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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐⑳ プールvsレイン その3



――『プール、お前に特別な才能はねぇ』



 まだプールが十歳の時、山の麓にある小屋を拠点に彼女は三十歳を超えた男性と修行していた。この頃のプールはまだ目つきも悪くなく、髪も短く今とは全く別の印象、女の子らしさがある。


『うー、師匠はたまに厳しいことを言います……』


 ぷく。と頬を膨らませ、プールは師である男を見上げる。


『ははは! そう膨れるな。お前は特別な才能……つまりは“心能”を持っていないがすでに俺の部隊じゃ俺の次に強い。だが初めからそうだったわけじゃない。お前はビリッケツから周りの技術を見て、覚え、体感し、自分のものにした。特別な才能はもってねぇがお前は間違いなく強い』


 師である男性は少し髭を生やし、背が高く筋肉質だ。赤い髪は長く、一つにまとめている。薄汚い茶色のコートと黒いジーンズに身を包んでいる。彼は背の高い木の椅子に座り、プールを見下ろしていた。


『でもいくら頑張っても師匠には勝てる気がしません……師匠の心能は反則すぎます!』


『まぁ確かに俺様は最強で無敵で負けたことなんざ一度もねぇが、お前にはいつか負ける気がする。――いや、そう願ってるのかもな。生まれつきの才能で無双してきた俺にとってお前はある意味希望なのさ』


『希望?』


『そうだ。俺は努力ってやつを見下していた、所詮最後は才能がモノを言うと思っていた。だがな、お前を見てるとそうでもない気がしてきたんだ。俺の戦闘データ二十年分をぶっ通しで見続けたのはお前が初めてだぜ、終わったらリプレイしだしたのもな』



『まぁ私は努力家ですからね!』


『――そこまでして、俺の足元レベルにしか成長しなかったのも驚いたけどな』


『むっ……』


 男は落ち込むプールを見て笑い、楽しそうに話を続ける。


『もし、非凡なお前が超天才の俺を超えたなら、“努力は才能を凌駕する”。そう自信もって言えるようになる。努力ってやつを認められる……』


 男はプールの頭にポン、と右手を乗せ、真剣な眼差しで祈るように言う。


『プール、この先お前は圧倒的な才能を前に何度も挫けそうになるかもしれない。高い壁を前に何度も諦めかけるかもしれない。その(たび)思い出せ、お前の使命を、お前が倒すべき相手を、この“クラック・カーネーション”をな。このクラック様に比べればどんな試練も相手も雑魚同然だ』


 師の言葉にプールは年相応の笑顔を浮かべて答えた。


『わかった! わたしが師匠を倒す! それまでわたしは諦めないし挫けない!』


 それはまだ何も起きていない時の出来事、淡く優しい数少ないプールの思い出だった。




 * * *




「“諦めないし、挫けない”、か。嫌なこと思い出したな……」


 プールは血と汗を拭い、息を潜める。


 現在、プール・サー・サルンは水中回廊の曲がり角に隠れ、徘徊するレインから身を隠していた。


『どこですかぁ~? 一人は寂しいですよぉ』


「ったく。この状況でも諦めるなって? 冗談でしょ」


 プールが乗る量産型、トリゴはすでにボロボロだった。


 顔面は砕かれ左腕は破損。脇腹もダメージを負っていた。エネルギーも六割方使い果たし武器も出涸らしだ。


 コックピットは銃弾を掠らせ損傷している。プール自身も額と頬から血を流していた。


(残ってるのはワイヤー35m.スタングレネード×1.ナイフ×1.バズーカ×1、弾数は3……重武装が聞いて呆れる。斧とライフルを失ったのが特に痛手だな)


 プールは手の内を確認して改めてため息をついた。


 状況は酷い。相手はほとんど無傷で手の内も全て見せてはいない。唯一プールに利点があるとすれば相手は防衛側、ゆえに行動範囲は限られるところだ。


(水中回廊、秘宝の間に繋がるルート。そのルートからアイツは出ることはできない。回り道して逃げるのは容易だけど……)


 プールはある日の誓いを思い出し、“逃げる”選択肢を思い浮かべた自分を笑い飛ばした。


「そうだな。アイツに比べたら、あんなの雑兵(ぞうひょう)だ」


 プールは逃げの選択肢を排除し、覚悟を決める。


『もう~どこですかぁ? いい加減かくれんぼは飽きましたよぉ~』


 水中回廊を徘徊するフラーウム。そのフラーウムの背後の曲がり角でガタンッ! と重い足音が鳴った。



『あ。見つけましたよぉ~』



 H字の道で、トリゴは背を向けて中央の一本道にいるフラーウムの背後に現れた。手には唯一フラーウムに通じる破壊力を持つバズーカを持っていた。


「どうもこんにちは。いきなりで悪いんだけど、――花火大会しましょうかッ!!」


 弾数3。その内貴重な2発のロケット弾をいきなりプールはフラーウムに向かって放った。


 それに対しレインは全く動じず、Ⅳのバレルを装備した“ガチェットライフル”を構える。その口径はⅠやⅢ番のものに比べ大きく、銃身の下にチューブマガジンが付いている。


 プールはその銃の構造を見て目を丸くした。


(ちょっと待て。一体どうなってやがる!? あんなのバレルと弾丸をいじったくらいで――)


『ばんっ!』


 放った弾丸は多数の小さな弾丸となり散開する。ロケット弾は散開した弾丸に触れ、ゴォオオオンッ!! と音を上げて起爆し、黒煙をまき散らした。


『4番ちゃんは散弾でしたぁ~! えっへへ~驚いたでしょ? ――ん?』


 レインはスッと黒煙から物体が飛び出したのを確認した。それは白く輝く刀身を持つナイフ、トリゴ最後の近接武装だ。プールは貴重な武器の一つを迷わず投擲した。


(畳みかける!)


『あまあま~』


 フラーウムの顔面目掛けて飛んでくるナイフをレインは察知、フラーウムは頭を伏せた。フラーウムの頭上を越えていくナイフを見てレインは笑う。


『むだですよぉ、なにをしたって』


 レインが油断した刹那、コロン、とフラーウムの眼前に鉄の塊が転がってきた。


「無駄も積もれば価値になるさ」


――スタングレネードである。


『むっ――』


 閃光がフラーウムを襲う。


『うぅ、まぶしいです』


 フラーウムのカメラは閃光に支配され、一秒の硬直を強いられた。レインは敵の奇襲に備え、身構えるがトリゴによる奇襲はなかった。


『はれぇ?』


 光が晴れ、レインはトリゴの位置を見て驚いた。トリゴはさっきバズーカを放った位置から一歩も動いていない。攻撃する姿勢ではない。


 では今までの行動に一体なんの意味があったのか。その答えはフラーウムの武器、“ガチェットライフル”にあった。


『これは……!?』


 レインはライフルに視線を落とし、気づく。“ガチェットライフル”に先ほど投げられたナイフと細い糸が絡みついていることに。


『はれ、これはさっきの斧のときとおなじわいやーさんですかぁ……!?』


「昔から輪投げの才能だけはあったのよねぇ」


 プールはまずバズーカの弾で黒煙を作り、黒煙の影からナイフで奇襲した。この時すでにナイフにはワイヤーが巻き付けられていたのだ。


 レインはナイフがフラーウムを狙っていると読んだがそれは間違い。プールが狙っていたのはフラーウムの手元にある“ガチェットライフル”だった。そうとも知らず、ナイフを避けて安心するレイン。本命はその後、ワイヤーを引っ張りナイフをガチェットライフルに誘導・巻き付けることにある。


 しかし、ここでトリゴがそんな挙動を取れば確実にバレる。例え挙動でバレずとも黒煙が晴れた後では光が反射しワイヤーの存在がバレる可能性があった。


 だからプールはスタングレネードを投擲。これにより相手の視界を封じ同時に隙を作り、ワイヤー付きナイフを“ガチェットライフル”に巻き付けたのだ。この時、レインがトリゴの奇襲を警戒して銃を構えたまま動かなかったこともいい方向に働いた。


 プールは残った武装全てを賭けて、たった一つの武器を手に入れようとしたのだ。


 ただ、それらの流れを完璧にこなすには超人的な空間把握能力と手先の器用さがなければできない。プール自身、ほとんど視界はゼロの状態でナイフを顔面に投げつけ、ワイヤーを操りライフルに巻き付けた。目を閉じて手術をするような感覚だ。それらの技術は全て、()()()から学んだものである。


「さすがに手持ちの武器じゃアンタに傷一つ付けられそうになかったからねぇ……! だからアンタに傷を付けられる武器をアンタから借りることにした!!」


 トリゴはバズーカを持った右手でワイヤーを引っ張る。


『させまへんよぉ!!』


 しかし負けじとフラーウムも銃を両手で持ち、ワイヤーを引っ張る。ここまでしてようやく巻き付けたワイヤーだったが、トリゴの馬力はフラーウムよりも下だった。


「ぐっ!?」


 じわじわとトリゴがフラーウムの方へ引っ張られていく。


『えっへへ~わたひのかちです』


「――ねぇ、戦いにおいて最も大事なことって何だと思う?」


『はひ?』


「私は戦力の把握だと思うんだ。相手はどれだけ強くて自分はどれだけ弱いのか、それさえわかっていればチャンスはある」


 プールは笑い、アクセルから足を放した。


『――!?』


最初(はな)から勝てもしない綱引きをする気はない。アンタに勝てる分野でしか私は勝負しない!」


 アクセルを踏まないことで力が抜けたトリゴをフラーウムは全力で引っ張った。同時にプールはトリゴを方向転換させアクセルを思い切り踏み込む。フラーウムの引っ張る力とトリゴが前進する力、一瞬だけ二つの力が合わさったおかげで距離はみるみる詰まっていき、力のバランスが崩れたことでワイヤーに込めていたパワーが空回ったフラーウムは態勢を崩した。


 トリゴは距離を詰めながら右手でバズーカを構える。残り一発の弾を込めて。


 距離は3m。迎撃・回避不可。


『そ、そんな距離で撃てばあなたもまきぞえをくらいますよ?』 


「どうした? 舌が回るようになってるじゃない。酔いは覚めたみたいね……」


 トリゴはワイヤーを巻き付けた右腕の手首から肩部分だけを高速回転しワイヤーを巻き取りピンと張らせ、ワイヤーが巻き付いた銃を持つフラーウムを離れさせないようにした。


 バズーカを挟んで二機は静止する。


『心中する気ですか!?』


「私がそれを恐れると思う? あの世に行ったら一緒に酒でも飲もうか。レイン・アベット……」


 トリゴが引き金に掛かる人差し指に力を込める。


(こ、このパイロットは()()()の人間だ! ど、どうしよう……お酒の効力が()けたばっかりで思考がまとまらない……!!)



「はい。時間切れ」



『むっ――!!?』


 レインはライフルを捨て、全速でトリゴから距離を取る。同時にバズーカからロケット弾が発射された。


 フラーウムは腰から拳銃を抜き、弾を迎撃する。プールはその動きを見て、改めてレイン・アベットの能力に感心した。


「さすがは()()“宝作の時代”と呼ばれるだけあるな……どいつもこいつも全員強い」


 ロケット弾が起爆し黒煙が吹き荒れる中、レインはある決意をする。


(この人相手じゃ酔いが足りない)


 そう心の中で呟き、レインは冷蔵庫に視線を送った。そして冷蔵庫を漁り、ブランデー(40%)を取り出す。


(私はシャンパンまでなら気を失わずに戦える。今みたいに酔った状態から立ち直ることもできる。だけどこれ以上の度数はどれも意識が三分と持たない。でもやるしかない!!)


 レインはブランデーの瓶の蓋を開けた。


『お酒はパワーです!!!』


 レインは手に持ったブランデーを一気に飲み干す。


――“自己陶酔”、40%解放。


 潜在能力の開花に呼応するようにレインの瞳の中で泡が(はじ)けた。


「アイツ、どこ行きやがった?」


 黒煙が晴れた時、プールの視界からフラーウムは消えていた。

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