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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐⑥ 百対一の鬼ごっこ

 カミラの飛び蹴りにより会場の空気は一気に凍り付いた。

 中指を立てるカミラに対し、アーノルドは血相変えて立ち上がる。


「テメェ、クソ下民が……! この俺様の顔になにしたかわかってんのかぁ!?」


(なんだコイツ? 急に雰囲気が……)


 心能“一貴一賎”。アーノルド・ミラージは自分のプライドを酷く傷つけられると精神性が変化するのだ。


「なんかアイツ、右目変じゃね?」


「きゃっ!? 気持ち悪っ!!」


 飛び蹴り自体もかなり衝撃だったが、もっと視線を集めていたのはカミラの黄金色のサイボーグである。


 カミラに先ほど消臭スプレーをかけた少女はカミラの右半身を見て目を細め、ケンジとピスケスは同時に「あれは……」と声色を低くする。


「ぶっ殺してやんゼ! 下民ッ!!」


「上等だ! かかってこい貴族かぶれ!!」


 うおおおおおおお! と右こぶしを握って接近する両者。しかし、




 パンッ!!!




『うおっ!!?』


――二人の間を一発の銃弾が駆け抜けた。


 銃口から煙を上げるライフルを構えて、ピスケスは口を開く。


「テメェら、静かにしてねぇとその喉元に風穴開けんぞコラァッ!!!!」


 鬼のような形相のピスケス。

 ピスケスの圧におされカミラの右半身は生身に戻り、アーノルドの精神も戻っていく。二人は「はい……」と大人しく列へ帰っていった。


 ピスケスの一喝で緊張感を取り戻す一同。順々と自己紹介は済んでいき、遂にカミラの番まで周ってくる。


「次! そこのガキ!」


「誰がガキだ! 俺の名前はカミラ・ユリハ! 階級は知らねぇ!」


「あぁん? 階級を知らねぇだぁ? テメェ、なめてっとマジで――」


 再びライフルを構えるピスケスの肩をナルミはポン、と叩いた。


「いやぁ、本当のことだよ。ピスケス」


 カミラはナルミを見つけると、いつもの調子で尋ねる。


「おいナルミ。俺の階級ってなんだ?」


 ナルミ。そう呼び捨てにするカミラに受験者たちは驚いた。


(あの下民……アマルヘルン防衛戦で撃墜スコア100を上げた、あのナルミ貴・一級隊士を呼び捨てにするなど、命知らずか!?)


(あの()、もしかしてナルミ様と同じ階級?)


 カミラの素性を測れない者達。

 貴・一級隊士を呼び捨てにするのだから、かなり階級の高い人間か? と受験者は委縮するが、


「あぁ、君は一応七級隊士ってことになってるよ」


「へー、そうなのか。ってことだグラサンのおっちゃん、俺の階級は七級な」


「了解だ。でも次に俺の事おっちゃんって言ったらぶち抜く」


 七級。研修を受けている新兵の階級である。


 受験者たちはカミラの階級に別の意味で驚いた。


(本当に、あの下民は一体何だ!?)


(駄目だ。ペースが乱される。関わるべきじゃないかな)


 カミラの後は滞りなく自己紹介は終わり、いよいよピスケスは本題に入る。



「そんじゃ、試験内容を発表する。試験内容は――」



 ピスケスは地面に設置された映像照写装置を起動させ、空中にその試験内容の名を浮かび上がらせる。


「“鬼ごっこ”だ!」



『鬼ごっこ?』

「それも――」


 ピスケスが手元のリモコンを操作すると画面が切り替わる。


「百対一の鬼ごっこだ」


 画面には真ん中に一つの丸いマーク。それを囲むように百個の鬼のマークが描かれた図が映し出された。


「ちなみに百はお前ら、一はここにいるケンジ・ルーパー様だ」


「――ケンジ様が!?」

「星守が相手か……」

「しかし、百対一ってどういうことだ?」


「静粛にしろ! ルールを説明する!」


 百対一の鬼ごっこ。ルール説明。


「まず、お前らにはこれから第二修練場に移動してもらう」


 第二修練場とは荒廃した街を義竜軍がアレンジし、市街地戦の訓練に使えるようにした場所だ。大きさにして六キロ平方メートルある。


「第二修練場の中心部にケンジ・ルーパー様を配置し、お前らはそこから三キロ離れた場所からスタートさせる。勝利条件はケンジ様のチェイスに触れること。剣でも槍でもいいが、銃弾などの飛び道具はノーカウントだ」


「へぇ、余裕じゃねぇのかそんなの」


「そう簡単でもねぇさ。なんせこの逃亡者は鬼を狩る。お前らには一メートル四方の旗をチェイスのどこかに付けてもらう。その旗がお前らの命だ。旗を撃ち抜かれたり、斬られたり、つまりは破損したらその場で失格。退場してもらう。旗の棒の部分をチェイスに括り付け、布の部分はチェイスに被せないようにな」


 ピスケスの説明に対し、真っ赤な髪の女性エルフ・エイドが手を上げる。


「なんだ?」


「えっと、先ほど剣や槍で触れてもいいとおっしゃってましたが武器の使用はどこまでいいのでしょうか? ケンジ様が扱うチェイスによっては、大砲や手榴弾などの武器を使用するとケンジ様に怪我などをさせてしまう恐れが……」


 エルフが言うと、後ろで待機していたケンジが笑いながら前に出る。


「つまり、そこの赤毛のお嬢ちゃんは俺のことを心配してくれてるのかい?」


「え……!? いや、その、事故でもしケンジ様を傷つけてしまったら――」


「はははっ! そりゃいいな! いいぜ、傷つけても。それどころか殺しても構いはしないさ」


 ケンジの言葉にエルフは冷や汗を垂らした。その言葉に一切の畏怖は無く、自信に満ち溢れている。濁った銀眼はエルフを静かに見据えていた。


「他の奴もそうだ。触れるだけなんて言わず、殺してくれて構わない。だから武器は問わない。俺を殺せた奴は俺の後釜、星守に昇格させてやるよ……」


『なっ――!?』


「ちなみに俺が使うチェイスはライフルだけ高性能型のやつだが、ボディは量産型だ。量産型レベルの兵器で容易に装甲を突破できる。誰にだって殺すチャンスはあるぜ。いやホントに、俺を殺しても誰もなにも言わねぇよ。そういう契約で来てるからなぁ……」


 幾多の戦場を越えた瞳は、誰よりも鋭かった。

 面々がケンジの眼光を恐れ、豪胆な宣言におののく中、たった一人だけ笑っている人間がいた。


「いいじゃねぇか! やりやすい!」


「ん?」


 拳を合わせ、歯を見せる少女。


 この中で最も階級の低い少女、カミラ・ユリハだけは奮い立っていた。


「今の言葉忘れるなよ、オッサン」


「いいねぇ……若者ってのはそうでなくっちゃ」

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