表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/166

3‐⑤ 挨拶は飛び膝蹴りで。

 体育館のような広さの会場に、カミラは足を踏み入れた。


「おい、今回の試験はかなり捻くれてるらしいぞ」


「筆記はないって聞いたけど、実技だけかな?」


「おいアレ! 貴・二級隊士のアーノルド・ミラージ様じゃないか!?」


「それにほら、二級隊士のエルフ・エイド様もいるぞ!」


 ざわざわとする会場。

 カミラは左右に首を振りながら会場の中を歩く。


(へぇー。サーカス団の入団試験を思い出すな……)


 昔を思い出し、微笑むと、全員の耳を貫くようなマイク音が鳴り響いた。


『静かにしろテメェら!! 試験の説明はじめっぞコラァ!!!』


(ぐっ――!?)


――うるせぇ! と全員は心の声を一つにする。


 ピンマイクを携えてやってきたのは金髪で黒いグラサンをかけ、青い軍服を着た男だ。手にはなぜかスナイパーライフルを持っている。


 その男を受験者の一人は知っていた。


「……ぴ、ピスケス・トーエンだ! 鬼教官として有名な!」


 ピスケスは、そのひそひそ話をしっかりと拾い、私語をした受験者を睨む。


「誰が鬼教官だコラ。俺のどこが鬼に見えるってんだゴラァッ!!!」


 説得力の欠片も無い。


「いいから並べテメェら! あと十秒で並ばなきゃ全員失格だ!!」


 ピスケスの言葉に従い受験者は慌てて並び始める。たった数秒で受験者たちは足並みをそろえた。


(うるせぇ奴だな……)


 カミラは第一列の左端に並んだ。

 全員が並ぶのを見ると、ピスケスは話を始めた。


「そんじゃあ、まずは自己紹介させてもらおう。俺の名前はピスケス・トーエン、一級隊士だ。好きな奴は生意気な奴、嫌いな奴は従順な奴。今回は試験監督を務めさせてもらう。そんで次、主催者の紹介だ」


 右端の扉が開く。扉から一人の男が入ってきた。


 グルグル模様の眼鏡をかけた男、ナルミ・ハルトマン。彼を見ると受験者たちは羨望の眼差しを彼に向けた。


 とある貴族隊士は彼を見て、


(アレがナルミ・ハルトマン貴・一級隊士。上級貴族であるハルトマン家の長男にして、十歳の時に貴・二級隊士まで昇格した天才……)


 目つきが鋭く尖らせた耳を持ち、赤い髪をした女性。エルフ・エイドは彼を見て、


(ようやく、憧れのナルミ様の部隊に入れる機会を得た。絶対に受かってみせる)


 先ほど、カミラに消臭スプレーをかけた少女は、


(お父さんが言っていた、要注意人物……)


 カミラ・ユリハは欠伸をして、


(前置きはいいから早く本題に入ってくんねぇかな)


 ナルミは全員の正面まで歩いてくると、ピスケスからマイクを受け取り、話を始める。


「そんな緊張しないでよ。今日は君たちの全力が見たいんだから。それに僕程度を相手に緊張していたら、次に来る人のプレッシャーに耐えられないよ?」


 ナルミの言葉に全員が疑問を浮かべる。


「それじゃ、よろしくお願いします。ケンジ・ルーパー様」


 ケンジ・ルーパー。


 その名を知らない義竜兵はカミラを置いて他にいない。

 カミラと試験官たちを除く全員が耳を疑うが、疑いは彼が部屋に入ってきたプレッシャーによってかき消された。


 白髪の老兵。その存在感は他を全く寄せ付けない。


「ケンジ・ルーパー様……世界最高の狙撃手――」


「そ、そんな――なぜ星守様が……!?」


(星守? なんだそりゃ)


 ケンジは頭を掻きながら「おいおい……」とナルミを弛んだ目尻で睨む。


「ナルミィ、ハードル上げるなよ~。俺ぁタダの老兵だぜ。ビビる奴なんていねぇさ」


「またまた~。まだ全然現役じゃないですか」


「いやいや、この前なんてなぁ――」


 受験者達のことなんてお構いなく、ナルミとケンジは会話に花を咲かせる。


 ピスケスは額に血筋を這わせ、咳ばらいをして話を切りだす。


「これでこっち側の自己紹介は以上だ。次に、最前列の右端から名前と階級を言っていけ。――はい、まずお前!」


 ピスケスは右端の義竜兵を指さす。


 さされた義竜兵は「は、はい!」と表情を強張らせ、名前を口にする。


「北方エルルガント第二部隊所属、カーク・メイヴィン四級隊士です!」


『次!』


「は、はい!」


 次々と名前と階級を言っていく。


 順調な運びだ。今のところ流れに一つの淀みも無い。そう、ここまでは。順番が金髪の貴族隊士に回った時、この試験は歪み始めた。


「次!」


「っふ。ようやく私の出番か! 名乗りたくてウズウズしていましたぞ!!」


 カミラは「相変わらずうぜぇ野郎だ」と舌を出す。

 カミラ・ユリハはまだ知らなかった、彼が自分にとってどういった存在であるかを。


「――我が名は」


 カミラは記憶していた。復讐すべき相手として、その名前を――





「アーノルド・ミラージ!!!」






(アー、ノルド?)



――――アーノルド?



 カミラの中で蘇るあの日の文献。

 自分の恩人を、親友を、全てを。破壊するミッションを実行した隊士の名前……“アーノルド・ミラージ”。


「テメェが……!」


 瞬間、カミラは列から離れ、走り出していた。

 歯を軋ませ、目を尖らせ、右半身は次第に変化していっている。


「おい、お前――」


 ピスケスはカミラに気づき、止めようとするが、ピスケスの想定を遥かに超えるスピードでカミラは走り抜けていった。


(速い!?)


 そしてカミラは地面を鳴らし、得意げに自己紹介をしているアーノルドに向かって飛んだ。


「義竜軍第三遊撃部隊所属! 貴・二級隊し――ごばぁ!!?」


 全員が目を丸くした。

 アーノルド。そう名乗った男は顔面に華麗な飛び膝蹴りをくらった。それはそれは見事な飛び膝蹴りを。


 悠久に過ぎる時間。ナルミは目の前の出来事に噴き出し、ケンジは口元を緩ませ、ピスケスは目を疑った。


 アーノルドは二メートルほど吹っ飛び、カミラは地面に着地して、アーノルドに対して中指を立てた。





「テメェこの野郎!! よくも俺のダチと恩師を殺してくれたなぁ!!? ぶち殺してやる!!!!」






 少女の右半身は黄金を纏っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ