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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐④ ケンジ・ルーパー

「選抜試験? なんだそりゃ」


「いやー、すっかり忘れてたよ。実はね、こういう特設チームを組む際に軍に要望を出せば、精鋭を選抜するための試験を実施できるんだよ。一週間前ぐらいに要望出してキャンセルするの忘れててさー」


 昼食時。

 二人はハンバーガーショップで時間を潰していた。カミラはほっぺたを大きく膨らませてハンバーガーをかっ込んでおり、ナルミはテーブルの上でハンバーガーの山を作って片っ端から食い散らかしていた。周囲の客たちは二人の大食らい振りに驚いている。


「ふへぇ~。まぁ、頑張れよ」


「頑張れよ、って。君も出るんだよ? その選抜試験」


「はぁ!?」


「ちなみに合格できなかったら入隊キャンセルってことで」


 ごほ、ごほ。とむせるカミラ。


「おま、さっき『ようこそ僕のチームへ』とか言ってたじゃねぇか!?」


「考えてみると、僕って君の実力まったく知らないんだよ。もし、君が弱々の弱だったら、わざわざ戦場に死にに行かせるようなものだからね。ちなみに受験者は百人いてそこから三人が合格だから、頑張って!」


 そう言ってナルミはファイトポーズを取る。


(な、なんて自分勝手な野郎だ……!)


 カミラの言う通り、ナルミという人間は気まぐれが激しい。一度決めた決定を容易く覆す。しかし自分勝手だが、考え無しではない。今回カミラに試験を受けさせることにも理由はある。


(君の内に眠る異常性。それを少しでも見れれば上出来だ)


 ナルミの思惑など知らないカミラは口元にソースを付けたまま首を振る。


「待て待て待て! 試験ってなにやるんだよ!?」


「チェイスを使った遊びさ」


「チェイス!? 俺乗ったことないぞ!」


「あっはは。すごいハンデだね」


「『あっはは』じゃねぇ!!!!」


 カミラは目の前の男に殺意を抱きながらテーブルを叩いたのであった。



――1時間後。



「ここ、だよな?」


 カミラはとある施設に来ていた。

 城のような外観、表には“ナルミ小隊選抜試験はこちら”と書かれた看板が置いてある。


「すっげぇ! でっけえなー! ここで試験やんのかなぁ! あんまし乗り気じゃなかったけど、肩慣らしにはちょうどいいのかもな~」


 カミラが目の前の建造物に瞳を輝かせていると、その背後に真っ黒な高級車が停まってきた。

 高級車の後部座席からバタン、と扉を開け、サングラスをかけた金髪の男が出て来る。


「っふ。ここが試験会場か。貴族たる私に相応しい場ではないか! ――ん?」


 金髪の男はサングラスを外し、髪を揺らす。


「ん?」


「む?」


 金髪の男とカミラの視線が交差する。

 金髪の男はカミラを見ると鼻で笑った。


(軍服を着ているが、歪んだ爪とボサボサな頭。くたびれた靴下に薄汚れた靴――下民だな)


 金髪の男は声に出して笑う。カミラはムっと口をとんがらせた。


「なんだおい。なんか文句あるのか?」


「口の利き方には気を付けろドブネズミ。この私を誰と心得る?」


「知るか天然パーマ」


 金髪の男は的確にコンプレックスを突かれ、唇を震わせた。


「て――!? 天然パーマ!? っふ。私は好きでパーマをかけているのだ。地毛は直毛だ! 貴様こそ、なんだその髪は? サボテンをイメージしているのか?」


 カミラは指摘され、前髪を両手で抑え、顔を赤くする。


「う、うるせ! 関係ねぇだろそんなの! (そういえば俺って、いつから風呂に入ってないんだっけ?)」


「それに貴様なにか臭うぞ。(きたな)らしい……早く退け、下民が」


「うがっ!?」


 金髪の男はカミラを押しのけ施設に入っていく。

 カミラは地面に尻もちをつき、「この野郎――!」と拳を握る。すると、一人の少女がカミラへ手を指し伸ばした。


「大丈夫?」


 カミラと同世代の女性だ。

 光のない瞳と、感情のない顔。短髪で、どこか神秘的な少女だ。


「お、わりぃな……」


 カミラは少女の手を取り、腰を上げる。

 少女はカミラを起こすと、右手を放し、ポケットからスプレー缶を取り出して、


「ぷしゅー」

「ぬわっ!?」


 消臭スプレーをプシューとカミラへ吹きかけた。


「これで大丈夫」


 ふんす。と鼻息を吐きながら満足気な少女。

 カミラは恥ずかしさで顔が炎上していたが、


「あ、ありがとな……」


 カミラは周囲の目に恥ずかしさを感じつつ、礼を言った。目の前の少女が嫌味ではなく、善意でやったとわかっているからだろう。

 少女は消臭スプレーを手さげバックに入れると「じゃあね」と先に施設に入っていく。


 カミラは気を取り直し、施設の中へ足を踏み入れた。


「よっしゃ行くぜ!」



――――――――――――――――――――――


 一方その頃、隣町にて。


「どこだ~? ここ」


 男は一人、人気(ひとけ)のない路地を歩いていた。

 オールバックの白髪、歳は六十。ちょび髭が生えており、瞳の色は銀色だ。丈の長いボロボロの服を着ている。


「地図見てもわかんねぇなー。えーっと、“N”ってなんだ? NOってことか? ってことは、上には行っちゃダメなんだな……」


 ふらふらと男が道を歩いていると、男の側に一台の車が止まった。

 車の運転手は窓を開けて、男に話しかける。


「やっと見つけましたよ、ケンジさん」


「よぉ~ナルミじゃねぇか。お前、もっとわかりやすい地図用意しておけよ」


「いや、あの、いくら方向音痴だからって――ここ、地図にある街の隣町なんですけど」


「道理で地図があてにならないわけだ」


「あはは。相変わらずおかしな方ですね、ケンジさん。後ろに乗ってください。試験会場まで送りますよ」


 この男の名はケンジ・ルーパー。今回の試験をやるにあたってナルミが試験官の一人に選んだ人間であり、


――星守の一角である。

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