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“銀”の英雄  ~Revival of Andromalius~  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第二幕 水の都“アーレイカプラ”の戦い

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2‐⑧ 目覚める天賦

「ほ、本当にいいのかな? 私たちの身代わりになってもらって……あんな子供二人に」


 異国民の男女二人は会場内の通路を走りながらある二人の人物を想う。


 この二人の男女は本来なら次のショーの見せしめ、量産型(ポーン級)に乗る予定だった二人だ。だが、チェイスに乗る直前で格納庫のライトが消え義竜軍の監視が動揺した刹那に一人の少年と一人の少女に代わるよう頼まれたのだ。


 男は逃走しながら少しだけ笑い、女に言う。


「大丈夫。あの二人は犠牲になりに行ったわけじゃないだろう、諦めた顔はすぐにわかる。俺達は逃げることに専念しよう……待て、この道で合ってるっけ?」


「ちょっとしっかりしてよ!」





 * * *






 平面正方形のステージには四機のチェイスがいた。それぞれ二機ずつに別れて向かい合っている。


 片側は赤い量産型(ポーン級)チェイス“ロッホ”。このチェイスの特徴は身軽さだ。武器はライフルとレイピアのみ、装甲は柔く重さがない。――ゆえに最高速は量産型の中で群を抜く。手軽ゆえに量産も簡単、プール愛用のトリゴの真逆に位置するチェイスである。


 乗り込むは第三層の人間……ではなく、無理やり割り込んできたツミキとプールだ。


「思ってたよりアズゥに似た性能でよかった……」


「私はこの機体嫌いね。極め甲斐がないわ」


 対するは白の発展型(ナイト級)“アーテル”と黒の発展型(ナイト級)“アルブス”だ。この二機、元の量産型(ポーン級)が同じなため武装に違いはない。白が軽めで機動力に優れ、黒は機動力は並みだが装甲が堅い程度の違いだ。どちらも豊富な中距離武装を持つチェイスである。


 会場の整備が終わると司会者がステージ中央に現れた。


『お待たせしました! これより昼の部開演です!! さぁゴングが鳴る前に、双方のオッズを見てみましょう! まずは赤コーナー……我が街が誇るベストコンビ“アルベルト兄妹”のオッズは~~』


 会場の巨大な液晶画面に“1.1”の文字が浮かび上がる。


『1.1倍だ~~!! これはもはや賭けになっておりません! 見るまでもないですが、対する青コーナーは~~』


 先ほど同じように画面に“100.8”倍の文字が浮かび上がった。


『百倍越えだぁ~~!! おっと、1Gぐらい賭けておけばよかったかなぁ?』


 司会者の言葉に笑う観客。


 観客の笑い声は嘲るようだ。しかし、別の笑みを浮かべる者が二人。


「ペガ様。本当に挑戦者に10万Gも賭けてよかったのですか?」


「もちろんよぉ」


「サンタ。お前さっき……」


「青に二万ベットしてきた」


 司会者が盛り上げを終え、ようやく戦闘開始までのカウントダウンが鳴り始める。


『それでは試合開始十秒前です!』


 会場にある巨大なスクリーンに“10”の文字が映される。


『10!』


「プールさん、まずどう動きます?」


『7!』


「安心しなさい。作戦はあるわ」


『3!』


「作戦?」


『2!』


「名付けて“棒銀戦術”よ」


『1!』


「えっと、どんな――」


 プールは不気味な笑顔のままツミキのチェイスの背中を押す。


『0!』


「まさか――」


「敵の性能を測ってこい! 銀のガキィ!!!!」


 司会者の『試合開始!』という言葉に重なるようにツミキのロッホは勢いのあるスタートダッシュを決めた。


「うわっ!? ブ、ブレーキを――」


「ツミキ。ちなみにそのチェイスはアクセルとブレーキがアズゥと逆よ」


 ツミキはプールの助言を聞き「そうなのか」と馬鹿正直に右ペダルを踏み込んだ。するとロッホはさらに加速し敵に突っ込む。


「だ、騙しましたねプールさんッ!!!!!」


(っていうかアンタ、ここに来るまで普通にアクセル踏んでたろ)


 プールに怒りながらもツミキは正面の発展型二機に集中する。


『あらあら、今回の獣は活きがいいね。ダーリン』


『そうだねハニー! まるで闘牛のようだ!』


 発展型二機は同じ鞭を構える。鞭の攻撃範囲は50メートル、伸縮自在且つ伸縮スピードは速い。


『調教よダーリン!』


『あいよハニー!』


 相手が鞭を放とうとした時、ツミキの視力の無い左目に×印が浮かんだ。


(危険信号ッ!)


 ビュッ! と息を合わせて放たれる鞭。その軌道は変則的で速い。


 しかし、挑戦者のロッホはいとも容易く身を屈ませ鞭を躱した。それも薄皮一枚当たるかどうかの最小限の動きだ。


『甘いね! この“赤い糸(ラブウィップ)”の本領はここからだよ!!』


 空を切った赤き鞭はその容貌から予想外の軌道を見せる。


『人は運命の赤い糸からは逃れられない!』


『僕とハニーが結ばれたようにね!!』


 鞭の先端はツミキの後方に飛び、そこから()()に折り返して再びツミキのロッホを追撃した。


「直角に曲がった!? ——ツミキッ!!』


 プールの心配をよそにツミキは直角な軌道で追撃してきた鞭を、


 ザッ。


 と、意に介さず躱した。鞭は空を切り地面を破壊する。


『へ?』


『あの軌道を避けた!?』


 心能“危険信号”。


 ツミキ・クライムは相手の殺意を×印で認識することができる。半径25メートル以内にある殺意を察知し、脳内にその殺意を中心とした映像が流れる。×印の色は赤、黄、青、紫の四色あり、紫→青→黄→赤と変色し、赤になって一秒未満に殺意は実行される。


……端的に言うならば、殺意さえこもっていれば相手が自分のどこを狙ってどのタイミングで攻撃するのかわかるということだ。


 終着点さえわかっていれば過程(軌道)が変則的だろうと関係ない。


『ダーリン!』


『わかってる!』


 鞭の攻撃が加速する。


 縦横無尽に、ロッホを囲うように放たれる攻撃。例え予見しても躱せない範囲攻撃だ。だが、ツミキは一歩も引かなかった。


(なんだろう。左目の視力がなくなった分、危険信号が良く見える)


――まるで。


(左目に“心能”が宿った気分だ)


 正面からの一撃を半身傾けて回避、背後からの攻撃をノールックで屈んで避ける。左下の死角から顔面めがけて飛んできた攻撃はさらに加速することで回避、天空から突き刺すように曲がってきた鞭は機体を回転(ロール)させ躱し切った。鞭の結界をツミキはくぐり抜ける。


 その有様にケイン・マッケルは手に持っていたワイングラスを落とした。


「なんだと……?」


 実力のあるパイロットだからこそわかるツミキの異常性。コモンとシンラもケイン同様に驚きを隠せなかった。


(今、見ないで躱した? 技術……違う、アレは)


「技術じゃない。もっと異常な何かだ……」


 だがどれだけ避けても避けきれない攻撃はある。量産型の限界、発展型が本気で攻撃を仕掛ければどれだけ攻撃が見えても限界はある。しかし、


(避けれない攻撃は避けない!)


 ツミキのロッホは右手にレイピアを持つ。


(危険信号の位置、色、向き。今相手が持っている鞭の動き、機体の状況、手にある全ての情報から未来を予測するんだ!!)


 左目に映る赤、黄、青、三色の×印。


 ツミキの脳が加速し、敵の攻撃の未来、その欠片を脳に焼き付ける。


「ここだ!」


 ヒュン、ヒュン。とロッホのレイピアの突きが襲い掛かってくる鞭の軌道をズラした。軌道をズラされた鞭はロッホの後方で交差し、片方は地面へ、片方は空へ飛んでいった。


『私たちの愛の包囲網を避けきった!?』


『な、なんだこのパイロット!?』


 鞭の遠心力に引っ張られ怯んだ発展型二機。その隙をプールは見逃さなかった。


(これが“危険信号”、ツミキの力か。直で見るのは初めてだけど、まさかここまでとはね)


 三機から距離を取ってプールはライフルの標準を絞る。


(ツミキ、例え何もしなくてもアンタは――)


 ガンッ! という音を聞いてようやくアルベルト(兄)は自機が撃たれたことに気づいた。


(しまった! コイツに気を取られてもう片方を忘れていた!)


前線(そこ)にいるだけで価値がある!!」


 時として一歩も動かずに勝負を決定づける駒がある。ただそこにいるだけで相手をけん制し、自軍を守る駒が――


 ツミキ・クライム。彼はただ前線で相手の攻撃をいなし続けるだけで価値がある。撹乱の一番槍、最前線の相手がいつまでもいつまでも残り続けるのは相手にとってかなりのプレッシャーになり油断を誘う。隙ができれば技巧派のプールがすかさず隙を突く。今日はじめて合わせた二人の連携は会場を虜にした。


『ダーリン、赤い糸(ラブ・ウィップ)を!』


 さきほどプールが狙ったのは黒の発展型、その右手だ。


 恐らくコックピットを撃った所で一撃じゃ足りない、武器の差がでかすぎる。だから、プールはまずその差を埋めることにしたのだ。


「鞭を拾え、ツミキ!」


「はい!」


 アルベルト(兄)が落とした鞭をツミキのロッホが拾い、そのまま二機の間をすり抜ける。


『これが狙いか!』


 途中、背後から追撃が来るがツミキは目もくれずに鞭も銃弾も躱した。


『だからなんなんだこの回避能力は!!』


 シーン……と会場は静まり返った。


 観客は全員先陣を切ったロッホの動きに目を奪われている。そんな中、ツミキの動きに一番驚いたのは“危険信号”を知っているはずのサンタとプールだ。


(心能だけであの動きはできん! こやつ――)


(成長している。心能抜きに、純粋にパイロットとしてのセンスがある)


 また一方的な虐めになるとほぼ全員が思っていた。にもかかわらず、予想を裏切る挑戦者の善戦。落胆しているわけではない、例え相手が誰であろうと鍔迫り合いの戦いは見ていて面白い。


 観客は待っている。『まだ、まだ騒ぐ場面ではない』と。興奮を弾けさせる瞬間をただただ待っている。


「あらあら、アナタの部下。やばいじゃなぁい♡」


「御冗談をミス・ペガ、あの兄妹はここからですよ。なんと言っても奴らは世にも珍しい“発芽型”の心能の持ち主……」


 アルベルト兄妹は目を伏せ、()()を始めた。


『思わぬ来訪者ね。ダーリン』

『ああ。どうやら僕らの絆の力を見せる時が来たようだ』


 プールは発展型からただならぬ威圧を感じ、ツミキを下がらせる。


「ツミキッ!! 気を付けろ、なにかやばいぞ!」



――交信中……交信中……



“聞こえる? ダーリン”


“もちろんさハニー。やっぱり僕らの絆は絶対だ”



 特別。という意味では危険信号よりも特別かもしれない。彼らが持つ心能、その名は――


(ココロ)(ノレリ)――!』


『意思交わる!』


『『心能“以心伝心”ッ!!』』


倍率は適当です。

感想もらえると嬉しいです( ´艸`)

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