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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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last episode  “終わりと始まり”

♦♦♦王都の街道♦♦♦


 街道を歩く住民に紛れ、アレン・マルシュは歩いていた。


「お~い、アレン」


 アレンを呼ぶ声は正面の工具店より聞こえる。そこに居たのは丸刈りの眼鏡を掛けた男性だ。白衣を着ており、陽気な笑顔を浮かべている。


()()()()


「見てたよ。さすがに星守(ほしもり)を相手にするのはまだ早かったようだね」


「ごめんなさい……」


「なーに、気にすることは無い。これから調整していけばいい。――“アート・キングダム”へ戻ろうか」


「はい」


 アレンとお父さんと呼ばれた男は王都の外へと足を向ける。すると、


「ちょっと待ってくれ! アレン!!」


「ん? 誰だい?」


 ぜぇぜぇと息を切らしながら背後より現れたのはカミラだ。

 アレンは膝に手を付くカミラへ近づく。


「カミラ……」


(リウム合金に選ばれた少女か)


 カミラはにっこりと笑い、顔を上げる。


「アレン! ありがとな! お前のおかげで合格できた!!」


「そんなこと……」


「あるよ。もしお前以外の奴と組んでたら俺は間違いなく初っ端で脱落してた。――欲を言うならお前とはもっと一緒に居たかったぜ」


「私も」


「そっか! よかったよかった。そんじゃ、いつか俺が活躍して、部隊長を任せられるようになったら……お前を俺の作った部隊の副隊長にしてやる!」


 アレンは嬉しそうに目を泳がせる。


「副隊長?」


「おう! そうすりゃ一緒に居られるだろ? 俺がナンバー1、お前はナンバー2。そんでアーノルドあたりがナンバー3だ」


 アレンはぎゅっと服の裾を掴み、カミラに聞く。


「私なんかでいいの?」


 不安そうに聞くアレンにカミラは真っすぐな瞳で応える。


「お前じゃなきゃ嫌だ」


 アレンは常に無表情だった顔を少し緩め、口角を上げて言う。


「約束、だよ?」


「ああ!」


 カミラは右手を前に出す。


「また会おう!」


「うん」


 その右手にアレンも応えたのだった。互いの手を握り合い、二人は別々の道を行く。

 嬉しそうに、ほんの少しだけ口角を上げるアレンに男は言う。


「そうだアレン。君にプレゼントを用意したよ」


「プレゼント?」


「そ。ちょっとしたツテでね。前に欲しいって言ってたろ? ()()


「え? ほ、ほんとにお父さん!」


「ああ。その子の名前は――」



 一方、アレンの背が見えなくなるまで手を振ったカミラは踵を返し、帰路につこうとするが、



「お、なにしてんだ若いの」


 白髪の老人に呼び止められた。


「ケンジ・ルーパー……」


「よ。今日は楽しませてもらったぜ」


 カミラの肩を叩き、帰ろうとするケンジをカミラは呼び止める。


「待てよ。お前、なんで試験なんかに協力したんだ?」


「善意だよ、善意」


「そんな性質(タチ)じゃねぇだろ」


「おっと、こんなガキに見透かされるとはな」


 ケンジは足を止め、空を見上げながら言う。


「“ツバメちゃん”を探していたのさ」


「ツバメちゃん?」


「全力で殺しにかかっても死なない奴のことだ。狙撃ってのは基本不意打ちだからな、大抵の奴は一発で沈められる。――だがな、そんなのつまんねぇだろ? 俺が求めてるのは不意打ちだろうが、どれだけ正確な射撃だろうが、躱し、いなし、俺に迫る相手だ。俺のもちうる全ての手札を真っ向から潰してくる好敵手……」


「それがツバメちゃんか」


「手札を全て切った後の、極限の戦いがしてぇのさ。――もし受験者の中にツバメちゃんが居たのなら、レジスタンスになって義竜と敵対し、ソイツと殺し合いしようと考えていたんだがな」


「はぁ!? お前、そんな理由で軍を抜けるのかよ!」


「俺にとっちゃ義竜軍がどうなろうが、この世がどうなろうがどうでもいいのさ。俺の欲求を満たせればな」


 カミラは改めてケンジという男に畏怖を覚えた。


――星守はまともじゃない。


 誰かが言った言葉、その意味をカミラ・ユリハは肌で感じ取った。


「でもいなかった。お前は悪くなかったけどな。だが、正直全力は出せなかった」


「だろうな、お前が全力じゃないってのは戦場を俯瞰している時に何となくわかったさ。まだなにか隠してやがったな」


 無言の眼光がYESと答える。


「お前のツバメちゃんになれそうな奴は他に居ないのかよ?」


「可能性があるのは同じ星守のコモンかクラックだが、コモンはまだ物足りねぇしクラックは行方知れずだしな。――あ、あと前に……凰燭軍(おうしょくぐん)に一人居たな。赤い特化型(ルーク級)使う奴。でもそいつは多分アンドロマリウスに焼かれたからなぁ」


「ツバメちゃん、か。なれそうな奴、一人知っている」


 カミラは一人の少年を思い出しながら言う。


 ケンジは血相を変えて振り返った。


「本当か!?」


「あ! いや悪い、そいつは死んじまってんだ」


「そ、そうか……」


「もしアイツが生きてたら、アンタのこと真っ向から倒せただろうぜ」


「いねぇやつに期待してもしょうがねぇだろ。まぁいいさ。またゆっくり戦場を周って探すよ。――経験を積め、カミラ・ユリハ。お前はまだまだ強くなれる」


「ああ、またな。ケンジの爺さん」


「ッフ」


 ケンジは夕暮れに消えた。

 カミラは右こぶしを握り、今日出会った強者たちを頭に浮かべる。


(ツミキ。俺達が思っていた以上に、この国は凄い奴で溢れてる。英雄への道は険しそうだぜ)


「おーい、カミラちゃん!」


「ん?」


 後ろから声を掛けられ振り向くと、ナルミ、ピスケス、エルフ、アーノルドの四人が居た。


「“解散!” って言った手前なんだけど、皆の要望で打ち上げすることになったよー」


「打ち上げじゃねぇ! 歓迎会だ!」


「早くしろ下民!」


「ナルミ様の奢りだよ」


 カミラは微笑み、仲間たちの元へ走り出す。


(英雄になる。そのためにはまず、アンドロマリウスの右腕を奪い返さなきゃならねぇ……だが、その前に――)


 ここからカミラ・ユリハの物語は動きだす。


「腹ごしらえだ!」

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