表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い
39/166

2‐⑯ プールvsレイン その1

 水中回廊入り口から三百メートル地点。そこで二機のチェイスは五十メートルの距離を開け向かい合っていた。


 旧世代の量産型(ポーン級)チェイス“トリゴ”と狙撃用発展型(ナイト級)チェイス“フラーウム”。プールとアーレイ・カプラ幹部レインの戦いだ。


 トリゴは腰に二振りのナイフ、背中には三発撃てるバズーカランチャーが二丁、手に持つは右手にライフル一丁と左手に重そうな斧を持っている。他には手榴弾やワイヤー、スタングレネードを隠し持っている。


 対して“フラーウム”は近接武装を一切持たず、二丁拳銃やバズーカのような飛び道具ばかり。手に持つは黒色のライフル。


 二機は睨み合い、次にどの動きでもできる自然体の構えで静止していた。


(相手はあのアーノルド君と同等に渡り合った人、例え量産型でも油断はできない!)


 プールは戦いの空気に胸を躍らせ、ニヤニヤしながら足を一歩進める。


「さて。開始の……」


 そのまま手に持つ斧を振りかぶり――


「――ゴングだ!!」


 フラーウムに対してぶん投げた。


(斧を!?)


 フラーウムは発展型の機動力で強引に左に逸れ、回避する。だが回避の隙にトリゴは距離二十メートルまで接近してきていた。


(どう見てもコイツは遠距離戦が得意なタイプのチェイス! 距離を詰めてペースを握る!!)


『甘い!!』


 フラーウムは崩れた態勢のままライフルを片手で構え、トリゴに狙いを定めた。


(お)


 プールはその動きに関心する。


 銃声を上げ、放たれた弾丸。本来ならコックピット直撃コースだった弾丸をプールは最小限の動きで簡単に避け、さらに距離を詰めた。


『嘘!? 狙いは完璧だったはず!!』


「だからこそ読みやすい!」


『でも、その程度の加速で!』


 フラーウムは遠距離戦を得意とする機体。ならばレインが接近戦を望むはずがない。ゆえに、彼女が取った行動はトリゴの方を見ながらの後退。通常なら前に走る機体と後ろ向きで走る機体とでは前者が勝る、しかしトリゴは量産型の中でも鈍足な方でフラーウムは発展型の中で平均程度の機動力。例えこの状態でもフラーウムの足の方が速かった。


(これで追いつけはしない!)


 プールはレインの行動に対して口元を歪ませトリゴの武器の一つ、手榴弾を手に取った。そしてそのピンを抜き、右手を後ろに引いて投げる態勢を取る。


(手榴弾!? すぐ後ろは壁、曲がり(カット)の隙を狙う気ですか。ここで下手に距離を離すと絶好の間合いになる……)


 ならば。とレインは後退をやめ、一転、トリゴと距離を詰めた。


『この距離でそれは使えませんね!』


「さぁ~て。どうかな!」


 次にプールが取った行動にレインは目を疑った。


 トリゴはあろうことか手榴弾を前に投げず、手首のスナップを利かせトリゴ自身の背後に投げたのだ。


『まさか――』


 手榴弾はトリゴの背後でゴォオンッ!! という音を立て爆発。その爆発の爆風が“トリゴ”の背中を押し、レインの目算よりも早く二機の間の距離を埋めた。


(手榴弾を利用して加速!?)


 トリゴは加速しながら腰の二振りのナイフを左右の手に持つ。


「そぉぉうらぁッ!!」


 右手のナイフが発展型のコックピットに当たる。しかしナイフはフラーウムの装甲に負け、逆に折られてしまった。


「っち! だったらこっちだ!!」


 次にプールが狙ったのはフラーウムの目だ。チェイスは基本的に顔面部分に精密機器が集まるため脆く、破壊した時の効果は大きい。だが当然、レインもそんなことは承知だ。


『させません!』


 フラーウムの右肘でトリゴの胸部を攻撃し、押し返す。


『よし、この隙にもう一度距離を離す!』


 レインはトリゴの態勢が崩れたのを確認して再び後退……することはできなかった。


「そこ。滑りやすいから気をつけなさい」


『え?』


 フラーウムはなにか硬いものを踏みつけ、足を滑らせた。それは一番初めにプールが投げたトリゴの斧だ。


『そんな……斧はもっと後ろまで飛んでいったはず――」


 そのレインの疑問の答えは斧の取っ手にあった。


 そこにあったのは目を凝らさなければ見えないほどの糸、


(ワイヤー!?)


 そのワイヤーはトリゴの右手の小指まで続いていた。プールは(あらかじ)め斧にワイヤーを絡ませており、フラーウムが踏むように計算して手繰り寄せていたのだ。


「運が悪いねぇアンタッ!」


 プールはトリゴの態勢を整え、地面に尻もちついたフラーウムへトリゴを走らせる。


 危機的状況。防戦一方の状態でレインが取った行動は、


 ――冷蔵庫を開けることだった。


 フラーウムのコックピット内部には特別に小型の冷蔵庫がある。レインは戦闘中にその冷蔵庫を開けたのだ。


「うぅ……仕方、ないですよね……」


 嫌そうな顔をしながらレインは冷蔵庫の中を探る。


 冷蔵庫の中には五つの200mlの酒瓶が入っていた。


 左からビール(アルコール度数5%)、シャンパン(12%)、ブランデー(40%)、ラム酒(72.5%)、スピリタス(96%)。レインはその中の内左から二番目シャンパンの酒瓶を手に取り、急いで蓋を外す。


(お酒、嫌い……嫌いだなぁ。でも、背に腹は代えられません!)


 そしてグイッと一気飲みした。


 プールはそんなことなどいざ知らず、地面に落ちていた斧を拾って微動だにしないフラーウムに対し上から斧を振り落とす。


――だが、


「なに!?」


 斧は信じがたいことにフラーウムの両手に挟まれ止められた。“白刃取り”である。


『ふひぃ~。もうまけまへんよぉ~~わたひはやればできるこなんれすからぁ~』


 酒を飲んだレインの顔は赤く火照り、その目は虚ろだった。だが、なぜか操縦桿を扱う手さばきだけは正確で一分のズレも無かった。


 プールはその得体の知れなさに恐怖する。


(やばい! コイツ――)


『うぅ……あれ? なんだかトリゴがいっぱいみえるぞぉ?』


 フラーウムはそのまま斧を奪い、トリゴに振るう。トリゴはなんとか避けるがフラーウムは尻もちつきながら右足を横に薙いでトリゴの足を崩した。


 ズザァッ! とトリゴは背中を地面に擦りながら後退した。プールはコックピット越しにフラーウムを見上げながらため息をつきボヤく。


「まったく、なんで私の相手はこんなんばっかり……」


 プールはもうわかっていた。このレインという女性が特別な才能を持っていることを。


『さぁ~反撃だぁ~~!!』


 レイン・アベット、彼女は酔えば酔うほど強くなる。――開花型心能“自己陶酔”、発動。

開花型心能については1‐⑧“世界を変える力”をご参照ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ