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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠

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4‐⑥ 自由と幸福

――ツミキがヘビヨラズに来てから三日目。


 その日、ツミキとシンが居る121号室の隣、122号室で一人の少女が退屈していた。


(出会いが欲しい……)


 マリス・マーム……囚人番号20021 赤髪ロングの少女。十五歳。お嬢様気質であり、強気。年下の男子が好みでイケメンに飢えている。刑期10年。


 マリスの隣には短髪でお世辞にも褒められない容姿をした小さな男の子、ポール・ジュナイがチャーハンを乗せた皿を持ってエプロン姿で立っていた。


「ご飯できたよ、マリスちゃん」


 ポール・ジュナイ……囚人番号20022 短髪の鼻水垂らしの少年、十三歳。マリスに惚れている。読書好き。常に薄目で屈託のない笑顔を浮かべている明るく純粋な男の子。


「もー! なんで私のルームメイトがこんなに冴えなくてブサイクな男なの!」


「えー? いきなりひどいなぁ。でも大丈夫! 僕は悪口言うマリスちゃんも大好きだよ」


「うっさい! アンタが私に惚れるのは当然よ! なんたって私、超絶美少女だから! ――そう、私は美少女。そんな私に相応しいのは黒髪でクリッとした眼をしてて、年下! 爽やかな笑顔をするイケメンボーイ! アンタなんかどれだけ頑張っても私には似合わないの!!」


「うん! じゃあこれからマリスちゃんに相応しい男になるために、頑張るね!」


「――アンタって、ほんと調子狂うわ……」


 マリスはポールが作ったチャーハンを受け取り、壁に背を預けて食べだす。


「美味しい?」


「うん。うまいうまい」


「よかった~。今日はね、隠し味にかつおだし使ったんだ~」


「あっそ」


 素っ気ない態度のマリスに対しポールはニコニコと笑顔を浮かべている。

 二人が朝食を食べていると、突然隣の部屋から声が飛び込んできた。


『ちょっとシン! そっちにもう一つ布団があるんだから僕の布団に潜り込まないでよ!』


『えぇ~? 無理言わないでよツミキ君』


『なにひとつ無理は言ってない!』


 マリスとポールは壁を見つめる。


「うっさ! シンのやつ一人でなに騒いでるのかしら」


「新しく入った子とゲームでもしてるんでしょ」


「新しく入った子!?」


 マリスはテーブルを叩いて立ち上がる。


「なによそれ! 聞いてない!」


「うん、僕も昨日知ったんだ。隣の部屋の表札に名前が増えてたから。名前からして多分男の子」


「男!? ――きたきたきたっ!!! 早速品定めね!」


 十一時を告げるチャイムが鳴る。

 マリスは隣の部屋の扉が開く音をキャッチして部屋を飛び出した。


「マリスちゃん!?」


 マリスは廊下を滑りながら、扉から出て来た少年を見定める。


(黒髪、柔らかい目つき。身長は160~165。体重50~55。細身……推定年齢14歳!!)


 少年はマリスに気づくと、ニコッと愛想笑いをマリスに向ける。


「こんにちは~」


 マリスはその笑顔に対し胸を高鳴らせ、頬を赤く染めた。


「見つけた……」


「え?」


「私の許嫁!!!」


 ボコォ!! っと少年の腹にマリスの頭突きが炸裂する。

 少年……ツミキ・クライムは肺の空気を吐きながら倒れこんだ。


「ごほぉっ!?」


「捕まえたぁ!!」


 ツミキに抱き着きながらマリスも地面に倒れ、ガバッと顔を上げて自己紹介を始める。


「私! マリス・マーム十五歳!! よろしくね、ダーリン♡」


「あ、えっと……ツミキ・クライムです。ダーリンって?」


 双方の部屋の扉からもう一人の住人が廊下の騒ぎを見に顔を出した。


「おはよー、ポール君」


「もうこんにちはの時間だよ、シンちゃん」


 ポールは部屋から出て、ツミキの顔を頬ずりするマリスをよそに、ツミキに右手を差し伸べて自己紹介を始める。


「こんにちは。僕はポール・ジュナイ。隣の部屋に住んでるの、よろしくね」


「こ、こちらこそ……って、この()はなに!?」


「いいなずけ♡ いいなずけ♡」


「えーっと。君に一目惚れしたみたい。よくあることなんだ、気にしないでね」


「いや、気にしないのはちょっと無理かも……」


 マリスとポール。ツミキに新たに二人の囚人仲間が出来た。


 それからマリスが落ち着くまで数分の時を要し、十一時半にツミキ、シン、ポール、マリスの四人は街へ繰り出した。


「へぇー。じゃあツミキ君(ダーリン)はレジスタンスだったんだー。ステキ」


「すごいねー、その歳で」


「あまり驚かないんだね……」


「ここに居る人間は皆犯罪者だから、珍しいことでもないんだよ」


 まるで文化祭を楽しむ高校生のように四人は露店の間を歩いていく。


「お! やっと来たか、ツミキ」


 ツミキに声を掛けたのは“GRIFFON BURGER”店長のメイバーだ。


「メイバーさん。こんにちは」


「よ! 見ろツミキ。お前のためにコレ、持って来たぜ」


「ん?」


 メイバ―は一冊のノートを取り出し、ツミキに渡す。表紙には“訳:読解! ヘビヨラズの仕組み!”と書かれていた。


「ヘビヨラズの細かいルールや地形が書かれたノートだ。お前にやるよ」


「え!? いいんですか? 貰っちゃって……」


「いいよ。元は俺がメモ帳代わりに使ってたやつだが、もう一か月後には俺居ないし」


 メイバーはポケットよりメンバーカードを取り出し、ツミキに見せる。ツミキはメンバーカードに書かれた数字を見て驚いた。


「“1months”ってことは――」


「そ。あと約一か月で釈放。正確には35daysで、今日が日曜で明日の集金日に今週七日分払うから、単純計算で後29日でおさらばだ」


 ツミキの横からマリスとポールが「おめでとうございます!」とメイバーに言う。


「お、居たのか。マリス、ポール!」


「釈放前夜にはパーティやるんですか?」


「もち! ポールの手料理楽しみにしてるぜ」


「でもメイバーさんなら、残りの刑期分の金額ぐらいすぐに返せるんじゃない?」


「いいや、あと一か月は大人しく毎週7000Gずつ返していくよ。“GRIFFON BURGER”の引継ぎも完璧にしたいし、少し名残惜しくもあるからな。それまでに余った金はメンバーに分配することにした」


 メイバーは“GRIFFON BURGER”に温かい視線を送り、「そこでだ」と話を切りだす。


「ツミキ、ウチで働かないか?」


「え?」


「俺が抜けると人手が足りなくなるからな。お前にとっても悪い話じゃないはずだ。給料は売上次第だが、最低毎週7000Gは手に入るし、盛り上がる時は20000までいく。上の役職に就けばその分報酬も増えるしな。俺が釈放されるまでは面倒見てやるぜ」


「……。」


 ツミキはシンの方を見る。するとシンはニッコリと笑い、


「悪い話じゃないと思うよ。なにもやることが思いつかないなら、とりあえずやってみれば?」


 ツミキは考える。今の状況、今の目的を踏まえてバイトする価値があるかどうかを。


(現状、僕の力でここを脱獄するのは到底無理だし、もしかしたらサンタさん達が助けに来てくれるかもしれないから、今は大きな動きをせず、街に順応した方が良いかな)


 ツミキは口元を緩ませる。


(それに、飲食店で働いたり、こうやって同世代の友達と一緒に遊ぶのは……楽しいかも)


 ツミキの人生は波乱続きだった。

 幼少期に両親を亡くし路頭に迷い、『彼女』に出会ってからも雑草を食べて腹を満たす日々を過ごした。サーカス団に入ってからは幸福の時間を過ごせたが、その幸福もシーザーと義竜軍の手によって奪われた。


 その後は戦いの日々。死線をくぐり、正義を通す。それはツミキがやるべきことだと思ってやっていたことだが、決して楽しいモノでは無かった。


 こうして友人と店を周り、敵の居ない場所で楽しく過ごす。ツミキにとって、この監獄の中はオアシスだったのだ。ゆえに、ツミキは檻の中へ手を伸ばしてしまう。


「どうする? ツミキ」


「わかりました。お願いできますか?」


「もちろんだ! 早速明日から来てくれよ」


 メイバーは忙しそうに自分の店へと帰っていく。


 再び歩を刻み始める四人。そんな四人を、トート・ゲフェングニスは中央棟の屋上から眺めていた。



「友を得て、娯楽を知り、職につき、衣食住も手に入れば、人は“自由”を見失う……」



 それからツミキはヘビヨラズに順応していった。


 三日目、初勤務日。優しい先輩に囲まれながらツミキは仕事を覚えていった。


 四日目、ツミキは本屋を知り、金の使い方を覚えていく。


 五日目、いつもの四人で映画を見に行く。帰りにメイバーと出会い、夕食を奢られる。


 六日目、七日目、八日目――二十日目。


 ツミキがヘビヨラズに来てから二十日が過ぎた時、ツミキの頭の中から脱獄の二文字が消えてなくなっていた。

121号室:ツミキ&シン

122号室(隣):マリス&ポール

128号室(正面):テンオウ

132号室(上階):ラッキーボーイ

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