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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第三幕 金色の蛮勇

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3‐⓪ 探し人は“金”

 ミソロジア王都“オーラン”。


 この街の外観は千年前より変化が無いと言われている。レンガ造りの家や、木造りの家、石造りの家もある。だがコンクリートはほとんど使われていない。


 義竜軍の本部は宮殿であり、病院は城だ。外から見て、これほどセキュリティの甘そうな都市は無いだろう。しかし、皮一つ剥がせば最新鋭技術の塊だ。


 この古びた、中世を思わせる外観を維持しながら尚、屈指の防衛力を誇る。これこそが、ミソロジアがどれだけの先進国か表しているのだ。


 オーラン、義竜軍本部“カートラス宮殿”。その一室に仮面(ハーフマスク)を付けたその男は居た。

 黒い長髪、高い身長、高貴な明らかに他とは違う軍服を身に着けた彼の名前はアルタイル。義竜軍三秦星の一角にして最高指揮官である。


 アルタイルが一人で机に向かい、書類を片付けていると、誰かが扉をノックした。


「入れ」


 アルタイルの許しを得てその男は豪勢な扉を開け、中へ入る。


「おはようございます、アルタイル様。ナルミ・ハルトマン貴・一級隊士ただいま参りました」


 少し緑がかったポニーテールの髪、着崩したワイシャツ。身長は高いが猫背なために印象は低く見える。歳は三十路ほどだろう。彼の服装で一番目を惹くのはグルグル模様が浮かんでいる大きな丸メガネだ。


 ナルミ・ハルトマン。三秦星、星守を除き義竜軍の最上位である貴・一級隊士の称号を持つ男。


「来たか。要件はわかっているな?」


 アルタイルは書類を置いて、ナルミに視線を向ける。


「はい。例の、“アンドロマリウスの右腕”追跡チームの事ですね……」


「そうだ。アンドロマリウスの右腕を持つ一団。奴らは今、我々にとって一番危険な存在と言っていい。スレイク地帯でアーノルド貴・二級隊士を破り、アーレイ・カプラでは貴様と同じ貴・一級隊士であるケインおよびその部下を葬った。星守であるコモン・エイドですら仕留めそこなった存在だ」


「コモン様のことは初耳です。あの方がしくじるとは珍しい」


「仕方がないだろう。元々、彼女たちの任務は銀腕の奪取ではない。――話を戻すが、私は奴らを仕留めるための特殊組織を作ることにした、そしてそのリーダーに貴様を指名した。貴様は承諾し、チームの構成員の要望を私に出した。だが目を通して見て、私は些か不安になったぞ……」


「なにか問題が?」


「むしろ、なにも問題が無いと思っていたのか?」


 アルタイルは写真付きの書類を机の上にばら撒く。それはナルミが要望したチームメンバーの情報が載っている書類だった。


「義竜軍でない人間が混ざっているのもそうだが、各部隊で問題行動を起こしている者ばかり……しかも、貴様を入れてたったの六人」


「あっはっは~! いやー、あと一人欲しいんですけどねー。まだ決まらなくて」


「それでも七人か。――もういい、わかった。この編成には目を瞑ろう。ただし、監視役として私の指名した人間を一人入れてもらう」


 ナルミは眼鏡の奥で微かに目を細め、すぐさま笑みを浮かべる。


「アルタイル様の推薦なら安心です」


「それで最後の一人、なにか条件を提示すれば私の方でも探すが?」


「最後の一人の条件……は決まっているのですが、データに載るような条件でなく、言語化が難しいんですよね。言うなれば――」


 ナルミはアルタイルの部屋の戸棚に掛けてある将棋盤を見て、近づき、その隣にある駒箱の中から一つの駒を手に取った。


「ほう。貴様は将棋を知っているのか?」


「はい。以前、東洋の方へ行くことがあってそこで学びました」


 ナルミはある駒をアルタイルの机の上に置いた。

 アルタイルはその駒を見て、「ほう」と顎に手を添えた。


「“金将”……攻防の要にして、オールラウンダーか。つまり、堅実な人材が欲しい、というわけか?」


「はい、半分は正解です。堅実で、しぶとくしつこい人材……そして、」


 ナルミは金将をひっくり返す。

 だが金将は王と同じで敵陣へ侵入しても成ることはない。つまり、背面には何も書かれていない。ナルミは無印の駒を見つめて口を開く。


「成長が読めない人材です」


「金とは、成ることのない駒だ。いや、それは盤上での話か。なるほど、確かに金は成長するところを想像できんな。斜め後ろに動けるようになるのか、飛車や角と同じ動きを持つのか、はたまた桂馬のような動きを持つのか」


「今、私が提示しているメンバーは性格こそ難はありますが、実力は全員安定しています。良い意味でも、悪い意味でも。欲しいのは爆発力とチームの和を保つペースメーカー、チームを引っ張り……己と共にチームを成長させる。そんな意外性と安定感を両立させた存在が欲しいのです」


「ほう。それは見つからないに決まっている。そんな万能な人間がいれば、私はここに座っていない。ただ、可能性がある人物は知っているぞ」


 アルタイルは机の下にある、鍵のかかった金庫を開け、一枚の個人情報が書かれた紙をナルミに手渡す。


 ナルミはその書類に張り付けられた写真を見て、「これは……」と呟いた。


「アンドロマリウスの細胞である“リウム合金”は知っているな?」


「確か、強力な再生能力と特殊なエネルギー体を秘めている物質……」


「その書類に載っているのは、リウム合金に対応した少女だ」


 ナルミは汗を一滴垂らし、


「馬鹿な……リウム合金は強力な副作用があり、今まで身体に埋め込まれた人間は精神が崩壊したあと、単細胞生物となって死んだと聞いていますし、実際に見ましたが……」


「その通り。彼女は二十五万三千六百二十人目にして、初の完全な適応者だ。リウム合金は精神を蝕むことこそが最大の副作用であり、肉体の変化は精神汚染の末の結果だ。つまり、試されるのは精神の強靭さ。いや、器の広さとでも言うのか。これに適応するという事は、恐ろしい精神力を秘めているということ。――どうだ? 少しは興味を持ったか?」


 ナルミはその書類を脇に挟む。


「とりあえず、会って見なければわかりません」


「そうか。彼女は中央病院にいる。305号室だ」


「はい、ありがとうございます。では早速、行ってみましょうか」

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