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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠

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4‐⑭ ゲフェングニスの罠

 十四時三十二分。


 第一棟、玄関出口で二人は向かい合っていた。


 監獄の王“トート・ゲフェングニス”。

 銀の卵“ツミキ・クライム”。


 ツミキはトートを睨み、トートもツミキを睨んでいる。


「今さっき、ここから通信電波をキャッチした。――そして、その反応は現在、君の右ポケットから発せられている。その右ポケットに隠している物を見せてくれるかな?」


「――それは」


「ダメダメ、君に断る選択肢はないよ。――エイセン看守長」


 トートの背後から一人の看守が現れ、一呼吸でツミキと距離を詰めツミキの頭を掴み、地面に押し付けた。


「ぐっ――!?」


 この監獄のたった一人の看守――“エイセン・グリッド”はツミキの右ポケットから盗聴器の端末を奪い去り、ツミキの頭から手を放してトートの横まで下がった。


「いけない子だね~、盗聴器(こんなもの)隠し持つなんて。エイセン君、再生してみて」


「了解」


 エイセンが盗聴器に録音された音声を再生させる。

 ノイズの所は早送りで飛ばし、ノイズが止んだところから流し始める。




『よう。聞こえてるか? ツミキ……』


『結論から言おう。ラックさんが言ってることが正しかった』


『催眠ガスで眠らせて、起きたらよ……なにもねぇんだ! これがなぁ』


『バスが止まった時、催眠ガスが天井から降り注いだ。咄嗟に口と鼻は抑えたんだが、ちょっと吸っちまってこの有様だ』

 

『俺はもう助からねぇ。だからせめて、お前らに情報を……』


『いいか、よく聞け……密室空間ならガスは通らねぇ、隣でチェイスが走ってたからチェイスでも大丈夫、だ――あと、“機犬(バーゲスト)”についても……わかったことが、』

 

『“機犬(バーゲスト)”は、場所で敵味方を判断している……! コンクリートの床周辺20mと、入口の真逆側……から、真っすぐの道――そこは、安全地帯だ……!』


『俺にわかったことはこれだけだ、ツミキ――』


『なあツミキ。情報料ってわけじゃないんだが、最後に頼みがある』

 

『トートの野郎を、ぶっ殺せ!!!!』


『アイツが、あの野郎が憎い!! 散々、ダチみてぇなこと言っといて、あの野郎、あの野郎!! 心から、信じ、て――――』




 プツン。と音声が切れる。


 トートは音声を聞き終わると、腹の底から笑いだした。


「くく、あっははははあはあははっはあっはははははっはっはっははっ!!!!! ひー!? 聞いたエイセン君? ぶっ殺せだってよ! ねぇどう思う? どう思う!?」


「罪人のカスが、我々選ばれし正規兵に何を言っているんだ――と思いました」


「だよねだよね! ここから出るまで僕のこと信じてさー、あの間抜け! いっつも夕陽が見える所で、『トートさん、あんたには感謝してるぜ』、『この街はすげーいい場所だ!』、『アンタとは、ここから出ても友達でいたい』。とかさー!! 歯が浮くわー! 妹のためか何か知らないけど、軍基地で盗み働いた馬鹿が! アホが! 生意気に口ききやがって! ほんっと死んでせいせいするわ!!」


 トートはわざとらしく首元を抑え、


「あー、あー。こんな声だったっけ? 『ツミキ。トートの野郎を、ぶっ殺せ!!!!』」


「――!?」


 トートの口から出たその声は、メイバーの声と全く同じだった。


「声紋複製機器。元はチェイスの鹵獲を目的とした開発品だけど、馬鹿を騙すのにも役に立つとはね。いつかのクズが、僕の法を破って外部連絡しようとしたからさ、ちょっとからかっちゃった♡」


 ツミキは足に力を込めて立ち上がり、頭を下げたまま瞳孔を開かせた。


「メイバーさんは、本当に良い人だった。どこまでも善人で、誰かのために平気で自分を犠牲にできる人だった……」


「あれぇ? もしかして、怒っちゃったツミキ君? 勘弁してよー。僕は君と喧嘩する気は無いんだ」


 トートは声の調子を落とし、冷淡な笑みを交えながら忠告する。


「だからさ、大人しくしといてくれる? ――僕をぶっ殺すなんて、到底無理な話なんだから……」


 ツミキは顔を上げ、大きく目を開きトートを睨んだ。

 その時、ゾクッとトートとエイセンの背筋を“何か”が舐めた。


(なんだ?)


 ツミキは少し笑いながら、口を開く。その背中から発せられるどす黒いオーラに、二人は気圧されていた。




「もしかして、()()に居れば【安全だ】とでも思っているのか? アナタは」




 プレッシャーが強まる。


 トート……その本体は、真っ暗な部屋で自分の胸の部分をかきむしっていた。そこに付いた刻印を消すために、ひたすら己の胸をこすっていた。


(な、なんだ!? なんで僕の胸に、本体に! 真っ黒な×印が視える!?)


 同様のプレッシャーがトートの隣で立っているエイセンを襲う。


(このプレッシャーは!? この少年から発せられているのか……? い、一歩も動けんっ!!)


 ツミキの左目には真っ黒な×印が浮かんでいた。×印が浮かぶのと同時に、二階に居るシンは微笑み、三階にいるラッキー・ボーイは帽子を深く被った。


「トート・ゲフェングニス。絶対に引きずり出して、殺してやる……」


「――やれるもんならやってみろよクソガキがっ!」


 ツミキとトート。両者の争いが始まる。

 止まっていた時が動き出した。

ここで“甘罪編”終了です。次回から“断罪編”になり、“断罪編”で第四幕は終わります。

わざわざ二つに分けたのは説明パートと行動パートを分かりやすくするためです。ハッキリ言って“甘罪編”は面白さ度外視で説明に割いたので、情報だけ頭に入れて頂ければ……というのは甘えですかね。


次回からは本格的にツミキが動き出します。お楽しみに!

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