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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐⑨ 四人一組

 次々と受験者が落ちていく様子を管理室で見ていた面々は、ケンジの圧倒的な力に口をポカーンと開けていた。


「さっすがだねー! ケンジさんにたどり着くどころか、九百メートル地点まで行けた人すらいない」


「同じ狙撃手として見たくない映像だな。自信なくすぜ……」


「あっはは! 比べる相手が悪いよ。ピスケスだって十分(じゅうぶん)凄腕のスナイパーさ」


「はいはい。今聞いてもお世辞にしか聞こえねぇよ」


 それより。とピスケスは横目にナルミを睨む。


「テメェがチームを組むなんてな。テメェの心能のことを考えると悪手にしか思えない」


「なーに急に?」


「どうもテメェの真意が読めねぇ。そういう性質(タチ)じゃねぇだろ」


「上からの命令だし、そうも言ってられないよ」


「――目的はなんだ?」


「目的? そりゃもちろん」


「アンドロマリウスの右腕を奪取するため、か? 俺が知っているナルミって男はなぁ、むしろアンドロマリウスの右腕を義竜軍から遠ざけようとする」


「さっすがピスケス、わかってるぅ」


 ピスケスは軽い物腰のナルミに対して舌打ちをする。


「――お前の妹と、母親。そして俺の両親を殺したのはアンドロマリウスだろ」


「怒らないでよ、わかってるって。僕の目的は変わってない。僕の目的はあの日からずっと、アンドロマリウスを殺すことさ」


「……。」


 ナルミの瞳の先に真っ暗なモノを見て、ピスケスは舌打ちする。

 ナルミは時計を確認して、再びカメラの映像に視線を戻した。



「もうじき、残り時間が半分を切るね」



 試験開始から一時間半が経過した。



 残りの受験者の数――四名。


「あと四人か。お前が推薦した三人生き残ってるじゃねぇか。アーノルドとエルフは実績からして納得だが、あの小娘が残ってるとはな」


「面白いよね彼女。見てた?」


「あぁ。アイツ、全員が勇み足で突撃している中、外壁の上でずっと戦場を観察していた。戦いにおいて情報収集と戦闘、どちらに多く時間を割くかと言えば前者だ。カミラ・ユリハ、時間の使い方がわかってやがる」


「でもこのままだと全滅かなー。思ってたよりケンジさんが強い、ハンデもほとんど意味を成してない」


「その場合採用はどうするんだ?」


「試合内容で決めるしかないね」


「なるほどね。そうすれば自然とカミラ、アーノルド、エルフの三人を取れるわけか。でもな、あのアレンって奴なかなかだぞ?」


「うん。今のところアレンちゃんが一番だね。言っとくけど、僕は推薦した三人を贔屓しないよ。もし彼らより優秀な人材がいたら、迷いなくそっちを取る」


「じゃあアレンは当確か」


「今のところはね。次にエルフちゃん、カミラちゃんとアーノルド君はまだ未知数」


「四人全員取る。って選択肢はないのか?」


「無い。彼らの内、必ず一人は落とす。それどころか、このまま何もできずリタイアするなら誰一人受からせない場合もある」


 ナルミはそう言い切って、映像の先にいる少女を見て笑った。


(ま。そんなことにはならないと思うけどね)


 カミラ・ユリハ。彼女は壁に掛けられたはしごを登って城壁の上の展望台から戦場を見渡している。

 それも展望台に設置されている望遠鏡を使わずにだ。その右目に映る景色は常人のものと違い、機械じみていた。


 カシャ、カシャ。と眼球を動かし、カミラは視線の先約3キロメートル先にいるケンジ・ルーパーを裸眼で捉える。


(よし。作戦は固まった)


 カミラは再び眼球を動かし、弓と矢を持つ赤い機体と紅蓮の剣を持つ緑色の機体を見る。



「近いな……」



――――――――――――――――――



 アーノルド・ミラージとエルフ・エイドは建物を背にしてケンジより1.2キロ離れた場所に隠れていた。


「あ、ありえん……アレが、星守の力か」


 アーノルドとエルフ、二人は他の受験者と同じように最初は突撃をかけようとしたが、そのすぐ目の前で、たまたま居合わせた二機のチェイスの旗が撃ち抜かれた。


 壁越しの射撃が旗を撃ち抜きアーノルドが乗るウィリディスの肩を掠め、同時にエルフがアーノルドのチェイスを引っ張って後退させた。アーノルドは奇跡的に彼の射程範囲から逃れたが、その心には強い恐怖が植え付けられたのだった。


「アーノルド君、これからどうする? なにか作戦はあるかしら」


「無い」


「そ。なら、私は助けを借りるべきだと思う」


「なに!?」


 エルフはすぐに通信を試験管理室にいるピスケスに繋げた。ルールの確認や異常事態に備え、ピスケスの通信ナンバーは受験者全員に知らせているのだ。


『どうした?』


「ピスケス様。残りの受験者の数を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」


『受験者の数? ちょっと待て、確認する。――――わかった。教えよう。残りはお前らを含め、四人だ』


 アーノルドとエルフは四人、と聞いて肩を震わせる。


(まだ、一時間以上も時間が残っているのに……)


(我々ともうワンペア、もしくはパートナーをやられた二人しかおらんのか!)


『質問は終わりか?』


「は、はい!」


『じゃ、切るぜ』


 通信が切れる。

 アーノルドはエルフの他の受験者に助けを求めようとする姿勢に腹を立てていた。


「どういうことだ!? 他のチームの力を借りるなど、恥だろうに!」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。私達二人で何も思いつかないんだから、他の人の知恵を借りるしかない」


「この試験はペアを組んで戦うものだ! つまり、二人一組が原則だ!」


「他のペアと手を結んじゃいけないとは言われてない。むしろ、こういう所を見ている可能性もある。(あらかじ)め合格者は三人ってことにして、わざと手を組んだ時に一人あぶれるように調整した。この状況下で他のペアと手を組めるか、そういったコミュニケーション能力・状況分析能力を見ているのかもしれない」


 エルフの説明を一方的に通信越しに聞いてピスケスは「鋭いな……」と呟いた。


「言い争ってある場合じゃない。残りの二人が無意味な特攻を仕掛ける前に接触しなくちゃ」


「断る。もし貴様が他の者と組みたいのなら、勝手にしろ。私は一人でケンジ様を捕まえる」


「正気?」


「建物の影を移動すれば、目に映らず行動できるはずだ」


「私たちの目の前でやられた二人は建物の影にいた。ケンジ様は何らかの方法で通常見えるはずのない場所も見えてる」


「ふん。勘で狙って当てたのだろう。そうでなければ流れ弾だ、偶然の産物に決まっている!」


「呆れた……もう勝手にすれば」


 アーノルドとエルフは背を向け合う。


 アーノルドは呼吸を整え、時計塔に向けてウィリディスを発進させた。だが――


『やめとけ。あと百メートルいったら問答無用で撃たれるぜ』


 一人の少女の声でアーノルドは足を止めた。

 エルフの正面、アーノルドの背後に二機のチェイスが迫って来ていた。


「貴様――」


「確か、七級隊士の……」


「カミラ・ユリハだ。そしてこっちが」


「アレン・マルシュ、三級隊士」


 アーノルドはカミラの声を聞いて「ふん」と吐き捨て、再びウィリディスを前に向ける。


「待てよ、アーノルド・ミラージ。どこに行く気だ?」


「貴様に言う必要はない、下民め」


「ケンジの所へ向かう気ならやめとけ」


「私に指図をするな! 勝算はある!!」


「建物に隠れながら進めば大丈夫――ってか? 残念だが、お前が今考えていることを実行してやられた奴はいっぱいいるぜ」


 エルフはカミラの発言に対し目を細めた。


「まるでその光景を見ていたような言い草ね」


「ああ、見てた。俺は試験開始からずっと壁の上で戦場を俯瞰してたからな」


 アーノルドは「臆病者め」と蔑み、エルフは「なるほど……」と己の行動を後悔した。エルフはカミラの行動が理に適っていると感じたのだ。


「つまり、ここにいる誰よりもアナタがケンジ様について情報を持っているわけね」


「かもな」


「――私をアナタの指揮下に置いてほしい。役には立つと思う」


 エルフの言葉にアーノルドは「なに!?」と驚きを隠せずにいた。


「自分より階級が下の者に(くだ)ると言うのか!?」


「ナルミ様は私より階級が下の時でも、もうすでに前線で無類の活躍をしていた。階級が低いからって能力も低いとも限らない」


「そこの下民とナルミ殿を同列に語るとは、侮辱もいいところだ!!!」


「そうやって狭い視野で物事を考えるから賊にアンドロマリウスの右腕を盗られたんじゃないの? 元・部隊長様」


 エルフの言葉にアーノルドは益々怒りボルテージを上げる。


「そこまで言うのなら、覚悟はいいな?」


 アーノルドもといウィリディスは紅蓮の剣をエルフの乗る赤色を基調としたチェイス“ヴェルメリオ”に向けた。

 エルフもといヴェルメリオも弓を手に取る。


 一触即発の空気の中、カミラは軽い声で割って入る。


「さっきから何言ってんだお前ら。俺は別にお前らを指揮下に入れたいなんて言ってないぜ」


『は?』


「俺達の目的は一つ」


 カミラはアズゥを動かし、ウィリディスの前に膝を付けさせた。


「俺達を、お前の指揮下に入れてくれ。――アーノルド・ミラージ貴・二級隊士殿」

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