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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐⑧ 寸分狂い無し

 選抜試験、試験管理室。


 ナルミ・ハルトマンとピスケス・トーエン。他多数の見学者はそこに集っていた。


「ケンジ様合わせて総勢101機。軽く兵団が作れるな」


「これも僕の人望が成せる技だね」


「言ってろアホ」


 ナルミとピスケス、彼らは幼馴染である。


 元々ナルミは貴族の子供であり、ピスケスはナルミの家の執事見習いをやっていた。二人は共に成長し、同じ士官学校を出ている。ゆえに、非常に仲が良い。階級が違えどここまでフランクに話せるのは仲の良さゆえだ。


「そんじゃ、開始といくか」


「うん」


 ピスケスは管理室から通信を会場全体に繋ぐ。


「制限時間は三時間! ルールはさっき言った通り、ケンジ・ルーパー様のチェイスに触れることだ! これより――試験開始!!」


 うおおおおおおおおおっ!!! と受験者たちのチェイスは一斉に動き出す。


「行くぞエルフ! 我々が一番乗りだ!」


「ちょっと待ってアーノルド君。まずは様子を見よう」


 チェイスが地を鳴らす中、二機のチェイス……カミラ・ユリハとアレン・マルシュのチェイスのみが外壁の方を向いていた。そこではカミラがアズゥを使って側転を披露していた。


 アレンは一人驚いていた。目の前の少女の成長速度に。


「すごい……たった数分で、もうチェイスをまともに動かせるようになった。センスある」


「いいや、アレンの教え方が上手かったんだよ。前に本である程度の構造を見たことあるが、実際に動かしてみると理論通りいかねぇもんだな」


 カミラは千ページに及ぶアズゥの説明書を速読している。


(昔から機械の勉強はしてきたから、要領は掴みやすい)


 右目は青く光り、瞳に映った文字の要点をまとめ、素早く解読していった。


 リウム合金で作られた瞳はカミラの感情に関係なく機能する。青く輪を浮かべた瞳はカメラに似た機能を持っており、瞬きすればその直前に見たモノを脳に保存する。文字を追うスピードは常人の比ではなく、瞳孔が開けば数キロ先の光景を見ることもできるのだ。



 右目からなだれ込む情報の波を、持ち前の地頭の良さでカミラは処理していく。


(奇襲を得意とした兵器、チェイス。自在に圧縮できるが再起動には30分の時間を要する……か)


 カミラは顎に手を添え、アズゥのコックピット内を見渡す。


「でも、このアズゥってやつ……単体のコストも性能も、もっと改良の余地あるぜ。今度企画書でも作ってみるか」


 カミラは五分で千ページ読み終え、パタンと説明書を閉じた。


「アレン。この試験って俺達がめちゃくちゃ有利だよな?」


「うん」


「じゃあ、なにかタネがあるよな?」


「うん」


「制限時間三時間って長いよな? ってことはよ、初めにすることは決まってるよな?」


「もちろん。情報収集」


「ビンゴ! 俺も同じこと考えてたぜ!」


 カミラとアレンは互いの狙いがマッチしていることを確認した。


「なぁアレン。お前って強い?」


 アレンは何の謙遜も無く言う。


「強いよ。受験者の中じゃ一番だと思う」


「なら二手に別れよう」


「二手に?」


「ああ。俺はまず壁を登る。ご丁寧に梯子が付いてるしな、壁の上の展望台から修練場を見渡す」


 そう言うとカミラはアズゥを圧縮させ、駒サイズにし、自分は隣の家の屋根に飛び移った。


「よっ、と。圧縮させちゃダメなんてルールはねぇからなー」


「その代わり、問答無用で三十分間なにもできないけどね」


「別にいいさ。この三十分は動く気ねぇし」


「それで、私は何をすればいいの?」


「お前には、ある物を集めてきて欲しいんだ。例えこの試験がどう動こうが、きっと使えるはずだ」


 カミラたちが作戦会議している頃、とある場所では戦闘が開始しようとしていた。

 いや、戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な蹂躙だ。



―――――――――――――――――――――――



「始まったか」


 試験開始の号令を聞いて、銀眼の狙撃手ケンジ・ルーパーはそっと操縦桿を握った。


 ケンジが居る場所は第二修練場のど真ん中にある時計塔。時計塔は頂点の部分が壊れているため、ケンジは上から二つ目の損壊した階に居た。


 ケンジ・ルーパーの使う機体はアズゥ。手に持つスナイパーライフルは轟砲“ルリクレジット”。

 ルリクレジットから放つ弾丸は放たれて一キロ地点まで減衰することない。弾道も風の影響を受けず壁などの障害物も平気で撃ち抜き、壁の先の物体まで伸びる。それほどの威力を持ちながらリコイルもほとんどない、世界一のスナイパーライフルである。


 ケンジがチェイスにおいて受験者に優位をとれるのはこの武器だけだ。他のスペックでは同等どころか下まである。


 それでも、試験官の誰もケンジが捕まることなど無いと思っていた。


「そろそろかな……」


 ケンジのいるコックピット、そこには狙撃手に必要なスコープの代わりになるものが無かった。通常、狙撃する際はライフルセンサーという電子コンタクトを使うのだが、ケンジは使用しない。彼の中には、どんな倍率スコープも凌駕する唯一無二のレンズがあるのだ。


(心能“明察秋毫(めいさつしゅうごう)”……)


 ケンジの脳内に、自身から半径一キロ以内の光景が流れる。


見敵(サーチ)


 ケンジは映った光景を元に、南西998メートルの場所に居る二機に銃口を向け、引き金を引いた。

 放たれた銃弾は建物を貫き、死角からチェイスの旗を撃ち抜いた。


『あれ、俺の旗――』


 撃ち抜かれた四級隊士は状況が呑み込めないままリタイア。隣にいたペアの女性隊士も味方が撃ち抜かれたことを理解する前に、壁抜きで旗を撃ち抜かれた。




「寸分狂い無し」




 発芽型心能“明察秋毫”。


 自分を中心とした半径一キロメートル以内の物体を全て把握する能力。但し、密閉空間や電磁波が乱れている場所、地中・地下に居る物体は対象外。


 この心能の領域内に入ったら最後、地獄の一丁目だ。


(俺の心能に死角はねぇ、俺を中心に半径一キロ圏内はハエ一匹見逃さねぇさ。そしてあらゆる抵抗を無に帰すライフルと寸分違わず敵を狙い撃ちにするこの腕。これらを掛け合わせた俺の狙撃に対抗できるのなんざ俺と同じ星守ぐらいだな。――いや、昔もう一人居たか。真っ赤な特化型を使う野郎が。懐かしいねぇ、またアイツと戦いてぇもんだな)


 ケンジはその場を動くことなく、一キロ圏内に何者かが入った時点で銃口を動かす。


(三時の方向、三番街四丁目)


 ヒット。


(十二時の方向、宿屋の北側)


 ヒット。


(八時の方向、表通り……)


 ヒット。


 それからもケンジは引き金を引き続ける。眉間にはシワが寄っていた。


「つまらねぇ、この程度か」


 受験者たちは目にも映らぬ相手から一方的に駆除されていく。


――ヒット。


『なに!?』


――ヒット。


『うわ!!?』


――ヒット。


『どこだ!? 一体どこから――』


――ヒット。


『北だ! 北から狙って――うおあ!!!?』


――ヒット。


『嘘だろ!? 壁越しに!!?』


『う、うわああああああ!? 嫌だ、俺はまだ脱落したくな――』


――ヒット。


 一時間が経ち、薬莢が地面に五十個溜まった頃、受験者の数は半分以下まで減っていた。



「寸分狂い無し……」



 ケンジの狙撃の様子を、数キロ先から()()で観察していた少女は思わず冷や汗を垂らしていた。


「驚いた……あんな化物がいるのか」


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