2‐㊲ 戦いを終えて
「おい! そっちはどうだ? 見つかったか!?」
「いや、いねぇな! 魚しか掬えねぇよ!」
「チェイスがあれば、その近くに坊主もいる可能性が高い!」
「いやいや、チェイスの残骸何て山ほどあるぞ!?」
「海流から漂流先わからねぇか!?」
「昨日の荒波見てなかったのかお前!!」
「おいお前ら! 喧嘩してんじゃねぇ! 義竜軍が来る前に何としてでも見つけるんだ! アンドロマリウスの右腕と――ツミキ・クライムを!」
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ミソロジア王都近くの海にて、その船は存在した。
豪勢で派手な金づくしの戦艦“コハク”。その甲板で、これまた豪勢な服に身を包んだ女性……三秦星ペガは居た。
ペガが風に当たっていると、戦艦が止まった。そろりそろりと誰かが戦艦に上がり、ペガにばれないように中へ入ろうとするが、
「そのままでいいわよ、コモン♡」
「バレてましたか……」
水に濡れ、上下下着姿で星守コモンはペガの前に出る。
「すみません。見苦しい恰好で……」
ペガは上下純白のオーソドックスな下着を着ているコモンを見て、
「いいわよ別に。ただ……下着のセンスはもう少し考えるべきね」
「尽力します」
「左脚は?」
「すでに格納庫へ」
「どうやってアーレイ・カプラからここまで来たの?」
「グリースは捨てて、ネグロは圧縮させました。そして神糸で簡単な船を作って、ここまで漕いできました。何分、海が荒れていたので何度か転覆しましたが……」
そ。と自分で聞いておいて全く興味なさそうにペガは聞き流す。
「アナタに与えた五つの任務。どれだけクリアできたか教えてくれるかしら♡」
「はい」
コモンは小さな胸の谷間からとある小さなメモリーカードを取り出し、ペガに渡す。
「まず一つ目、ポセイドンの製造データです」
「ふーん……」
コモンはそのチップをまじまじと見て、「あら♡」と笑った。
「これダミーね」
「え?」
「珍しいわね、アナタがこんなミスするなんて」
「ケイン・マッケルに計られましたか……」
ペガは「いいや」とメモリーカードを太陽に向けて掲げた。
「違うわ。多分、オリジナルを持ち去ってすり替えた人間がいる。私と同じようにポセイドンの価値を大きく見て、奪った誰かが……」
ペガは一人の金髪の少年を思い浮かべ、チップを握りつぶす。
「はい。これで一つ目は失敗♡ 次、アンドロマリウスの右腕の性能データ」
「それはしっかりとネグロのカメラに収めてあります。大変でしたよ、ツミキ君を挑発して全性能を引き出すまで待つのは」
「あらそう。うん、これで1:1ね。じゃあ三つ目、アーレイ・カプラの住民の抹殺」
コモンはギクリと背筋を凍らせる。
「――すみません。少数、取り逃がしました……」
「あらぁ? じゃあアンドロマリウスの右腕は?」
「すみません。見失いました」
ペガの瞳の中のハートマークが大きくなっていく。
それを見てコモンの笑みが苦笑いへと変わっていく。
「なら、五つ目は?」
「はい。五つ目は――」
ペガはコモンの返答を聞き、口元を歪ませた。
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アーレイ・カプラでの戦いが終わり、朝が訪れた。嵐は過ぎ去り、空は快晴。陽の光が海と森へ降り注いでいる。
サンタとプールはすでに孤島から離れ、アクアロードのスタート地点である岸に戻って来ていた。軽トラを背に置き、正面にはシンラなどの凰燭軍がいる。
「第三層の奴らは無事、ギョウケンに帰れそうだ。これで、俺達の目的は達成できた」
「うむ。しかし、失ったものは大きい。お主たちは多くの部下を、ワシらも要を一つ失った……」
「ったく! こんだけやって利益一つ無いってどういうことよ!」
「唯一の救いはアンドロマリウスの右腕を回収できたことじゃな」
あの嵐の夜。サンタとプール、そして凰燭軍の面々はアーレイ・カプラへツミキ救出に向かった。しかし、
『何が起きている!?』
『サンタ! これって――』
『間違いない……! ツミキめ、影を使っておる!!』
赤い光が海と街を裂いていく。攻撃の余波で一行は街へ近づくことができなかった。
戦いの波が止んだ後、すぐさまアーレイ・カプラは崩壊を始め、海へと沈んでいった。サンタとプールはシンラ達の助けも借りてギリギリまで海を捜索したが、見つかったのはアンドロマリウスの右腕だけだった。
「それで、どうするんだ? ツミキを救出しに行くのか?」
「そうじゃな~、まだ決めかねておる。」
「そうか。何か助けが必要だったらいつでも力を貸す。お前らにはでかい借りができた。それにポーチから貰ったこの花の冠も渡さないとならないしな」
シンラはツミキ宛てにポーチが編んだ花の冠を手に持っていた。
(得たものは大きい……これで凰燭軍とパイプができた。これはいずれ、大いに役に立つ……)
サンタは口元を歪ませる。元より、サンタの目的は反乱勢力のいずれかと手を結ぶことだったのだ。
反乱勢力は数少ない、世界規模で見ても義竜軍に対抗しようとしているのは大きく四つ。
幻の兵団“凰燭軍”。
前国王に従事していた“アロス兵団”。
神を信じ、神を信仰する者“黄巾信徒”。
そしてミソロジアに反抗する海外の精鋭が集まった部隊“新語師軍”。
これら四つの内、一つと手を結べたのは非常に意味のあることだ。
「アンタらはこれからどうすんの?」
「以前の仲間たちをかき集める。そしてもう一度、凰燭軍を再建する。どうだ、お前たちも俺らの仲間にならないか?」
「仲間にはなるが、傘下には入らん。あくまで対等な立場として付き合いたい」
「――いいだろう。いずれまた、対等な立場として手を組もう」
そう言って両者は別々の道へと歩いて行った。
プールは軽トラの運転席に入り、サンタは助手席に入る。そうして二人は再び旅を続けるのだった。
「ポセイドンの製造データが手に入り、凰燭軍とのパイプも出来て、サンタお坊ちゃんはご満悦な様子ね」
「はてさて、なんのことかわからんなぁ」
サンタは人差し指でとあるメモリーカードをクルクルと回していた。
「そんで、どこへ向かうの?」
「どこへ行きたい?」
「聞き返すな馬鹿。もうあてはついてるんだろう?」
「かっかっか! まぁのう。義竜軍がツミキを、いやアンドロマリウスの関係者を幽閉するならばあそこしかあるまい――第一廃棄指定地区“カウルベルン”」
ツミキは神糸の繭の中で眠っている。彼が向かう先は、第一廃棄指定地区“カウルベルン”。そして古の監獄“ヘビヨラズ”だ。
最後の一文は間違いじゃないですよ。




