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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐⑬ 銀の意地

 ペガとのひと悶着があった二時間後。ケインは開会式の準備をしていた。


「ケイン様。開会式の挨拶、台本には目を通しましたか?」


「バカなことを言うなレイン。目に見える台本など私の人生に必要ない、私の台本は常に(ここ)にしまってある」


「よく舌が回っているようで安心しました。今朝のハプニングの影響もなさそうですね」


「彼女の行動は予想の範囲内だ。監視を怠るなよ」


「はい!」


 “カプラ・パレード”の開会式は第一層全体で行われていた。


 第一層で最も高い塔の上にケインは立ち、マイクを持って集まった貴族や街の人々に挨拶をする。


『ようこそ“アーレイ・カプラ”へ! 今日は大雨ですが気落ちする必要はございません。雨が降ったからこそ楽しめるアトラクションも多くあります。皆様は幸運なのです、“カプラ・パレ―ド”が開催される日に雨が降ったことなど一度もないのですから!』


 ケインの後ろには側近であるレインが待機している。

 レインはケインの話の途中で胸ポケットから振動する無線機を取り出し耳に当てるとその表情を暗くした。


『これまで多くの困難があったでしょう。仕事、家庭問題、健康! しかし、今日は全てを忘れていい! この街で、この祭りで、我らの覇道に一輪の花を添えようではありませんか!!』


 うおおおおおおおおおおッ!! という歓声。

 ケインはその歓声に満面の笑みをもって応え、声高にしめの言葉を口にする。――はずだった。


『それではお待たせいたしました! “カプラ・パレード”開——』


『開催といこうか。ケイン・マッケル』


 ケインの言葉を遮るようにある少年の声が辺りに鳴り響いた。

 少年の声はケインの使うマイク音声に割り込んでいる。当然、少年は……サンタは姿を見せていない。


『――誰だ?』


 笑いながら、しっかりと怒りを滲ませた声でケインが問う。すると少年は声の調子をあげて宣言する。




『我らは“凰燭軍”! このアーレイ・カプラを沈めにきたテロリストである!! 今より無差別テロを行う! 死にたくないものは早く避難せよ! ちなみに船着き場は我らの破壊対象の一つゆえに船に乗れば命の保証はしない!』




 ケインたちが必死に用意してきた祭りを土足で踏み荒らす言葉。



(“凰燭軍”……確か十三期の——)


 その言葉を聞いて貴族たちはざわめきだした。


「なんだって!? テロなんて冗談じゃないぞ!!」


「は、早く避難場所に案内してくれ!」


「おい! 金は払う。ワシを一番に保護しろ!!」


 ケインは壊れるほどの圧力でマイクを握りしめる。だが陽気なスタイルは崩さない。


『とんだイタズラだな。お仕置きが必要か?』


『そんなことを言ってる場合か。まずこのパニックをどうにかしなくてよいのか?」


 ケインは舌打ちし、市民に語り掛ける。


『皆様落ち着いてください! このアーレイ・カプラが沈むはずが……』



 ゴォォォォォォンッ!!!!!!!!



「HA?」


 だがそんなケインの言葉を裏切るような轟音がアーレイ・カプラに鳴り響いた。


「地震だと!?」


「ケイン様!!」


 レインがが慌てた様子でケインに駆け寄る。


「なんの騒ぎだ!?」


「敵襲です! 第三層にいる義竜兵は全滅。そしてアーレイ・カプラ北端を目指して凰燭軍の残党、さらには“アンドロマリウスの右腕”を強奪した噂の“トリゴ使い”が進軍してきています!!!!」


 ケインは突然の敵襲に対し焦りと同時に喜びの感情を抱いた。


「アンドロマリウスの右腕か!?」


 アンドロマリウスの右腕。それはケインにとって垂涎物の兵器だ、例えカプラパレードが台無しになっても釣りが出るほどに。


(あれさえあれば義竜軍から資金をたんまり貰える! そうすれば浮遊装置を完成させる費用が手に入る!)


 ケインは口元を歪ませ指示を出す。


「好都合、この機会に必ず奪う!! ――水中回廊の守りを固めろ! レイン、防衛に回れ!!」


『はい!』


「アーレイ・カプラをできるだけ浮かせろ! ポセイドンを使って岸から離す、この街を牢獄としてアンドロマリウスの右腕を捕まえるんだ!! アルベルト兄妹は兵を連れて船着き場に先回りしろ。圧倒的な数の差で賊共を踏みつぶせ!!」


『『了解!!』』


「残りは市民の避難誘導だ!」


 ケインは「さて」と一息つき、マイクを持つ。


『やってくれたなテロリスト君? だが甘い。貴様らの目的は容易にわかるぞ。守る場所さえわかれば我らの敗北はありえない』


 そう、兵力差は圧倒的なのだ。

 単純に数が違う。水中回廊の入り口にはレインと三十二機の量産型チェイス。船着き場にはアルベルト兄妹と十八機の量産型チェイスがいる。


 反してサンタ達は総勢ニ十機ほど。相手はチェイス以外にも防衛兵器を多く持っており差は絶対だ。


(さて。敵兵力の誘導、市民の避難は完了した。後は待つのみ)


 サンタは時を待っていた。奇策を発動する絶妙な時を。


 ツミキは凰燭軍残党が乗るチェイス一機と共に第三層の発電所の前に。プール、そして凰燭軍残党の量産型チェイス二機を含めた計三機は第二層の北部で近くの建物にしがみつき待機。マリン率いる船奪取チームは十五機編成で第三層の住人を囲い第三層と第二層を繋ぐ通路に鎮座していた。サンタとシンラは第三層の住民に紛れている。


「残り十五基の電機柱の連動は終わった! まだかサンタ、もう準備はできているぞ!」


「まだじゃ。あと一分」


 サンタとケインは互いに認識していないが高度な心理戦を繰り広げていた。


 ケインは塔から降り近くの管制室でアーレイ・カプラの現状を見て首を傾げていた。


(おかしい。奴らに勝機があるとすれば短期決戦に全てをかけた電撃作戦。なのに、この侵攻の遅さ。すでに奇襲に失敗している)


(恐らくケイン・マッケルは相手に“アンドロマリウスの右腕”があるとすれば秘宝の間がある北端にチェイスを固める。だが――)


(待て。今回の戦い、もし第三層の人間が加担しているとすれば……)


(ケイン。もし(ぬし)がワシらを逃がさないために浮遊装置を最大限使っているとすれば、この戦いはもう決まった)


 サンタは右手を上げ、振り下ろす。


「火を放て!」


 その動作を目にして第三層の人間は情報を伝達し、北端の浮遊装置のみに仕掛けたダイナマイトを点火する。


 そこでようやくケインは気づく、サンタの思惑に。


「おい、第三層の監視カメラの映像を出せ!!」


「そ、それが監視カメラ全てが機能停止――いや、破壊されています!! し、しかも第三層の管理者は全員連絡が取れず、発電所は賊に奪取されました!」


 第三層北部で爆発音が鳴り響く。その音は地震のようにアーレイ・カプラに伝わった。


 サンタ達が爆破したのは第三層北部にある電機柱、つまり浮遊装置の動力源である。


「浮遊装置はアーレイ・カプラの底に計三十基付いている。その内の北半分十五基を爆破した。――この意味がわかるな? ケイン・マッケル」


 浮遊装置の半分は機能を停止した。


 ここで問題だ。北半分の浮遊装置が停止し、南半分の浮遊装置のみ稼働したらどうなるだろうか?


 その答えを身をもって知ったのはレイン率いる水中回廊防衛部隊だった。


『嘘……アーレイ・カプラが傾いて――』


 チェイスが戦えるのは一部を除いて陸のみ。つまり、海に落ちればひたすら沈むだけだ。サンタの狙いは北に敵戦力を集中させアーレイカプラの北側を傾かせる、そしてそのまま敵チェイスを海へ叩き落すことだ。


「そのための宣戦布告か!?」


 だが。とケインは笑う。


(浮遊装置はまだ完成していない……そのせいで制御管理は甘い、が、同時にパワーも弱い! アーレイ・カプラを傾かせ、チェイスを落とすほどの斜度は作れまい!!)


 そう、アーレイ・カプラが未だ本拠地に滞在している理由は浮遊装置のパワー不足に他ならない。海流操作装置は完成している、しかし浮遊装置がパワー不足ならば都市一個分の大きさを誇るアーレイ・カプラを動かすことは到底できないのだ。


 ならば、このサンタの策は失敗に終わるのか?


 答えは否である。


「知っておるさ、浮遊装置が力不足なことは。だから、()()()()()()()()。――ツミキ!!」


 ツミキはサンタに通信で合図を貰い、ポーンの駒を握りしめその名を叫ぶ。


「力を貸してくれ! “アズゥ”ッ!!」


 白光と共に展開される隻腕の量産型チェイス“アズゥ”。アズゥが展開されるのと同時に空に五つの白銀の星が流れた。


 五つの流れ星の正体は五個に分解された“アンドロマリウスの右腕”。流れ星はアズゥと縦軸を合わせる。アズゥもそれに合わせて右肩接合部分を天に向ける。五つの白銀の流れ星はアズゥの右肩に集まるように円運動し、第一層、第二層を突き破って肩から指の先まで順々にアズゥに装着された。


 ツミキは“アンドロマリウスの右腕”がアズゥに装着されたことを確認すると目の前の“ある物”に狙いを定め、


「これで!!」


 銀腕を突き刺した。


「ケイン・マッケル。お(ぬし)は“アンドロマリウス”を知らなすぎる」


 グン。とケインは地面に引っ張られた。


 ケインだけじゃない、街全体がなにかに躓いた。地震とは少し違う感覚、その感覚の正体に一番早く気づいたのはケインだ。


「このパワー……あ、ありえん!」


 ケイン・マッケル最大の誤算、それはアンドロマリウスの性能。


「ケイン様!! 浮遊装置がぼ、暴走しています! 今までの比じゃないほどのエネルギーで溢れています!!!」


 ツミキは操縦桿を握りながら思い出していた。プールがアーレイ・カプラに来る前に言っていたことを。


——“アンドロマリウスのパーツは接触しているメカの力を上昇させる効果がある”


 現在、アンドロマリウスの右腕は浮遊装置を管理する電機柱に突き刺さっていた。


 ツミキのアズゥの背中には発電所より引いたチューブが繋がれており、チェイスに収まらないエネルギーを得ている。そのエネルギーをアズゥを介してアンドロマリウスの右腕に、そして電機柱、浮遊装置へと伝えている。


 発電所→アズゥ→アンドロマリウスの右腕→電機柱→浮遊装置へとエネルギーが大量に流れているのだ。稼働している南半分の浮遊装置は膨大なエネルギーと“アンドロマリウスの右腕”による容量強化を得てすでに義竜軍の管理できるパワーを超えていた。


 代償としてエネルギーを仲介するアズゥの負担は大きい。すでにアズゥのコックピット内はとてつもない高温に支配されており、ツミキは暑さのあまり鼻血を出していた。


 サンタは街の傾き具合を見て「まずい……」と目を細める。それはプールも同様だった。


(思っていたより“アーレイ・カプラ”が重い! 客が多く来たことで通常より総重量が大幅に増えておるのか!?)


『サンタ! これじゃあチェイスを落とすには斜度が足りない!!』


『わかっておる! しかし——』


 ツミキは二人の声を聞き、口を開く。


「パワーが足りない……だったらやることは一つでしょう?」


 ツミキの言葉の裏を二人は瞬時に読み、汗を頬から垂らした。


『馬鹿! そんなことしたらアンタ、焼け死ぬぞ!!』


()()()アズゥでは耐えられん! 馬鹿な真似はよせ!!!』


 だが、少年は怯まない。しっかりと己の使命を果たし続ける。


「この発電所と浮遊装置は第三層の人達が血と汗を流して必死に稼働させてきた。絶対に無駄にはしない……!」


 ツミキの覚悟にサンタとプールは呆れたように笑う。


『ったく!』


『わからず屋め』


 ツミキは銀腕を電機柱に繋ぎながら最後の一押しをする。


禁呪(ゲッシュ)解放――!!!!」


 黒い筋がアズゥではなく電機柱に走る。同時に大量のエネルギーが強化されていないアズゥに走る。まさしく禁じられたモノを解放したツミキ、その代償は高密度なエネルギーの余波だった。


「ぐ——! た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」


 電機柱が黒く輝く。その輝きは地面の電気回路を通って残りの十四基に伝わり、黒光が第三層を照らす。


 灼熱がツミキを襲う。目は充血し、視界は眩み始めた。それでも少年は操縦桿を握り続ける。


「ケイン・マッケル……! これが第三層(この街)の力だ! 身をもって味わえ!!!!」


——その時、アーレイ・カプラは傾いた。


サンタの作戦。


初めに宣戦布告することで市民を避難させ、アーレイ・カプラの傾倒に備えさせる。ついでに敵戦力を狙いの北端に集中させる。

進軍開始。この時敢えてトリゴを見せることで“アンドロマリウスの右腕”を匂わせ、海の牢獄(つまり浮遊装置)を稼働させる。


その後、北半分の浮遊装置を破壊。南半分の浮遊装置のみ稼働。


相手が南半分の浮遊装置の機能を停止させる前にアンドロマリウスの右腕によって制御不能にし、アーレイ・カプラを傾かせ、チェイスおよび防衛兵器を水没させる。


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