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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第四幕 “ゲフェングニス”の罠

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4‐③ 刑期システム

 ツミキは(きびす)を返し、第一棟のトイレへ行っていた。

 トイレの洗面台で顔を洗いながら頭の中で情報を整理する。


(思っていた以上に、おかしな場所だ……それに――)


 同じ時、入口の所でシンとトートは雑談を(まじ)えていた。


「ツミキ君、大丈夫かなー?」


「うへぇ! 普通は喜ぶと思うんだけどな~。監獄だと思って警戒してたけど! めっちゃいい所じゃん! ――ってさー」


「普通は戸惑(とまど)うよ! だから順序良くいきたかったのに、トートさんが乱すから~。――それでトートさん、ツミキ君のことどう思った? 初見の感想は?」


「うーん、そうだね~」


 ツミキは洗面台の鏡を見ながら、トートは頬を掻きながら言う。


「嫌いだな……、あのトート・ゲフェングニスって人……」


「嫌いだね。何となくだけど、ものすごく嫌いだ」


 ツミキとトートはたった数秒の接触で互いに互いを(いや)がっていた。

 ツミキは手を拭いて、トイレの外へ出る。するとツミキの前を、正確にはトイレの前に一つの人影が訪れた。


 突然現れたツミキに驚き、その人物は声を上げる。


「ひっ!?」


「あ、えっと……」


「す、すみません!」


 男か女かわからない中性的な声。ツミキより身長が低く、ベレー帽を被っていたため顔は見えなかった。


 子供は頭を下げ、ツミキから逃げるように立ち去る。


(シンが言ってた残り四人の同居人の一人かな?)


 子供は逃走の最中、ゴトン。となにかを服の隙間から落とした。


「ん?」


 分厚い本だ。 

 ツミキは急いで駆け寄り、本を拾って声をかける。


「おーい! これ落としたよ~」


 だが声は届かず、走り去ってしまった。

 ツミキは本を拾い、その題名を見て目を輝かせる。


「これ、理由なき戦争の第一期の記録だ! す、すごい! 四期からしかサーカス団では手に入らなかったけど、こんな所で――」


 ツミキは首を振って「いけないいけない」と我に返り、本を抱えて玄関へ向かう。


(多分、この棟に住んでる子だし、後でシンに聞いて返しにいこう。――あ、あと、返すついでに“理由なき戦争”について語り合えたらいいな……)


 ツミキは「お待たせしました」と入り口に居るトートとシンに話しかける。


「遅いよツミキ君~。せっかく一緒に(まわ)ろうと思ったのに、仕事の時間が来ちゃったじゃないか! もう戻らないと」


「す、すみません……」


「いいよいいよ。楽しんでいって。代わりは用意するから……おーい! メイバー君!」


 トートは大きなハンバーガー店を営む一人の男性に声を掛ける。トートに呼ばれた男、メイバーは「あ、トートさん!」とこちらに駆け寄ってきた。


「どうしました? ――おっと、そちらは新入り君かな? 見かけない顔だ」


 恐らく店で統一しているであろう“GRIFFON BURGER”とロゴが入ったエプロンしている三十路ほどに見える男性だ。天然パーマの茶髪。どこか余裕のある面持ちだ。


「はじめまして。ツミキ・クライムと申します」


「どうも。俺はメイバー・ペーターズ、よろしくな!」


「メイバーさんはこの街の大手バーガー店を経営している店長さんだよ。今、もっとも()()に近い人間だね」


「メイバー君。悪いんだけど、ツミキ君にこの街の説明してあげてくれない? シンちゃんはちょっと頭が逝ってるからさ、任せられないんだよね」


 シンは頬を膨らませ、「どういう意味ですか!」とトートのバリアを蹴り上げる。だがバリアはバチンと音を鳴らすだけで微動だにせず、衝撃だけがシンのつま先に返って来た。


「痛っ!?」


「いいっすよ。もう引継ぎは終わりましたし」


「ほんと? 助かるぅ~」


 トートは玉座を発進させる。


「それじゃ頼むね~」


 トートは監獄の中へ消えていった。


 メイバーはツミキの方を向き、気さくに話しかけてきた。


「それで、まず何を知りたい?」


「えっと、どうして皆さんお店を開いているのですか?」


「そりゃ、金を稼ぐためさ」


「でも普通に暮らす分なら一日2000Gあれば十分だと思いますが……」


「んーっと、お前もしかして刑期システムのことを知らないのか?」


「刑期システム?」


「はい。まだ説明してませんよー」


「一番大切な所だろうが……まぁいい。メンバーカードを出してみろ」


「メンバーカードなんて持ってませんが……」


「カードキーのことだよ、ツミキ君」


「あ! さっきのやつか」


 ツミキはポケットからカードキー改めメンバーカードを取り出した。


「メンバーカードの液晶部分に数字が書いてあるだろ? なんとかyearsってやつ」


「は、はい! 書いてあります」


「その数字が示すのが刑期だ。10yearsなら刑期十年、5daysなら五日だ」


「なるほど――ってことは……」


 ツミキのメンバーカード、その左上には確かに“100years”と書かれていた。


(刑期百年!? ま、まぁそりゃテロリストなわけだし、アンドロマリウスの右腕を引っ張り出したことも合わせれば当然か……)


「ん? どうした、ちょっと見せてみろ」


 メイバーはツミキのメンバーカードを見て、「おいおいマジか!」と声を漏らした。


「100years!? つまり刑期百年! ほとんど無期懲役みたいなもんじゃねぇか……なにやらかしたんだお前? うちでもトップ5に入る長さだぞ……」


「つっみき君、やーんちゃ!」


「あっはは。死ぬまで監獄暮らしですね」


「いいや、他の監獄ならそうだが、お前は幸運だ。ここなら上手く立ち回れば死ぬまでには出れるかもしれない」


「え?」


「ここは普通の監獄と違って、借金を返すようにゴールドを納めることで刑期を減らしていくシステムなんだ」


 メイバーは店の間を歩きながら説明を始める。


「普通、刑期は過ごした日数分だけ減っていくだろ?」


「はい」


「だが、ここじゃ過ごした日数なんて無意味だ。刑期10年の奴がたった一年で釈放されることもあれば、刑期1年の奴が十年間出られないこともある。刑期を減らすのに必要なのは、金だ」


「金?」


「金を払って刑期を減らす。それがここのルール。刑期一日減らすのに必要な額は1000G、一週間なら7000G」


「つ、つまり。365000Gを納めれば、一年分の刑期が減るってことですか?」


「そういうこと」


「じゃあ逆に、1Gも納めなければ……」


「刑期は減らない、セルフ無期懲役だ。朝11時に2000G支給ってのは聞いただろ?」


「はい。聞きました」


「刑期一日減らすのに必要な額1000G。これは一日の支給金2000Gの内、朝・昼・晩と食事をして、尚且つある程度娯楽を満喫しても一日1000Gは残る、っていう計算からだ」


「そうそう。普通に過ごしてれば通常通り刑期は減っていくんだよねー」


「そんで、この金を納めるタイミングも指定されている」


 ツミキはメイバーが説明する前に、そのタイミングに見当をつけた。


「毎週月曜日の手持ち金の回収……」


「そうだ。月曜日に回収された全財産によって刑期は減る。このタイミング以外で納めるのは不可能。一週間終わった時点で7000G余ってれば日にち通り刑期が減るってわけだ」


 ツミキは刑期システムについて聞き、驚きを隠せなかった。


「か、変わったシステムですね――そうか。だからこうして店を開き、囚人からお金を稼ぐことで自分の刑期の消費に当てている、というわけですか。面白い仕組みだ……」


「一年減らすのに365000G。お前の場合は刑期百年だから、三千六百五十万G返せれば無事釈放! ってわけだ」


 結局無理では? とツミキは心の内で呟いた。


 メイバーは落ち込むツミキと肩を組む。


「そう気を落とすなって! 俺は半年で五年の刑期を消化できた。お前も、上手くやればそれだけ早く出られる。――ツミキ、だったよな?」


「はい」


「お前さんからは只者じゃない空気を感じる。どこか他の奴とは違う。そんな気がするんだ。ただの勘だけどな」


「メイバーさん……」


「ここは良いところだ。なぜ店を開くのか、いや……なんでこの監獄は囚人に店を開かせるのか。その答えは外に出た後も真っ当に生きられる術を身に付けさせるためなんだ。俺はそう思っている。――やるだけやってみろ若者よ! 希望は捨てるのも抱くのも簡単だ」


 メイバーはそう言って商店街に溶けて行った。


「知りたいことがあったらすぐ聞いてくれ! 俺は大体この辺りにいるからなー」


 メイバーは慕われている。今も話の途中で多くの人間に呼び止められては無料で物を貰っていた。生粋の善人であることは会って数分のツミキにすらわかった。


「良い街、か」


「なんだか引っかかるって顔だね。ツミキ君」


「うん。少し前の僕ならきっと、この街のシステムに素直に感心してた。だけど、前に行った街で学んだ。目に見える範囲のことなんて信用ならないと。痩せた大地に花が咲くには理由(うら)がある。――この街にも必ず裏がある……」

~ルールその5 刑期システム~



ヘビヨラズでは一日1000Gで刑期を無くすことができる。

そのため早く釈放されたい者達は店を開き、金を稼ぐ。だが全員がそうではなく、ニート気質な人間や刑期が少ない人間は働くことなく、一日1000Gを使うだけでのんびり暮らしている。サラダバーとドリンクバーで食費を浮かせれば一日2000G残すことも可能であり、その場合は通常の二倍の速度で刑期を減らせる。中には監獄内に一生留まるつもりの人間もおり、そういった人間は金を寄付したり商品を買いあさって毎週使い切っている。


~ルールその6 出店について~



店を開くまでは(建物や内装分は)監獄側から出資される。だが食料などの商品は自費で払わなければならない。店を持つ人間は“特別発注権”を持ち、必要な材料・商品を安値で取り寄せることができる。半年に一度、売り上げ上位5位までの店は監獄側から特別ボーナスを貰える。

基本的に一日ごとに発注を行い、週末に稼ぎをメンバーに分配する。店側はゴールドの回収日に費用として3万ゴールドまで店の名義で次の週に持ち越せるが、その額を超えた売り上げはしっかりメンバーに分けないと無に還る。

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