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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐㉙ 無意味な人生

「はぁ…はぁ…はぁ……!」


 ツミキは禁呪を解放させたまま海を駆けあがり、秘宝の間の入り口まで上がってきた。


 左腕で秘宝の間の入り口にある段差を掴み、よじ登る。そして天井にある制御装置を見上げた所でようやくアズゥから黒い光は失われた。


「ケインさん……」


「っふ。なんだその萎んだ声は? 誇れ、君の勝利だツミキ・クライム」


 制御装置の至る所から火花が散っている。ジリジリと空気が振動し、内に眠る力が暴走していることがわかる。


 ツミキもケインも制御装置がもう間もなく爆発するであろうことはわかっていた。


「どうすれば制御装置の電源を落とせますか?」


「大丈夫だ。そんなことをせずともすでに制御装置は壊れている、津波は起きないさ」


「そうじゃない! 速く電源を落とさなくちゃ制御装置が起爆して、アナタが死ぬ!」


 ケインはツミキの発言に目を細めた。


「さっきまで殺し合いをしていた相手を助けようとしているのか?」


「目的は達成できた。もうアナタが生きてようが死んでようが僕の未来は変わらない。なら、生きている方が良い」


「ふ――HAHAHAHAHA!  偽物だな……今の君の言葉は偽物だ。なにを追っている? 誰を追っている? 君は、誰かの正義を真似ている。彼、もしくは彼女ならこう動くだろう、そう考えて行動している」


 ツミキは図星を突かれて言い返せなかった。

 そう、彼の性根はケインを助けようとしていない。ケインを助けようとしているのはツミキの中で生きる少女、カミラ・ユリハの幻影だ。


「迷うなツミキ・クライム。君の正義はさっきの言葉の通りだろう?」


 ケインは思い出す。地下闘技場でのツミキとの会話を。


――『善悪で人を分けることは差別じゃありません』

――『ならば――!』


「君はあの時確かに言ったな、善悪で人を分けることは“義務”だと。裁定や分別(ふんべつ)ではなく義務だとな。その言葉の裏にあるものこそ君の正義だろう? ならば幻影に惑うな。振り返ることなく立ち去るがいい……」


 ツミキは何とも言えない表情で首を振る。


「――悲しい人だ。アナタはきっと、悪い人じゃ無かっただろうに……悲しい過去が、辛い過去がアナタを捻じ曲げた」


「武人は、戦いの中で相手の人生を見ると言うが、君には私の人生でも見えたのか? もし見えたのならば謝罪しなければな。これほどつまらないノンフィクションもないだろう」


「見えたわけじゃない、感じただけです。アナタの中にはちゃんと——」


「ボーイ! ――前にも言っただろう? 過去を語るは臆病者だ。誰しも悲しい過去はあるし、辛い過去もあるだろう。ハードモードでない人生の方が珍しい……それなのに、己だけが悲劇を盾にするのは卑怯と言うものだろう? 大切なのは現在だけなのだ。君が見た今の私はどうだ? 善人ならば手を差し伸べろ、悪人ならば消えてゆけ」


「……」


 ツミキはケインの言葉を受けて悲しそうに眉を細め、顔を伏せる。

 ツミキはすでに虫の息の制御装置に背を向け、そのままアズゥを発進させた。




「それでいい……」




 制御装置から火が上がっていく。

 バチバチと耳障りな音が秘宝の間を支配し、ブルーライトはレッドライトへ変色していく。


 ケインは一人、両親が残した兵器である水流操作装置を見上げていた。


「まったくもって、無意味な人生だった……」


 両親はこの装置をもって義竜軍に対抗しようとしていたのだろう。だが、例えケインの両親が死なずに“ポセイドン”を完成させていたとしても、アンドロマリウスには太刀打ちできない。最後の戦いで、ケインはそれを身をもって理解した。


 ケインがこの先、多くの犠牲を払ってポセイドンを完成さえていても、アンドロマリウスを所有する義竜軍に勝てることなんて無かったのだ。未完成とはいえ、アンドロマリウスのたった一つのパーツにポセイドンは敗れたのだから……




 “無意味な人生だった”




 満足気な笑みと共にケインは爆炎と共に塵となった。塵は海に溶け、世界中に流れていくだろう。誰も行ったことのない夢想の地まで……



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 大雨と暴風が吹き荒れ、波は慌ただしく渦巻いていた。

 ケインを倒し、水中回廊より脱出したツミキはアーレイ・カプラの街……に戻って来ていたはずだった。


「どういうことだ……?」


 建物は崩れ、地面の半分が海に沈み、草木は風と共に彼方へ飛ばされている。簡単に言うならば、


――街は崩壊していた。


 爆撃があったとか、地震あったとか、そういった破壊の跡ではない。至る所に引きずられた跡がある。その跡が、示す現象は一つだ。


「津波が起きたんだ……! ギリギリで間に合わなかったのか!?」


 ツミキは慌てながらアズゥを動かす。

 街を少し歩くと人間の屍の散開している場に行きついた。赤い血が大きな水たまりを作り、アズゥの足元まで流れ着いている。


「(ひ、人なのか!? 風船みたいに膨らんで、まるで人形みたいな……) ――うっ!!」


 水を取り込み体を膨らませ死んでいる人間を見て、ツミキは思わず胃液を逆流しかけた。



「アーレイ・カプラの生存者は、この様子だと一割もいない……それだけじゃない。津波が起きたってことは——」


 ツミキはポーチより貰った貝殻を握りしめる。


「ポーチちゃん……」


 絶望し、ツミキは操縦桿から手を放した。すると、ツミキの不安を引き裂くように通信機が鳴り響いた。


「え?」


 ツミキは通信機を手に取り、声を聞く。


『無事かツミキ! ワシじゃ、サンタじゃ!!』


「サンタさん!? ってことは……」


 ツミキはてっきりサンタ達は波に攫われたと考えていた。だが、通信機の先からサンタ以外の声もしっかり聞こえる。


 破壊の跡から津波は間違いなく北からだ。北へ向かっていたサンタ達が無事なはずがない。


『お(ぬし)の言いたいことはわかる。ワシらが津波に巻き込まれたと考えておったのだろう?』


「はい。でもどうして……」


『簡単じゃ、ワシらは行く先を変えた。アーレイ・カプラから直接語師軍の領地に向かうのではなく、南東にある孤島を経由して北へ向かうことにしたのだ。シンラが波の様子がおかしいと言ってきたのでな、急遽変更した』


「それじゃあ!」


『全員無事じゃ』


 ツミキは全員無事との報告を受けて、再びアズゥを走らせる。


『あとはお(ぬし)が戻ってくれば――ぬ!? な、なんじゃ!?』


「……?」


 通信機の先でガタガタッ! と雑音が鳴る。

 そして雑音が静まると、通信機の先からある男性の声が聞こえて来た。


『よう坊主!』


 その声は第三層のリーダー格の一人、アギルのものだった。


「アギルさん!」

『ケインの野郎を倒したみたいだな! やるじゃねぇか! 早く合流しろ、俺がとっておきの――って、ちょっと待て! まだ話が……』


 再び雑音が鳴り、通話先の相手が変わる。


『おい! お前さん、ケインの野郎はコテンパンにしたんだろうな!?』

『ちょ、ムール! そういうのは後にしろって! ――すまないなツミキ! 気にしないでくれ!』


「ムールさん、イズモさん……」


 次々と住人がツミキと話そうと通信機争奪戦を勃発させる。

 ツミキが苦笑いしながら待っていると、テンションの低い男の声が割り込んできた。


『ツミキ。よくやったな』


 その声は凰燭軍のエース、シンラ・バードの声だった。


「シンラさん! (心なしか前よりも声に張りがある気がする……)」


『お前らのおかげで、俺らは目的を果たせそうだ。感謝している。礼は色々と考えているが、とりあえず、彼女の声を聞かせたくてな』


「彼女?」


 シンラに代わり、通信機から聞こえて来た声はツミキが知る少女のものだった。


『つみきっ!』


「その声……ポーチちゃん!! 良かった……無事で本当に良かった!」


『つみきも、はやくきて! わたし、待ってるから!』


 ツミキは嬉しそうに返事する。


「うん! すぐに僕も行くよ!」


 ツミキの返事と共に、通信機は再びサンタの手元に戻った。


『それでツミキ。無事に潜水艦のある港へ行けそうか?』


「はい! 津波のせいで道は酷く荒れてますが、なんとか大丈夫そうです。あとこの路地を曲がれば着きます!」


 サンタは『む?』と声色を変える。

 なにか引っかかった様子だ。少しの間を置いてサンタはツミキに質問する。


『待て。なんじゃ、ということはアーレイ・カプラも津波に巻き込まれたというわけか?』


「え? はい。実際に見たわけじゃありませんが、確実にこれは波に攫われた跡だと思いますが……」


『いや――ツミキ、おかしいぞ! ワシはてっきりケインがワシらだけを対象に津波を起こしたと思っていた。だが、アーレイ・カプラも巻き込まれたというなら話が変わる!!』


 顔を見ずとも焦燥が伝わる。それほどにサンタは声を荒げていた。


『ワシらは船を操るのに必死でアーレイ・カプラの状況まではわからなかった……しまった。そういうことか! 奴らはこのタイミングで動いたのか!!』


「ちょ、サンタさん? どうしました? そんなに焦って……」


『考えてみよ。あれほどまでにアーレイ・カプラにこだわっていた男が、ワシらを討つためだけにアーレイ・カプラを崩壊させるか?』


 ツミキは思い出す、ケイン・マッケルという男がどういう人間だったかを。


「はっ!」


『ツミキ! 良く聞け! 津波を起こしたのはケインではないっ!! アーレイ・カプラを崩壊させ、大量の住民と共にワシらを葬ろうとしたのは――』


 ツー、ツー。と通信が途切れた。

 通信が切れると同時にアズゥは街角を曲がり、広場と港が密接するポイント、潜水艦があるポイントを訪れた。だが、潜水艦はすでに破壊され煙を上げている。潜水艦の残骸を背景に、騎士のようなチェイスはそこに存在した。






『あ。ようやく来ましたか。待ちくたびれましたよ、ツミキ君』






 無感情な女性の声。

 ツミキは知っている。誰にでも笑顔を振りまく薄っぺらいその女性を。


「あのカフェで、ペガさんの隣に居た……」


 “星守“……コモン・エイド。


 世界三指に入るパイロットが、高性能型(ビショップ級)を持ってツミキを待ち構えていた。

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