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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠

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4‐⑧ レイジレスト殲滅戦

 いつかの約束も忘れ、逃げるように腐っていた日々は……


 今日、唐突に終わりを告げる。




―――――――――――




――ツミキがこの監獄(ヘビヨラズ)に来てから二十二日目。


 今日は公休日。ツミキ・クライムは一人の友人と共に、昼からテンオウの部屋の戸を叩いた。


 テンオウがカードキーをかざし、扉を開けて「いらっしゃい」と言う。ツミキが「お邪魔します」と入り、その後に続いてもう一人が「こんにちは」とテンオウに挨拶する。


 テンオウはツミキの後ろに居た少年を見て、


「あ、ツミキの友達ってポール君のことだったんだ」


「久しぶりだね、テンオウ」


 ツミキは顔見知りらしい二人を見て「そっか」と納得する。


(同じ建物内に居るんだから、当然顔見知りか)


 三人は質素なテンオウの部屋の畳で向かい合って座る。


「あれ? 二人は顔見知り、なんだよね?」


『うん』


「でも二人が一緒に居るとこ見たことないけど」


「前はポール君とはよく本のお話してたんだけど、私はちょっとマリスさんが苦手で……」


「二人は相性が悪いから仕方ないねー」


 ある意味サッパリして強気な女の子のマリスと気弱で人見知りのテンオウ。二人が出会った時、どういった空気になるかは容易に想像できる。基本的にポールはマリスと一緒に居るためマリス諸共近寄れなくなったのだろう。


 テンオウはツミキが納得した所で話を切りだした。


「じゃあ早速、“理由なき戦争”の話しようか! 今日は第何期の話する?」


「前回は第七期“第二次防衛戦”の話だったよね」


「ポール君はどう? 何期が好き?」


「うーん、そうだな~全体的に好きだけど、やっぱり第十一期かな」


 ツミキとテンオウは目を輝かせながら声を合わせる。


『レイジレスト殲滅戦ッ!!』


「うん。結末はちょっと怖いけど、今でも他に類を見ない異端な戦いだったからね。技術革命のタイミングでもあって、歴史的にも物語的にも面白いかな」


 レイジレスト殲滅戦……1796~1820年。一七九五年の冬場、ある一国がミソロジアに宣戦布告をした。国の名は“レイジレスト”、小さな島国で人口にしてミソロジアの一割にも満たない。各国全てがマークを外していた小国だ。


 そんな小さな国が宣戦布告してきた所で当時から世界屈指の軍事力・人口を誇るミソロジアが負けるはずがない。レイジレストが速やかに制裁されて終わりだ――と思われていた。



 レイジレストが小さな駒を、巨大人型兵器として展開するまでは。



 レイジレストは突如“チェイス”と言う名の奇襲人型兵器を開発し、その特性を活かした強襲・奇襲作戦で圧倒的な人数格差を覆す猛攻を見せる。だがミソロジアは戦車や戦闘機、“ピース”というチェイス以前に使われていた人型兵器でこれを囲み撃破。次第に技術も吸収していき、度重なるチェイスの鹵獲・奪取と元々あった数の利で戦況は一気にミソロジアに傾くことになる。


 ミソロジアは勢いを増し、レイジレストを侵攻。首都を破壊し、王を捕え、勝利を宣言する。だが、レイジレストは決定的な打撃を受けても尚、武器を手放さなかった。




――レイジレストの民は狂っていたのだ。




 どれだけ上層部が崩壊しようが、見せしめに誰かが処刑されようが、あらゆる弱みを握られて脅迫されようが、レイジレストの民は止まらなかった。


 軍が滅び、国が滅んでも最後の一人となるまで抗戦を続け、文字通り殲滅された。武力を持たない女子供はある一夜を合図に一人残らず自害したと言う。後にも先にも、戦争をして敵国の民が一人たりとも残らなかったのはこの戦いだけだろう。


 これをきっかけに、明らかに異常な人間は“レイジストの民”と蔑まれるようになった。レイジレストは狂戦士と呼ばれ、今でもミソロジアでは恐れられている。


「レイジレスト殲滅戦って理由なき戦争の十三期の戦いの中でも、番外編的な扱いだよね。なんというか、現実味が無いと言うか……」


「あはは……何となくわかるかも。レイジレストの民、って単語が狂戦士の代名詞に使われるぐらいだしね」


「チェイスやレイジレスト全体の異常さに目がいきがちだけど、僕はこの殲滅戦で登場したレイジレストのエースが好きなんだよ」


「私、そのエース知らないかな。というか、レイジレスト殲滅戦って極端に人名が出てこない戦いだった気がする」


「僕も。そんなに目立った人いたっけ?」


「歴史書の中でも断片的な情報から深く掘り下げる考察本とただ起きたことを繋げる解説本があって、基本的に皆後者を読む。けど、そのエースは解説本には載ってないんだよねー」


「じゃあ考察本に、ポールが言ってたエースが登場するの?」


「そ。僕が読んだ考察本三冊、全てに登場したレイジレストのエース……」


 ポールが口にする、その英雄の名は――



「“プール・サー・サルン”」



「えぇ!!?」


 驚くツミキと、なぜツミキが驚いているかわからない二人。


 プール・サー・サルン。その名はツミキにとって聞き覚えのあるものだ。ツミキがレジスタンスになるきっかけを与えた人物であり、チェイスの操縦に関しては師にもあたる女性。


(プールさんと全く同じ名前だ……どういうことだろう? 過去の英雄の名を子供に付ける人は居なくはないけど、ファミリーネームまで一緒って言うのは――)


 動揺するツミキをポールが心配する。


「どうしたのツミキ君?」


「レイジレスト殲滅戦って200年近く前の話だよね?」


「うん。今が天歴2000年だから、204年前に始まって180年前に終結してるよ」


「――そのプール・サー・サルンって、どういう人だったの?」


「えっとね……」


 ポールは記憶を呼び起こしながら説明を始める。


「簡単に言うとさっき言った通りレイジレストのエースパイロット。考えてみると、エースパイロットっていう呼称で呼ばれたのは彼が初めてかもね。それまで“個”で強い、って言ったら英雄って言われてたし」


 ツミキはある一つの単語に引っかかった。


「彼? ってことは、プール・サー・サルンって……」


「うん、男性だよ」


 ツミキの知ってるプールは言わずもがな女性だ。


(同一人物なんて、あるはずもないか。だって200年前の人間だし。性別も違うし……)


 と、頭でわかっていても、ツミキの中で何かが引っかかる。


 悩むツミキを差し置いて、ポールとテンオウの二人は話を進める。


「プールの凄い所ってどこだったと思う?」


「うーん、エースパイロットってことは、やっぱり撃墜数が多かったりしたんでしょ?」


「それもそうなんだけど、他のレイジレストの民も半端じゃなかったから突出してたわけじゃない。彼の凄い所は生存力」


 テンオウが「生存力?」と首を傾げる。


「普通、指揮官って最前線に出ることは無いけど、プールは指揮官でありながら常に最前線に居たんだ」


「えー!? それじゃすぐにやられちゃわない?」


「――そこでやられないのがプールの面白い所なんだよ。プールは最も多く戦線に加わり、ずっと最前線に居たけど、一度だって落とされることは無かったんだ。例え周りの仲間が倒されても、上官が殺されても、王都が侵略されても、彼はずっとミソロジアに残り、ミソロジア王都を潰すために真っすぐ前に進み続けた。どんな困難にも苦難にも負けず、一歩一歩しっかりと積み重ね進み続けた。ただただ前へ、それだけを彼は続けた。誰よりも不器用で、誰よりも実直だった……」


 例え祖国が滅びようと、祖国の誇りは守るために。


「レイジレストの一番槍にして最後の砦。彼が生き続ける限り、レイジレストは諦めなかった」


 帰りの船が落とされ、支援も皆無の中、プールが率いる部隊は王都オーランを落とすために進み続けた。決してプールだけが凄かったわけじゃなく、部下の力もあってこそのものだが、最終的にはプール一人だけとなり、単身で王都に攻め入ったと言われている。


 ツミキとテンオウが聞く。


『さ、最後は、最後はどうなったの!?』


「プールは最終的に王宮まで到達した。だけど、王を前にして餓死したと言われてるね」


 チェイスのコックピットをこじ開けた先に居たのはもはや人の姿ではなかったらしい。『骨と皮で出来た悪魔だ』と、コックピットをこじ開けた兵士たちは呟いた。


「当時のミソロジアの王“ザイロス七世”はプールを悪魔とは呼ばず、敵でありながら、痩せ細りつつも母国のために自分の目の前に来たプールを英雄と呼んだ。緑色だったチェイスの外装は長い戦いで剥がれ落ち、剥き出しになった鉄は銀色に輝いていたため、その高貴な精神性と()せて王様は重ねて彼をこう呼んだ――」


 不屈の意思を持ち、不器用ながらも前線を突き進む英雄。


「“銀の英雄”ってね」


銀ひとつじゃ王は落とせぬ。

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