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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐⑰ プールvsレイン その2

 開花型心能“自己陶酔”、所有者レイン・アベット。


 その能力は自分に酔えば酔うほど潜在能力を発揮するというもの。しかしレインはその生真面目な性格からどれだけ成果を残しても自分を卑下し、己の実力を認めようとしない。


 心能“自己陶酔”、その代償は“自己否定”だ。


 だから彼女はシラフならば心能を発動することは不可能。自分に全く酔うことがない以上、発動しようがないのだ。ゆえに、彼女は己の内に心能が眠っていることに気づいていなかった。


 だが、ある日の飲み会でケイン・マッケルに酒をすすめられ、生まれて初めて酒を口にした際に事件は起きた。




 酒を飲み、気を失った彼女はその場にいた屈強な軍人たちを無差別に組み倒したのだ。




 レインは酒を飲み、酔っぱらうと『プライドの高い自己愛が激しい人格』に変化する性質を持っていた。偶然にもその性質が生まれ持った心能を呼び起こし、溢れる力を周囲の男達を倒すことで発散させた。それを見たケイン・マッケルが彼女の才能を見定め、側近として起用した。


 この一件以降、彼女は己の心能を認識し、『酒で自分を酔わせることで不安や否定の気持ちを紛らわせる』術を身に着けたのだった。酔えば酔うほど、アルコール度数の高い酒を飲めば飲むほど彼女は己を認め、己に酔い、潜在能力を引き出す。


 それがレイン・アベット、心能“自己陶酔”の力だ。






「クソッタレが!!」





 心能を発揮したレインがプールを追い詰める。


 プールはトリゴの武装をフルに使い、敵をけん制しながら背を向け迷路を走る。


『わたひはつよつよですからぁ、にがられまへんよぉ~?』


 レインの猛攻を前にプールはジワジワと追い詰められてきていた。


 レインのチェイス、フラーウムの持つ銃身(バレル)に“Ⅰ”と刻まれたライフルが銃弾を放つ。

 プールは銃の銃口と引き金を視野に収めていればツミキの危険信号と同等の精度で弾道を予測、回避することができる。このフラーウムの攻撃も弾道を予測し屈むことで簡単に避けた。しかし、とプールは眉をひそめる。


(まだこのチェイス、発展型(ナイト級)としての性能を見せていない。――いや、もう見当はついてるけど!)


 プールはフラーウムの持つ特別なライフル“ガチェット・ライフル”、その銃身に書かれている“Ⅰ”という数字を見て目を細める。さらにプールは視線を落とし、フラーウムの腰にぶら下がっている五つの銃身を見る。


「あのバレルの数、予備ってわけじゃないわよねぇ」


 通常、何らかの不備に備えて銃を多く持つことは不思議じゃない。しかし、()()を多く持つことは無いと言っていいだろう。しかも銃身の形、長さ、太さはそれぞれ違う。


 銃身一つ一つに “Ⅱ~Ⅵ”のナンバーが刻まれており、プールは益々頭を悩ませた。


『やりまふねぇ~だったらわたひもほんきです……』


「なにをする気だ?」


 足を止め、フラーウムは片膝を付き、ライフルを()()しはじめた。



『バレルチェ~~ンジ! あんど、弾交換!』



 銃身を解体→腰の“Ⅲ”と書かれた銃身を手に取る→装着→“Ⅰ”番の銃身は腰へ→リロード。


 その一連の行動を三秒の内に終わらせた。人間の力では不可能な動きだ。


(あれは予めプログラムされている動きだ。物体の位置関係を全てデータと合わせ、適用したプログラムを起動。細かいズレを許さずプログラムの正確な選択も必要な高等技術! 普通は整備の時に動作確認で利用するもの……だってのに戦闘中にやるとかアホかコイツ!!)


『なんばー3! せっとおーけ!』


 次にセットされたバレルはⅠ番のものより太く短い。プールは背を向け逃走することをやめ、向き合って弾丸を避けることに集中した。


(なにがくるかわからない。――集中!)


 ガンッ! と放たれる弾丸。


 先ほどの弾より遅い。プールは機体を左にスライドさせ、完璧に避けきった。


「なんだ、なんも変わって――」


 プールが油断した刹那、ピリリリリリッ!! とコックピット内で警告音が鳴り響く。


 プールはステータスを開き、異常を確認する。


「脇腹を損傷!?」


 プールはカメラで損傷位置を確認する。そこには弾丸が通ったような跡があった。


 プールは傷を見て、一つの推測を立てる。


「もしかして――」


『もういっぱーつ!』


 再びフラーウムから放たれる弾丸。


 プールは先ほどと違い、ある計算をしてからトリゴを動かす。


(この辺か)


 ヒュン。と弾丸はトリゴを頭上を越えていく、そしてその後、弾丸は再びトリゴの頭上を通過してフラーウムの顔の横を通り過ぎていった。


 プールは確信する。この弾丸は跳ねる性質があるということを。


「跳弾……なるほどね」


 発展型チェイス“フラーウム”。その本機の性能は手に持つライフルから放つ弾丸の軌道を顔についたバイザーで予測できるということ。そして主武装である“ガチェット・ライフル”の性能は……


「バレルと弾丸を変えることで弾の性質を大きく変化させる。それがアンタの機体の能力ってわけね」


『あれぇ~? バレちゃいました?』


 プールは敵のパイロットの力、そしてチェイスの力を冷静に分析して冷や汗をかいた。


(変則的な動きをするパイロットに変則的な武器を持つチェイス……このコンビ、厄介だな)


『じゃあ、つぎいきますよぉ~? バレルチェ~~ンジ! なんばー6! せっとおーけ!』



 * * *



 プールがレインと対決している頃、船着き場での戦いは終局を迎えようとしていた。


『ダーリン、もう少しで港ね?』


『ああ。きっと多くの貴族の船がとまっているはずだ。これにかこつけて船に積んである貴族たちの宝石を盗むって言うのはどうだい?』


『さすがダーリン! 一生ついていくわ!』


 彼らの足元には半壊した多くの緑色のチェイスが転がっている。アルベルト兄妹、彼らを止めるには数ではなく質が必要だ。しかし、近くに二人を止められる者はいなかった。


 ゆえにアルベルト兄妹は凰燭軍の防衛ラインを突破した。そして数分をかけて目的の船着き場に到着した。だがそこには……


『あれぇ~?』


『ダーリン! 一体どういうこと!? なにもいないじゃない!』


 海以外何もなかった。


 何十隻とあった船は全て姿を消していたのだ。アルベルト(兄)は『ふむ』と思考を巡らせる。


『落ち着いてハニー。きっと彼らはもう一つの船着き場へ向かったのさ』


『もう一つの?』


『そう。船を一か所に集めた方が守りやすいし、ここを落とされるのは時間の問題だとわかっていたのさ。だから船をもう一つの船着き場の方へ動かした……だったらこの道を右に曲がって海沿いを行けば、発展型の足なら移動中の船に追いつける。ってわけさ!』


『まぁ! さすがねダーリン! 愛してる♡』


『僕の方こそ愛しているよハニー!!』


 アルベルト(兄)が第二港へチェイスの足を向ける。兄に並ぶよう妹も方向転換をしようとした時、アルベルト(妹)は視界の端に一隻の船を見つけた。


『だ、ダーリン! あれ!』


『ん? なんだい?』


 妹に言われて進行方向の逆を見るアルベルト(兄)。彼は船を見つけると口元を歪ませた。


『あれって逃げ遅れた賊共よね?』


『最短距離を捨てて僕らの裏をかき、逆回りで目指そうという魂胆か! ハニー、お手柄だよ!! 早く追いかけよう!』


『わかったわダーリン!』


 発展型二機は東ではなく西に足を向け動き出す。


 発展型二機は三分ほどの時間をかけてその船に追いついた。アルベルト(兄)は拡声器を使って船に言う。


『ここまでだよ下賤な賊共め! 神妙に……って、あれ?』


 アルベルト(兄)は船に乗る人間を見て目を疑った。


 逃げ遅れたはずの一隻の船に乗っているのはたった一人だけ、生気のない目に隈を浮かべた男一人だけだったのだ。



「残念だが、この船は一人乗りだ」



『まさか――』


 アルベルト(兄)はすぐに理解する。相手の考えを。


(僕の読みは間違っていなかった……コイツは囮だ!!)


 シンラは偶然にもサンタが思いついたものと同じ策を実行した。つまりもう一つの船着き場へ船を固めることを選択したのだ。

 しかし、そのまま全員で向かったとして敵に追いつかれる可能性は高い。相手は発展型だ。ならば当然囮がいる。


 第三層の住民を乗せた船たちはすぐさま出航させもう一つの船着き場へ東のルートから向かわせる。そして自分ひとりが乗るこの船は出港準備だけ手を借り、あとは海流に任せて西のルートをのんびりと行く。


 敵が船着き場へ来た時、ちょうどギリギリ視界に入るように。


「もしお前らが二人分かれて両方のルートを行っていたら詰んでたな。だがもう遅い、――仲の良さが仇になったのさ」


 シンラ・バードは己の命を賭け、住民を守る選択肢を取った。




 プール・サー・サルン、シンラ・バード、共に劣勢。


 依然としてツミキ・クライムとケイン・マッケルは戦場にその姿を見せていなかった。

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