ボウガン、パチンコ、ダーツの内のどれか。ハリスさんが使う武器は挑戦者が選べて、上から順に多額の報酬がもらえる。だから銃を選ばせて、的を狙わせず逃げきれれば一番多額の賞金がもらえて、ダーツなら一番低い額になる。ってこと」
「なるほど……」
「ちょっとダーリン、まさか……」
ツミキは一考する。
そして思いつく、自分にしかできない必勝法を。
「そのハリスさんって腕はどうなの?」
「元義竜軍の一級隊士スナイパーだったから腕はすこぶるいいよ。現に命中精度の高い銃やボウガンを使っての賭けは負け知らずだもん。まさに百発百中」
「百発百中。なら、いけるね」
「嘘、ツミキ……行く気?」
「やばいってダーリン!」
「刑期ランキング第四位、“ハリス・ベネット”。――僕に任せて。すぐにここに連れてくる」




