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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐㉗ Blue War

 ツミキにとってケインの撃破は絶対ではない。

 ケインを倒さずとも制御装置を破壊すればツミキの目的は達成できる。後は禁呪解放でもして逃げればいい。エネルギーはまだかなり残っている。


 しかし、ツミキ・クライムは水流操作装置(ポセイドン)に目もくれず、正面のケインのみに狙いを定めた。


『どうしたボーイ、装置を破壊しないのか? 早く止めなければ守るべき者を失うぞ』


「仲間は心配ですが、順序は誤らない! 確実に、完璧に、アナタを再起不能にしてからポセイドンを破壊するッ!!」


 ツミキの覚悟にケインは感心し、この状況の中静かに笑った。その笑みは今までの人を侮蔑した笑いではなかった。


(すぐに終わらせる!!)


 アズゥは地面を蹴る。


(どのみちその機体の状態じゃ、長くはもたないはず……)


『奥の手はある。ボーイ、この街に来て――』


 ガゴォンッ! とアズゥの足元で何かが起動する音が鳴った。


『海水浴を堪能しないのは勿体ない』


「これは!?」


 地響きと共に揺れる足場。

 ツミキは音の方、床を見て目を見開いた。


(床が、開いて行く!?)


 秘宝の間の中心に切れ目が入り、両サイドに向けて境目は広がっていく。

 スライドしていく床、その下からは潮の音が聞こえた。


「地面の下がそのまま海へ繋がっているのか!?」


『チェイスは水中では無力だ。この海に落ちれば、ボーイは何もできず海に呑まれる』


「それは、アナタだって――」


 ツミキは思い出す。この街に来た時、アクアロードが拓かれた時のことを。


(あの時、海の中からあの海色のチェイスは現れた……まさか!)


『レクチャーしよう! この海の覇者が誰であるかを!!』


 最悪のイメージがツミキの脳裏に浮かぶ。海で動けなくなった自分を、ケインが一方的に破壊するイメージだ。


 ツミキは目の色を変え境目を飛び越え、カエルレウムが立ちふさがる入口へ走る。


「どいてください!」

『キャンセルだッ!!』


 飛び込んできたアズゥの銀腕をカエルレウムの黄金の右腕が掴んだ。

 アズゥは銀腕を引っ張られ空中で振り回される。


「うっ!?」


『壁に叩きつけてもいい! 地面に叩きつけてもいい! だが、ここで油断する私ではない!! 確実に、完璧に、貴様を葬るッ!!!』


 ケインは開いた床の隙間からアズゥを海へと叩き落した。


「まずい……!!」


 ザアァンッ!! 大きな水しぶきを立ててアズゥは海へ沈んでいく。

 光がどんどん遠く、音は静かに去っていく。宇宙空間にでも投げ飛ばされたような感覚だ。


「ど、どうにかして陸に戻らないと!」


 ツミキはアズゥを操作しようと操縦桿を動かすが、


(駄目だ! 手足を動かすことはできるけどブースターが機能してないッ!! 上昇……できないッ!!)


 絶望的な状況に追い打ちをかけるようにツミキの瞳に×印が浮かんだ。


「来るのか!? 本当にッ!!」


『HAHAHAHAHAHAHAHAッ!!!』


 カエルレウムはまるで獲物を狙うサメのように海を高速移動し、アズゥに迫る。


「くそっ!!」


 ツミキは何とか銀腕を動かし×印に被せる。同時にカエルレウムが左手に持った三又の槍でアズゥを攻撃した。銀腕の手の甲が槍を弾き、カエルレウムは再び泳ぎだした。


(水中回廊や地下闘技場の時より速度が上がっている!? 水が苦手なはずのチェイスで、陸より水中の方が速く動けるなんてっ!!)


 カエルレウムは海を縦横無尽に動き回りながらすれ違いざまにアズゥにダメージを与えていく。


『このカエルレウムは海に対応しているとはいえ単体ならばこれほどの動きはできない、精々海面に浮かぶのが限界だろう。しかし!』


 カエルレウムの動きが加速する。


『この“三又槍”、第三形態“トリアイナ”の柄に付いたエンジンと、ポセイドンによる海流操作を利用することで何よりも速く、海中で動くことを可能にしたッ!!』


 カエルレウムは水圧に耐えられる装甲と海面へ浮上するための浮力を持った高性能型である。義竜軍が海に対応するために試験的に開発したチェイスであり、未完成の兵器だ。単体では海で最低限の“行動”ができるだけで他に特徴は無い。高性能型の中でも底辺に位置するレベルだろう。


 しかし、それは単体での話だ。


 水圧に耐えられる装甲と浮力さえあれば、水流操作装置(ポセイドン)による細かい水流操作と三又槍の援護を受けてカエルレウムは海限定で最強の兵器となった。


(見切れないッ!)


『ポセイドンの領域内で私に逆らえる者はいないのだ!!』


 コックピットを狙う槍の矛先を、ツミキは銀腕で弾く。

 ケインは一度動きを止め、槍をアズゥに向けたまま海の中で静止した。


『さすがだボーイ……この状況下で尚、私の攻撃を捌くとは。本当に素晴らしい才能だ。君が味方だったのならば、私は肉親以上の愛情を君に注いだだろう』


 しかし。とケインは悲しそうに言葉を繋げる。


『敵であるからこそ、反逆者であるからこそ、ボーイは輝いて見えるのだろう。ゆえに、残念だ。どう足掻いても君と私の道は同じにならない。せめて、最大の慈悲を持って終わらせてやろう……』


 海の流れが変わる。

 海を泳ぐ魚は突然深海に体を持っていかれ、海面からは波が消えた。海流が自然ではありえない方向に捻じ曲がる。


(まさか、海流を――)


海の神(ポセイドン)よ! 海の宝に手を出そうとした盗人を、深海へ引きずり込め!!』


 ケインは遠隔操作でポセイドンを操り、海流を真下へ向けさせる。

 アズゥの体は真上から躱しようのない圧力を受けた。


「これは……う、上から強引に抑え込まれるッ!!」


(海底まで行けばアンドロマリウスの右腕のみを残してアズゥとボーイは水圧によってジャンクとなるだろう。そうなった後で、私は残ったアンドロマリウスの右腕をゆっくり回収すればいい。どうせカエルレウム以外にそこまでたどり着けるものはいないのだからな……!)


 神の叫び声のような水音と共にアズゥは成す術なく、海底へ引っ張られる。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」


『沈め。白銀の才能()よ』


 アズゥはものすごい勢いで海底へ消えていく。

 ケインは己の視界の外までアズゥが消えていくのを確認して、海上へ足を向けた。


『手間取りすぎた……アンドロマリウスの右腕は後回しに、まずは混乱する市民たちを鎮めなければ……』


 ケインにとって、賊の排除は終わったようなものだ。

 あと一分足らずで大波は発生し、船で逃げた者達は一掃される。もし街に残党が居ても、いくらでも対処のしようはある。


 やるべきことは外部からの客の対応、一刻も早く戦いの動乱を収めることだ。


――そのはずなのに。


『……』


 ケインの中で何かが引っかかっていた。

 なにかを忘れている。なにか、注意しなければいけないことを忘れている。


(私は、大事なことを見落としているような……)


 その時だった。


『なんだ?』


 ガン。と海の底の方からケインは何かの音を拾った。

 ケインは下を覗く。だが、そこには何者もいない。


『気のせいか』


 ケインは制御装置の光で照らされている海中まで戻ってきた。


 あと数十メートル、上昇すれば無事に陸に上がれる。すると今度はガシ、と音が聞こえた。


『何の音だ……?』


 そう言って振り返った瞬間、






「どこに行くんです?」






 知っている少年の声がカエルレウムの足元から聞こえた。


『馬鹿なッ……!?』


 カエルレウムの右脚を、そのチェイスは掴んでいた。海の中で尚輝く銀腕によって。


『なにを、一体何をした!? この海の中を動けるのはこのカエルレウムのみ――』


 ケインは右脚を掴んでいるアズゥを見て、その風貌の変化に眉を顰める。


(なんだ? 黒い血管のようなものがアズゥの全身を這っている!)


 禁呪(ゲッシュ)解放。


 ツミキは水圧に押しつぶされる刹那、アンドロマリウスの右腕の禁呪を解放したのだ。


『ちぃっ!!』


 ケインはカエルレウムの右脚を取り外し、アズゥより距離を取る。


 アズゥは銀腕でカエルレウムの右脚を握り潰し、カエルレウムを凝視する。


 ケインはアズゥの全身を舐めるように観察していた。


(機体から空気を噴出している様子はない。かと言って浮き輪のような浮遊するための道具を使っているわけでもない。現に奴は、私から切り離された後、普通に沈んでいるぞ?)


 アズゥは先ほどと同じように自然体で沈んいく……と思われたが、ケインが瞬きした時、姿を消した。


『――!? 何が起きて!!?』


 ガガガガガガガガガッ!!!! マシンガンをぶっ放したような音がケインの耳に飛び込んだ。


『このクレイジーな音は……』


 ケインは背後から水切り音を拾い、急速でカエルレウムを沈める。すると先ほどまでカエルレウムが居た場所に、アズゥは高速で攻撃を繰り出した。


『まさか――』


 ケインはアズゥの移動方法に一つの予想を立てる。だがそれは、あまりに突飛で信じがたい方法だ。しかし、すぐにケインの予想は確信へと変わる。



 ザッ。



 再びアズゥが姿を消す。そして再びマシンガンの射撃音のような音が響く。ケインはすぐに視界をアズゥがつま先を向けていた場所にセットした。


『やはりか!!』


 そこでケインが見たのは海を泳ぐアズゥの姿ではない。海を走るアズゥの姿だった。

 黒い筋を浮かべたアズゥは上下左右関係なく、水を蹴り、四方八方に跳ねてカエルレウムに迫る。


『ありえるのか? ありえるのか!!? 木々を足場にしてジャングルを駆ける猿のように、水を足場にしてこの海を走っているのか!!!!』


 

 海の中でカエルレウムは無敵だ。


――たった一機の例外を除いて。



(水を足場にしている、それだけはわかった。だがどうやって水を足場にしているのか理屈が読めん! よく水泳選手が泳ぐ際に『水を蹴る』という表現を使うが、アレはそんな次元の話ではないっ!! 何という兵器だ“Andromalius”ッ!!!!)



「沈むのは……アナタだッ!!」


『HAHAHAHAッ!!!! それでこそだ! ボーーーーーーーイッ!!!!!』


 津波発生まで残り四十秒。

次回、決着!

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