2‐㉒ 開戦
船着き場、防衛戦線。
シンラの活躍によりアルベルト兄妹は倒したが、マリンが守る船着き場には数多くの義竜兵が集まって来ていた。
マリンの乗る量産型チェイス“リュイ”は五機のアズゥに囲まれている。
『よくもここまでやったものだ。だが――』
『終わりだ! 残党兵ッ!!』
「む。ちょっとまずい、かも」
五機のチェイスが剣を構え、一斉に襲い掛かる。
――万事休すか。マリンが死を受け入れようとした刹那、五機のチェイスは一斉に動きを止めた。
「む?」
聞き慣れた斬撃音がマリンの耳に届く。コアを破壊され、爆発する五機のアズゥ。爆発により発生した黒煙、そして炎をバックに紅蓮のチェイスがマリンの方へ歩いてきていた。
マリンはその姿を見て驚き、笑った。
「――久しぶり」
「ああ、随分待たせた。マリン、あとは俺に任せて避難誘導の方を頼む」
ナイフを横に薙ぎ、刃についた液体を地面に飛ばす。
シンラは街の方から向かってくるチェイスの大群にナイフを向ける。
「本当に大丈夫? この数……私の目算じゃ十機はいる」
「マリン。お前、俺が量産型十機程度に止められると思うか?」
「あ。私の見間違い。ニ十機はいるね」
「――やっぱり手を貸してくれ」
シンラたち別動隊が加わり、防御は盤石となった。
サンタは避難船の上から“スカーレッド”を見てホッと胸をなでおろす。
(これで船は大丈夫じゃ。あとはポセイドンの破壊を待つのみ……頼むぞ。プール、ツミキ)
* * *
『レイン。君はチェイスを圧縮して非常口からシェルターに逃げ込んでおけ。恐らく君の意識は出口まで持たんだろ』
『ふぁい!』
レインはフラーウムを起動ツールに戻し、地面に生身で着地。そのまま戦場から退避した。
プールはカエルレウムの右腕を見て頭を悩ませる。
(アンドロマリウスは二機と存在しない、アイツが持っているのは間違いなく贋作だ。だとしても、だとしてもだよプール・サー・サルン……)
『さて。第二ラウンドを始めようか、チャレンジャー!』
カエルレウムが加速する。
プールはトリゴを全速で後退させた。
「ライフルは弾切れ、他に武器無し! 戦えるわけないだろ!!」
『逃走か? しかし、それは許さん』
カエルレウムはすぐさまトリゴに追いつき、黄金の右腕をトリゴの両脚に向けて振るう。
「っち!!!」
『ダウン、いや……』
ガンッ!! と黄金の右腕は容易くトリゴの両脚を奪い去った。
脚を失い轟音を立て、トリゴは崩れ落ちる。
「があああああああああっ!!!!?」
『KOだな。チャレンジャー』
トリゴの上半身は受け身を取れないまま地面に叩きつけられた。
プールはコックピット内でバウンドし、頭を操縦桿にぶつけた。衝撃で三つ編みの髪は解け、長い髪が目にかかる。
「く、そ……いいよ。アンタの勝ちだ。殺しなさい」
『ほう。言い訳せずに潔く敗北を認めるか。やはり、惜しい素材だ』
ケインがそう言い放つとカエルレウムはトリゴに向けて右手を差し伸べた。
「なんの真似だ?」
『私の部下となれ。君はここで終わっていい人間じゃない』
「私は敵だぞ……浮遊装置破壊に手を貸したしアンタの仲間も殺した。それでも私を仲間に引き入れたい?」
『敵だとか味方だとかは関係ない、私は全ての才能に平等な男だ。才ある者を私は決して見捨てない。“全ての天賦に平等のチャンス”を。それが私の信条だ』
それに。とケインは話を続ける。
『私と君らレジスタンスの目的は一致している』
「はぁ? 馬鹿言ってんじゃないわよ」
『君らの目的は打倒義竜軍だろ? 私も同じさ。私は義竜軍を倒し、我が信条をこの世のルールとする。ポセイドンさえ完成すればそう遠くない未来の出来事だよ』
プールはケインの話を聞いて笑い飛ばした。
「っは! なおさらお断りだ! 遠くない未来? 残念だけどポセイドンが完成する未来なんてこない。ポセイドンは今日、この日に破壊される!」
『HAHAHA!! 先見の明は無いらしい。だが案ずるな、才能とは育むものだ。私の元でじっくり育てよう』
「嫌だね」
『ほぉう? なぜかね? 君のような才溢れる人間ならば私の信条に同意するはずだ。知っているだろう、この世界で才能あるものが妬まれ、蔑まれていることに。天才の理論を理解できない多数の凡人が人類史の開拓を妨害していることに!』
プールはケインに言われて己の師の顔を思い出していた。思い出し、笑い出した。
「じゃあ、アンタは人を才能の良し悪しで区別しようって?」
『その通りだ』
「才能あれば悪人でも助けると」
『当然だ。善悪で分けるより、よっぽどわかりやすく合理的だと思うがね』
「確かにアンタの言う通りかもしれない。でもやっぱり、私には理解できないな。私は超天才だから、ただの天才でしかないアンタの言っていることには全く共感できない」
プールは一人の少年の姿を思い浮かべる。
「私から言わせればアンタもさっきの女も、今船付き場で必死に戦っている連中も、アーレイ・カプラの第一層、第二層、第三層の人間……いや、私以外の人間全員等しく雑兵だ!! アンタのやり方に合わせたら、私は私以外全員ぶっとばさなくちゃいけなくなる。――そうなるくらいなら、どこぞのクソガキの基準に合わせた方がマシだね!!!!」
『……君の仲間ごと傘下にしてもいい』
「しつこいってんだよ。私も連中も願い下げだ!!」
『HAHAHA! 仕方あるまい。戦闘のセンスはあっても、私に付いてくる選択を取れない凡夫に用はない』
カエルレウムは右腕を振りかぶる。
「っち!」
プールは操縦桿をめちゃくちゃに振りまわす。
「動け! 動けよトリゴ!!」
『死にたまえ』
黄金の右腕がコックピットに迫る。トリゴは主人を逃がすため必死に右腕を動かすが一センチほどしか機体を動かせない。
“終わった”。
プールが諦め、目を閉じた時だった。
『――その人に触れるな……!』
銀色の塊がカエルレウムをぶっとばした。




