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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐⑭ 動き出す戦局

 アーレイ・カプラ最北端、水中回廊入り口前。


『た、助け――』


 ザバンッ!! と鉄の塊が一つ海に沈んだ。続くように悲鳴を上げて海に落とされていく義竜軍チェイスたち。


 アーレイ・カプラの幹部であるレインは坂のように傾く地面にしがみつき、現状の悪さを叫ぶ。


『ケイン様! 防衛ラインがく、崩れます!!』


 その声はケインに届くことはなかった。ケインはすでに“ビショップ”の駒を握り管制室から去っていたのだ。


 水中回廊のクジラの口の形をした入り口を守るチェイスたちは足元から吸着用のオイルを滲み出そうとするが……


(駄目だ! ただでさえ今日は大雨、地面は滑りやすくオイルが固まるまでに滑り落ちる! それに吸着用オイルは水に弱いからすぐに溶けてしまう!!)


 無残にも落ちていく部下たちをレインは悔しそうに見つめるしかなかった。


 レインの黄色い発展型(ナイト級)チェイス“フラーウム”は狙撃用量産型(ポーン級)チェイス“ゲール”をひな型にした狙撃機体。いかなる足場でも狙撃の態勢を整えるために足まわりは特に強化、安定しているためこのぐらいの斜面なら容易に貼り付ける。だが他の量産型チェイスに乗りこむ部下たちはこのサンタの策に対し成す術がなかった。


 それでもなんとか建物にしがみつけている兵士もいる。しかし、




「大変そうねぇ。手、貸してあげようか?」




 悪魔がそれすら許さない。


『と、“トリゴ使い”ッ!』


 茶色の旧世代量産型チェイス“トリゴ”を筆頭とした部隊と呼ぶにはあまりにも少ない三機編成。それも全員量産型だ。


 だがこの状況において分は彼らにある。なぜなら彼らは命綱をしっかりと機体に巻き付け態勢を維持しているからだ。


 戦闘において上をとったものは圧倒的優位に立つ。現在レインたちは坂の下、先ほどまで守っていた防衛ラインは沈み、防衛兵器は水没。態勢不安定のまま万全な状態のチェイスを見上げて迎撃しなくてはならない。


 トリゴと凰燭(おうしょく)軍の緑色の人型量産型チェイス“リュイ”は手にライフルを持ち、銃口を義竜軍チェイスに向ける。


「よく頑張ったさ。だからアンタたち……もう楽になりな」


『やめなさい!!』


 プール達は必死に建物にへばりつくチェイスたちを撃ちだした。



 無抵抗な部下たちが撃ち抜かれるのを見てレインは怒り、フラーウムで坂を駆け上がる。



『あなた達には、人の心が無いのですか!? 完全に戦闘不能な者達を狙って!!』



 プールはフラーウムが水中回廊の入り口であるクジラの口から離れるのを見て笑い、トリゴに巻き付けられた命綱を斧で切り裂いた。


「優しいねぇ! おかげで道は拓けた!!」


 直進するフラーウムとすれ違うようにトリゴは斜面を滑り落ち、クジラの口へダイブする。


『しまったッ!!』


 急いで水中回廊に防衛に入ろうとするレインだったが視界に部下たちが入り足を止める。


(ここを離れたら彼らが……)


 レインは優しい女性だ。ケインのやり方にも少なからず不満を抱いており、それでも仕事だと割り切り心を痛め続けながらもアーレイ・カプラに従事してきた。


 美女と呼ぶにふさわしい容姿と少し濁りつつも他の幹部に比べ情に厚い彼女は部下にも慕われていた。


 ゆえに、レインに同情された部下たちは言う。


『れ、レイン様! 秘宝の間を、我らの宝を守ってください!!』


『しかしそれではあなた達が……』


『心配いらないですよ。俺達は俺達でなんとかしますから』


『ああ。だから貴方は早く、トリゴ使いを追ってください!!』


 部下たちの言葉に固唾を飲みながらレインは応え、クジラの口から水中回廊に入っていく。そしてレインの姿が見えなくなるのと同時に部下たちは地面から剥がされ暗黒の海へと沈んでいった。


 

――水中回廊。そこは飾り気のない白い鉄に囲まれた迷路である。分かれ道が多くあり、道幅はチェイスが三機並列しても渡れるほど大きい。常に四角形の道が続く。


 プールは最短ルートで“秘宝の間”へと向かっていたが背後に気配を感じ、背中から撃たれることを危惧してその気配の正体と対峙する。


「さすがは発展型、もう追いつかれたか」


『あなたは倒す。私の手で!』


「結構な覚悟だ。――そうでなきゃ面白くない」




 * * *



 アーレイ・カプラを傾け、プール達が作戦の第一段階を成功したことを聞きツミキはようやく銀腕を電機柱から離し始める。


 ここも油断大敵だ。いきなり引っこ抜くと反動でアーレイ・カプラが大いに揺れる。緩やかに斜度を戻し、一分の時間をかけてツミキはようやく灼熱から解放された。


 膝には鼻から流れた血が飛び散っており目は水分を失っていた。ツミキは溶けかかっていたペットボトルを手に取り頭の上から水を流す。


 凰燭軍の兵士の一人が“リュイ”に乗ってツミキのアズゥに駆け寄る。


『大丈夫か坊主!?』


「だ、大丈夫です……」


『いや、お前さん、あんな無茶をして無事なはずが』


 ツミキは自分を心配する声を遮り意地を張る。


「このまま、作戦を続行します。ここの後始末はお願いします!」


 ツミキの迷いない声に凰燭軍の男は止めても無駄だと悟った。


『お、おう! 任せておけ!!』


 ツミキは呼吸を整え、アズゥの左腕で“アンドロマリウスの右腕”を引き抜き、天に投げる。


「ここは、速度重視だ」


 そしてツミキは“アンドロマリウスの右腕”に三つあるギミックの内、銀剣“アルセルト”に次ぐ二つ目の起動式を叫ぶ。



「突っ切れ! “ヘルメス”ッ!!」



 ツミキの声に応じて空に投げられた銀腕が変形する。


 対シーザー戦で使った“アルセルト”は剣。ならば次は盾か、槍かと考える所だが“ヘルメス”はそのどれにも該当しない現代風の形状。それは――


 “ブレイブボード”である。


「苦手なんだよなぁ、コレ」


 アズゥは右足のつま先で“ヘルメス”の先をキャッチし、そのまま空中で回転させ足の裏で前板を押さえつける。


 “ブレイブボード”とは前後に自在車輪機構を一つずつ備えた二輪構成のスケートボードのようなものだ。前後の板を繋ぐように金属棒があり、前後の板に両足を乗せ上半身と下半身のひねりを利用し“ブレイブ・ボード”を左右に振ることによって速度を増し前に進む。ちなみにヘルメスの素材は板も棒もタイヤも全て白銀の()()()()()()()物質だ。


 チェイスを通した操縦難易度は非常に高く、プールが懇切丁寧に教授してようやくツミキはふらつきながらも乗れるようになった。


 早速ツミキは“ヘルメス”に足を乗せ、アズゥの全身のひねりをつかって加速する。だがその動きには怯えがあった。


(こ、怖い! でもここから秘宝の間に向かうにはこれに乗るしか……)


 通常の“ブレイブボード”ならば緩やかに加速しているが、あくまでツミキおよびアズゥが乗っているのはアンドロマリウスのパーツである。つまり、



 その加速は殺人的だ。



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!? やっぱり、これ、欠陥品だって!!」


 白銀のタイヤは通常のタイヤと違って少ない力で大幅に回る。さらに計算されたフォルムと内部バッテリーによる電気加速(この電気はタイヤの回転によって発電される)が合わさり爆発的に加速する。


 高速で動くことにより発生した風のバリアが雨を弾き、同時に“アズゥ”を吹き飛ばそうとしていた。


「あ、アズゥの姿勢を低くしないと空気抵抗で飛ばされる!? ―—あ、ああ! ぶ、ぶつかる!?」


 激しく蛇行しながら、時に建物に激突しながら、ツミキは全速で秘宝の間を目指す。



 * * *



 ツミキ、プールが秘宝の間へ向かっている時、船着き場では激しいチェイス同士の戦いが行われていた。


 サンタ達はアーレイ・カプラが傾いた隙を狙い船着き場を支配することに成功した。しかし、その後で海に流れなかった多数の義竜軍チェイスに攻め込まれていた。その義竜軍チェイスの中には白い発展型“アーテル”と黒い発展型“アルブス”、つまりはアルベルト兄妹が混じっている。


『あらあら手応えないわねダーリン!』


『まったくだハニー! 彼らは僕らの相手じゃないね!』


 凰燭軍残党はアルベルト兄妹にあっさりと敗北を喫していた。


 船の奪取作戦において凰燭側の主戦力はマリン……だが彼女は別の船着き場で戦闘を繰り広げている。船着き場は二つあり、両方に停まる船を使わなくては第三層の人間全員は乗れない。


 つまり現在義竜軍一般兵vsマリン、アルベルト兄妹vs凰燭軍残党の組み合わせで戦っていた。


 このマッチングを変えることはできる。つまりマリンとアルベルト兄妹を対峙させ残りの兵士同士で戦うという展開だ。だがそれだと兵士同士の戦いで数も経験も劣る凰燭側に勝ち目はない、一つ黒星を背負えばそこで作戦は失敗する。


 ゆえにサンタはこの状況でなにもできずにいた。しかし希望がないわけではない。


 現在、アルベルト兄妹が向かっている船着き場には第三層の住民に紛れてあの男がいる。



――英雄になりそこなった男“シンラ・バード”。



 シンラは船の上から双眼鏡で戦場を見渡し、敗色濃厚なことを理解した。


「駄目だ……このままじゃ」


 シンラはそう言ってポケットから真っ赤な“ルーク”の形をした起動ツール()を取り出し、見つめる。


「俺が」


 駒を握り、その起動式を叫ぼうとした瞬間、


 ドクンッ! と心臓を締め付けられた。


 シンラはその場に膝を付き、ある日のトラウマを思い出す。


―—“あなたはなにも守れない。あなたはなにも救えない”


 いつか、自分が見捨てた女性の声が脳に響く。


 シンラはその声を聞くと体が硬直し、膝から力が抜けてしまった。


「やっぱり俺には……」


 現在、もっとも状況が悪いのは船着き場の戦いだった。

 このままではポセイドンを破壊した所で第三層の人間は助からない。



 凰燭側の軍師であるサンタは少なからず焦っている。予想外だったのはアルベルト兄妹率いる部隊が、アルベルト兄妹の無駄なイチャイチャタイムのせいで船着き場に行くのが遅れサンタの策を逃れたことだ。


(現状の悪さはわかっておる、このままいけばワシらは“(ぎょく)”を失うだろう。賭けになるが、もう一方の船を出航させこちらと合流させるという手もある。この短い距離ならば海流操作の影響も受けにくい、合流出来れば守るべき対象を一か所に集められ守りやすくなる。――だがそれは問題の根本的解決にはならない。戦力の差は変わらないのだから結局プールを戻すしかなくなる……しかしプールを前線から戻しては恐らくこの戦い……)


 サンタは思い浮かべた策を一度飲み込み、ある男に期待する。


(お(ぬし)しかおらん! シンラ、この戦い……いいや、この先ワシらが義竜軍と戦うにはお主の力が必須じゃ!)


 マリンの守る船着き場でサンタは唇を噛みながら奇跡を待つ。

 マリンは五機の義竜軍の“アズゥ”を相手にしながら呟く。


「シンラ……」


今の状況。


:味方陣営:


ツミキ→ポセイドンの制御装置を破壊するため“秘宝の間”がある水中回廊を目指す。


プール→ツミキと同じ。しかし水中回廊にてレインと交戦。


サンタ→シンラとは別の船着き場でマリンと共に防衛活動。


マリン→シンラとは別の船着き場を防衛。


シンラ→サンタ、マリンとは別の船着き場で待機。


:敵陣営:


ケイン、ペガ、コモン→不明。


レイン→水中回廊にてプールと交戦。


アルベルト兄妹→シンラのいる船着き場で凰燭軍残党と交戦。


アーレイ・カプラを傾かせる作戦、成功

船の奪取、成功

船の防衛、続行中

水中回廊の防衛ライン突破、成功

制御装置の破壊、未遂


勝利条件:アーレイ・カプラを全員で脱出。

敗北条件:アンドロマリウスの右腕奪取orいずれかの任務失敗


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