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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐⑪ 四対一の鬼ごっこ

 アレンは大盾を捨ててエンジンを全開にする。


「アレン!? どうして――」

「この相手に盾は無意味。邪魔だから捨てた」


 そう言い放ち、アレンは機体をジグザグに動かし始めた。横の動きを加えることで弾を避ける算段かと、ケンジは考える。


『あまいな……その程度の動きで俺の狙撃を避けられるもんかよ』


 引き金に指がかかる。指に力を込められた時、


「――」


 アレンは規則的に右→左→右→左と動かしていたチェイスを、右→右と乱した。


(コイツ――)


 修正間に合わず、放たれる弾丸。

 ケンジの放った弾丸はメランの側を通り過ぎた。


――ケンジ・ルーパーまで残り600m。


 旗の数はあと七つ。


『やるじゃねぇか。俺の狙撃のリズムを読み切ったな』


「もう、呼吸は見えた」


 再び左右にチェイスを振るアレン、しかし、メランの右肩に付いた旗が一瞬の内に撃ち抜かれた。


(呼吸が変わった……)


『どうするお嬢ちゃん……』


――ケンジ・ルーパーまで残り550m。


(予想していたより遥かに高精度)


「頑張ってアレン……! あと300は欲しい!」


「了解……」


 と言いつつも、旗は一つ、また一つと撃ち抜かれた。


 旗はあと四つ。


 ケンジ・ルーパーまで残り450m。このペースで行けばあと百メートルともたず全ての旗を撃ち抜かれるだろう。


「アレンッ!!」


(やるしか、ない)


 アレンは深く呼吸をする。


「心能。“雲集霧散(うんしゅうむさん)”……!!」


 ドクンッ!!! とアレンの心臓が大きく跳ねた。


 同時にアレンの瞳孔が開き、瞳の先で眩しいほどの光が上がる。


 エルフはアレンの背後で空気が凍てついたのを感じ取っていた。


(アレン?)


「abeg.mmmk945.hfyyypl……」


 アレンはボソボソと英単語を呟き、背負っていたアサルトライフルを抜いて、時計塔へ銃口を向けた。


 ケンジは引き金を引き、銃弾を発射させる。するとアレンの視界から背景が青色に溶け、銃弾と自分のチェイスのみが残った。アレンの視界に残った物体がスローモーションに動き出す。


「70over」


 ケンジの攻撃に対し、アレンは左手を前に出して左手で銃弾を受けた。


(なに?)


 銃弾はアレンのチェイス“メラン”の左手に着弾、メランの左手は破損するが、本来ケンジが狙っていた左肩の旗には当たらず、銃弾は左腕を貫いて地面に突き刺さった。


(左腕を盾に、弾道を逸らしたか!?)


「alenfgw.hhiort」


 アレンの視界が再びスローモーションに流れる。またしても背景は青色に溶け、今度はアサルトライフルとケンジの乗るアズゥ以外の全てが消え去った。


 アレンは待つ。時計塔と自分達の間を挟むモノが無くなる一瞬の時、建物と建物の隙間が重なる刹那を。


(ここだ)


 ガンッ! とアサルトライフルより銃弾は放たれた。


 弾丸はケンジに真っすぐ伸びていくが、ケンジは予測していたようにライフルから手を放して、アズゥの右手に放たれた弾丸を躱した。ケンジは“明察秋毫(めいさつしゅうごう)”の能力によってメランの指の動きと銃口の位置を確認し、弾道を予測・回避したのだ。


「おいおい。楽しませてくれるじゃねぇの!!」


 ケンジがライフルから手を放した瞬間、まっすぐ加速するアレンとエルフ。


(す、すごい。今の一連の動き、とても真似できない……)


 アレンの神業とも呼べる動きに思わず笑ってしまうエルフ。だが、とうのアレンの顔色は優れなかった。


「うっ――っか!?」


 左胸を押さえ、苦しそうに顔を下げるアレン。


 その右目からは血涙が流れていた。

 メランが蛇行するのを見て、エルフはアレンの身を案じる。


「アレン? アレンッ! 大丈夫!?」


(心能を、使いすぎた……これ以上は、駄目)


 アレンが怯んだ一瞬を、二発の弾丸が貫く。

 左肩、右脚に付けた旗が撃ち抜かれた。その内一方はアレン自身の旗だった。


『アレン・マルシュ。退場だ』


 ピスケスからのアナウンスが流れる。

 アレンはその場でチェイスを止めた。


「ごめん。でも、300は運んだ……」


「あとは任せて。任務は果たす!」


 エルフの乗るヴェルメリオが単身、前に出た。そして――


「禁呪解放――!」


 その指先、瞳、そして弓に電光が走る。


 エルフ自身の瞳も緑色に光った。これは電子コンタクトによるものだ。


 ヴェルメリオは弓を構え、引き絞る。


「狙いまで150――」


 エルフは矢を空に放つ。同時にエルフの旗はケンジによって撃ち抜かれた。


――エルフ・エイド、リタイア。


 しかし、エルフの放った矢は生きている。ケンジは矢を感覚の内に捉えながらも迎撃は間に合わない。


「まさかアレは――」


 放たれた矢は風を切り裂き、空を通り斜めに落下。時計塔の根元に着矢した。


 矢の矢尻にも部分は通常より太く、先端は丸い磁石のようなものがくっついている。その磁石に覆われた内部には特別製の爆薬が積まれていた。


(くらえ。爆薬付きアロー……“鬼花火”ッ!!!!)


 バァンッ! と矢と共に時計塔の根元が爆発。時計塔は土台を失い、崩壊を始めた。


「時計塔を破壊して、俺のチェイスを再起不能にしようって魂胆か!」


「あとは任せたわよ。アーノルド君、カミラ」


 ケンジは事態に驚くことなく、冷静に対処する。


(大丈夫だ。時計塔のすぐ近くには、背の高い美術館がある)


 ケンジがそう言って斜めに傾く時計塔の壁を滑り落ち、美術館の天井に飛び移ろうとした瞬間、天井に二つの反応を拾った。


「どういうことだ? なぜお前らがそこにいるっ!?」


 美術館の天井の上にはすでに、アーノルドが乗るウィリディスとカミラが乗るアズゥが空から来るケインを待ち構えていた。


「さぁってここからが本番だ!」


「覚悟してください! ケンジ・ルーパー殿ッ!!!」



 ケンジ・ルーパーまで残り20m。

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