3‐⑩ だるまさんがころんだ
「貴様、なんのつもりだ?」
「お前がこのチームの隊長だって言ってんだ。アーノルド隊長」
隊長、と呼ばれアーノルドの顔はほんのりと赤くなる。
エルフとアレンは当然のことで戸惑っている。すると、カミラはアズゥの左手のジェスチャーで“援護しろ!”と二人に伝えた。
(コイツを仲間に引き入れるにはこれしかない……これしかない、が。――腸が煮えくり返る! 耐えろカミラ・ユリハ! 例え仲間の仇だろうと、俺はこんなところで足踏みするわけにはいかねぇんだ!!)
二人はカミラの行動の目的を理解し、舌を動かす。
「そうね。やっぱり急造のチームは不安、ここは実績もあってリーダーシップもあるアーノルド君に隊長をやってもらって、チームの和を保って欲しいわ」
アーノルドの鼻が高くなる。
「アーノルド、隊長。うん、しっくりくる」
カミラ、エルフ、アレンに乗せられ、アーノルドは完全に吹っ切った。
アーノルドは「フハハハハハッ!!!」と高笑いし、
「いいだろう! 仕方あるまい! この私が貴様らに勝利をくれてやる!」
上機嫌になるアーノルド。
他の女子三人は『チョロいな』と心の声を一致させた。
「そこでだなアーノルド隊長、俺が得た情報を共有したいんだが」
「いいだろう、発言を許可する!」
「まず方法はわからねぇが、ケンジ・ルーパーって野郎は自分を中心にして半径1キロから1.1キロ四方に入った奴を捕捉している。この範囲内じゃ隠れても無駄だ。どのルートでも必ず全員やられている」
「ふむ。そのトリックを解かなければケンジ様には辿り着けぬか」
エルフは首を振り、
「いや、多分トリックだとかそんな次元のものじゃないと思うかな」
アレンがエルフの発言に言葉を付け足す。
「アレは心能……だと思う」
「なんにせよ、タネも仕掛けも探している時間は無い」
「ならばどうしようもないではないか」
「いや、ナルミはきっと正解のルートを用意してあるはずだ。ケンジ・ルーパーの死角を抉るルートを。そして、俺が思うにそのルートは……」
カミラは地図のとある場所を拡大して他三機に送信した。
「これは――」
「いい、かも……でもチェイスを運用したなら結局バレるんじゃ――」
「まだ話は終わってない。俺にとっておきの作戦があるんだ」
――――――――――――――――――
試験管理室にて、ピスケスは時計を確認し、通信を全体に繋ぐ。
『試験終了まで残り三十分だ!』
カミラ、アーノルド、エルフ、アレンが手を組んでから一時間近くが経過した。
ケンジは依然として時計塔から街を俯瞰している。エルフ、アレンは共にケンジより1.2キロ離れた場所で待機。カミラとアーノルドのチェイスは姿を消していた。
「OK。始めるわ、アレン」
「了解」
エルフが操るは赤色を基調としたチェイス“ヴェルメリオ”。特別製の弓と矢を使う発展型の支援機だ。
アレンのチェイス“メラン”は大盾を持ったチェイス。
二人はメランを前面に出し、その肩をヴェルメリオが掴んで背後に位置する。ヴェルメリオは完全にメランと大盾の影に入っていた。
――ケンジ・ルーパーまであと1.1㎞。
二人は正面に見える壊れた電柱を睨む。
(カミラが言うにはあの電柱がちょうどケンジ様から一キロ地点……)
エルフはごくりと息を呑む。そして、
「アレン!」
「よーい、スタート!」
二機は発進した。
制限時間残り25分。最後の戦いが始まる。
3、2、1……
――ケンジ・ルーパーまで残り1㎞。
『お! 来たな……』
ケンジの心能のセンサーに二人は入る。同時に二人は言い表せぬプレッシャーを感じた。
(わかる……私たちは今、見られている。ここはケンジ様の掌の上……)
だけど。とエルフは笑う。
ケンジは気づく、アレンの機体にまとわりつく物に。
「あれは――」
アレンのチェイス、メランの全身には合計九本の旗が付いていた。
旗は全て中腹部分で布テープでそれより下を隠され、貼り付けられている。
(どういうことだ? テープは旗をくっ付ける時にピスケスが配布したやつだ……だがあの旗は一体? 一本の旗はあのチェイスの物だとして、残り八本――八? そういうことか!)
ケンジは八という数字に覚えがあった。
試験管理室で試験を見ていたピスケスがケンジの考えを補足する。
「ケンジ様が撃ち抜いた旗の数は八八、今残ってるのは四機……そんで、ケンジ様以外の奴、つまり受験者同士でやり合って消えたのが八――ケンジ様から半径一キロメートル外でリタイアした奴の旗を全部かき集め、アレンのチェイスに張り付けた。木を隠すなら森の中、旗を撃ち抜かれるなら旗の数を増やして撹乱ってか」
しかし、とピスケスの中で謎が残る。
「旗が全部根元から切れてたって都合がよくねぇか?」
「必然だよ。だって八機のチェイスを倒したのはアレンちゃんだからね」
「そっか。そういえばアイツ、展望台から離れた後、縮こまってる受験者を狩りまくってたな……あの時か」
「そ。状況が読めずにしても旗を使った撹乱作戦はこの試験なら必ず使えると思ったんだろうね」
「単機でペア組んでる奴らを倒すとか半端じゃねぇな。でもよ、下手に受験者減らすより、手を組んでばらけて数でかく乱した方がよかったんじゃねぇか?」
「この試験の合格者は三人まで。三ペア以上で手を組むと手柄の取り合いで連携に支障をきたすと考えたんだろう。だからカミラちゃんは展望台から全体を見て、一番やり手であるアーノルド君とエルフちゃんに絞り、他は切り捨てる方法を取った……」
九つの旗を持ったメランを盾に、ヴェルメリオおよびエルフはケンジに接近する。
――残り900m。
瞬間、九つの旗の内、一つがメランの盾を貫通して撃ち抜かれた。
「撃たれた……」
(やっぱり、ケンジ様はそうきましたか……)
ケンジは動揺した心を沈め、射撃体勢を取る。
(テープで根元が誤魔化されてるから、本物がどれかはわからねぇ。なら、全部撃ち抜くだけの話よ)
二発目が発射され、旗がもう一つ撃ち抜かれる。
『ほーれ。これで次は、七分の一の確率だ……』
「……。」
アレンの集中力が増していく。




