4‐② 監獄都市“ヘビヨラズ”
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした……」
ツミキとシンは食事を終え、食堂から外へ出る。
シンは後ろで手を組みながら、鼻歌交じりに前を歩いている。
「どこに向かってるの?」
「外! 気になるでしょ?」
「やっぱり外にも簡単に出られるんだね……」
「ここの監獄長の方針だよ、『囚人と言えど、自由であるべき!』ってね」
「監獄長……ちょっと気になるなぁ。看守が一人って言ってたけど、監獄長とその看守さんで合計二人の管理人が居るってこと? それとも他の役職の人がチラチラ居たりは――」
「居ないよ。監獄長と看守さんで二人! それ以外に囚人以外の人は居ない。たまーに、義竜軍の人が食料とか仕入れに来たりはしてるけどね」
「へぇ……」
二人が廊下を歩いていると事件は起きた。
――ゴオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!
「うわっ!?」
すぐ目の前で凄まじい音が鳴り響いた。
二人が歩いていた廊下の壁を突き破ってその存在は現れた。人――ではない。骨だ。人骨だ。バスタオルをマントのように羽織り、海パン一丁の骸骨が玉座に座って空を浮かび壁を突き破って来た。
「へ?」
『やぁ!』
骸骨が喋った。
骸骨を中心に……というより、玉座を中心にボール状のシールドらしきモノが張られている。玉座の肘置きの部分に丸い立体パネルがあり、それで玉座を操っているのだろう。
「グットモーニング! 君が新入りだね! 待ってたよ~君と会うのが楽しみすぎて会いにきちゃった♡」
こっちの動揺を無視して骸骨は軽快に話し出す。
ツミキは突然のことすぎて状況把握に十秒を使った。
「え? 骸骨がしゃべ、えぇ!? 壁!!?」
「いーいリアクション! ドッキリ大成功! って感じ?」
「もぉ~! トートさん! ツミキ君が驚きの余り思考停止状態に陥っちゃったよぉ!」
「めんごめんご。でもこういうのって初めが肝心じゃん? やっぱやるでしょ、とっておきのサプラ~イズ」
シンは頬を膨らませてひとしきり怒った後、骸骨の説明を始めた。
「ホントは最後に紹介するつもりだったけど、仕方ないからいま紹介するね。この人は“トート・ゲフェングニス”。この監獄の監獄長だよ」
「どもども♪」
「監獄長!? というか、なんで骸骨……」
「これは骸骨じゃなくて人骸。遠くから遠隔操作で操れるの。トートさんは万が一にでも死にたくないから、身代わり人形を使ってこの監獄を管理してるんだよ」
「僕ってシャイだからさ、生身で人と話せないんだよね~」
“トート・ゲフェングニス”。骸骨型の人骸を使い、監獄を管理している者だ。
生身はまた別の所に隔離してあり、人骸を傷つけても本体にダメージはいかないため、凶悪犯がうようよ居るこの監獄でも安全に活動することができるのだ。
「ツミキ・クライム君。今はヘビヨラズを案内されているところかなぁ?」
「は、はい!」
「なら早くここを出よう! ここは窓一つない完全防音の宿舎だからねー。外の賑わいがわからないだろう?」
トートは玉座を電動車椅子のように操り、バリアをクッションに宙に浮かびながらツミキ達の前を走る。
「せっかくだから、君にもこの街を楽しんで欲しいんだ!」
(街?)
階段を降り、大きな玄関口を抜ける。すると、そこに広がっていたのは――
「嘘……」
繁華街のような賑わいを見せる、文字通り“街”だった。
「さぁさ見てって! 今日は3Dであの人気作を流すよ!! おひとり様500G!」
「お好み焼きはいかがぁ~? 今なら開店セールで安いよぉ~!」
「今話題の美容ヘアオイル! 只今仕入れました!! 先着50個、ほら買った買った!」
黒い垂れ幕で囲まれた劇場。
男女でお好み焼き屋を経営する屋台。
肌の綺麗な女性が営む美容品専門店。
他にも多種多様な店が並び、それらの店を囲むように監獄の棟は建てられている。
ツミキは混乱していた。監獄、というモノが何だったのかわからなくなっていた。ここは街、それもかなり栄えた街だった。
(わからない……一体ここは、どこなんだ!?)
ツミキの動揺に終止符を打つように、トートはツミキの正面に移動し振り向き、両手を広げて言い放つ。
「ようこそ、ツミキ・クライム君。我が監獄都市“ヘビヨラズ”へ」
~ルールその4 商品の価格~
基本的に商品の値段は1000Gで頭打ちと決められている。そのため、一つのアイテムを細分化して合計金で1000G以上を売りさばくやり方はあるが、トートが必ず店を開く前に商品のメニューを確認するため悪質なモノは阻止される。




